「新年の誓い」に筋トレを 特に40代以上におすすめ
スポーツコメンテーター フローラン・ダバディ
読者の皆さんは「新年の誓い」を立てただろうか。年末年始の休みを挟み、心身をリセットできる新年は目標を設定するのに最適な時期だ。新しいことに挑戦したい人がいたら、「筋トレ」をお薦めしたい。

アメフト部に入り、10代で筋トレに目覚める
体が細いのでそう見えないかもしれないが、僕はなかなかの「ジムオタク」だ。事始めは16歳のとき。フランス人なのにアメリカンフットボール部に入り、72キロの体重を80キロに増やす必要に迫られた。19歳で留学した米ロサンゼルスでジム文化に親しみ、スポーツジャーナリストになってからは、プロスポーツのフィジカルコーチなど専門家からトレーニングの話を聞く機会に恵まれた。僕はいまでもフットサルをプレーしている。屈強な人に当たり負けしない肉体をどうすれば得られるか。知的好奇心と実践的な必要に駆られ、日本でも様々なタイプのジムを渡り歩いてきた。
新型コロナウイルスの感染が拡大しているこの時期、ジム通いに抵抗のある人もいるだろう。だが、閉じこもりがちな毎日には気分転換や運動も必要だ。ソーシャルディスタンスやマスクなど基本的な対策さえ怠らなければ、ジム通いのリスクは繁華街への外出よりずっと低いだろう。利用者が離れてしまった多くのジムは新規顧客の開拓を目指し、大幅な値下げや入会費無料キャンペーンを打ち出している。ジム通いを始めやすい条件は整っている。
興味があっても、数あるトレーニングやジムのどれが自分に合うのか分からないという人もいるはずだ。大まかにいうと、筋トレ(専門家たちは「ストレングス・トレーニング」と呼ぶ)は筋肉をつけることを目指すものと、パワーを求めるものに分かれる。「筋肉=パワー」と思われがちだが、ふたつはセットとは限らない。彫刻のようなムキムキのボディービルダーよりも、細身のアスリートの方がパワーを秘めているというのは珍しくない。
ファンクショナルトレーニングで猫背も矯正
筋肉をつけたいなら、王道はボディービルディングやパワーリフティングとなる。マシンを使ったウエートトレーニングで筋肉増強を図る。最もイメージしやすいタイプのジムで、東京都内なら「HERO GYM」や「ゴールドジム」が有名だ。公営のトレーニング施設でもいい。サボらず通い、オーソドックスなメニューを黙々とこなすのが苦にならない人に向いている。

ウエートトレーニングに比べて見た目の変化は地味でも、遊び心のあるトレーニングや、スポーツをするときのパフォーマンス向上を目指すなら「ファンクショナルトレーニング」が適している。ボディービルディングのようなマシンは使わず、バランスボールやバランスディスクなどを使った腹筋、背筋、体幹の強化やバランス感覚の向上に重点をおく。個人の体格に合わせたメニューを組み、「テニスのサービスを改善したい」といったピンポイントの目的にも役に立つ。都内なら競泳の北島康介さんもプロデュースに携わった「FLUX」、サッカーの長友佑都選手がオーナーの「CUORE ONE」などがこのカテゴリーの代表的なジム。デスクワークが続いてひどい猫背になった僕も、CUORE ONEに通って矯正した。
筋肉や関節の柔軟性をアップさせ、若々しい体を保ちたいなら、「ワールドウィング」が提唱する初動負荷トレーニングがある。イチローさんや50歳までプレーした元中日の山本昌さんらも通ったジムだ。本拠地は鳥取だが、全国各地に施設がある。
このほか、機械を使って筋肉を電気刺激するEMSや加圧トレーニングなどもある。ただこのカテゴリーは、人間がトレーニングをするというより、マシンがメインという印象がある。効果はあるのだろうが、個人的にはもうひとつ愛着がわかない。
40過ぎて、たんぱく質・野菜摂取も意識
ここに紹介したのは代表的なものだけだが、どれかがほかより優れているということはない。各自の好みや目的に照らし、最もヤル気になるトレーニングを選べばいいのである。ちなみに、パーソナルトレーナーを推奨するジムも多いが、僕はつけるにしても最初だけでいいと考えている。基本さえ学んでしまえば、後は本人の熱意次第。最近はYouTubeでも知識を得られるし、そこまでお金をかけなくても、疑問点だけを詳しい人に聞けば事足りる。
日本では筋トレというと若者のやるもので、中年以上のトレーニングはランニングや自転車といった有酸素運動が中心というイメージがある。しかし本来、筋骨の鍛錬が必要なのは若者よりも、放っておくと衰えていく僕たち40代以上の世代だ。心臓や脳を活性化する有酸素運動と並行して、ぜひとも筋トレに目を向けてほしい。付け加えると、年を取るにつれて食事面への配慮も一段と大切になる。40歳を過ぎると毎日、体重に1.5グラムを掛けたプロテイン摂取が推奨されている。70キロの人なら105グラムだ。僕も良質なタンパク質や野菜を積極的に摂取するよう意識している。

僕はトレーニングの専門家ではなく、愛好家にすぎない。しかし筋肉の活性化が、ある種の陶酔感、恍惚(こうこつ)感をもたらすことは経験的に知っている。人間の体は木のようなもの。幹に該当する骨や筋肉に良い刺激があれば、心も体も伸びていくのは当然なのだ。
新しい習慣が根付くには2カ月かかるという。最初は慣れないかもしれないが、だまされたと思ってまずは2カ月続けてみてほしい。春になる頃には、筋トレの魅力を感じられるようになっているはずだ。