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牡馬を寄せ付けずGⅠを席巻 牝馬はなぜ強い

 引退レースのジャパンカップを制し、国内外GⅠ9勝目をあげたアーモンドアイ=共同

2021年の競馬が5日の中山、中京で幕を開けた。まだ昨年の記憶は生々しく、振り返れば牝馬の強さが際立った1年だった。中央競馬の年間10の古馬の芝GⅠ競走で、牝馬は9勝。天皇賞・春(優勝フィエールマン)を落としただけだった。しかも、このレースに出走していた牝馬は、2勝クラスという格下のメロディーレーン1頭。一方、高松宮記念は1位入線のクリノガウディーが4着に降着となっており、実質8勝となるが、勝負になる牝馬がいたレースはほぼ席巻した。なぜこうも強いのか?

アーモンドアイなど3頭で混合GⅠを7勝

好成績に貢献した顔ぶれを見てみよう。まずは、昨年の競馬のハイライトと言えるジャパンカップ(東京)を制したアーモンドアイ。5月のヴィクトリアマイル、11月1日の天皇賞・秋と得意の東京でGⅠタイトルを重ね、天皇賞の時点で国内外GⅠ8勝という最多記録を達成。引退レースとなったジャパンカップではコントレイル、デアリングタクトという牡牝の3歳三冠を無敗で制した2頭の挑戦を退けた。

昨年の安田記念(同)で、アーモンドアイに土をつけたのが1歳下のグランアレグリア。出遅れたアーモンドアイを尻目に、中位から早めに抜け出す堂々の内容で、最後は2馬身半差。秋もスプリンターズステークス(中山)で、道中16頭中15番手の絶望的な位置から豪快に差し切った。続くマイルチャンピオンシップ(阪神)も、直線で苦しい態勢から最後によく伸び、GⅠ3連勝を飾った。

 マイルチャンピオンシップでGⅠ3連勝を飾ったグランアレグリア(右端)=共同

クロノジェネシスは宝塚記念、有馬記念とグランプリを連勝。GⅠ初勝利だった19年の秋華賞(京都)がやや重で、渋った馬場が得意という特徴を20年も生かした。レース直前の降雨で馬場が悪化した宝塚記念では、2着キセキに6馬身差の圧勝。有馬記念も2分35秒0という今世紀で3番目に遅いタイムの決着を勝ちきった。この3頭で牡牝混合GⅠ9勝中7勝を稼いだ。

有馬記念4着を最後に引退したラッキーライラックも、大阪杯(阪神)でクロノジェネシスを抑えて優勝。やはり有馬記念がラストランだったサラキアは、11番人気で2着と大健闘した。牝馬が1、2着を占めたのは、有馬記念史上初。07年までの52回でわずか3勝と、有馬記念は牝馬に厳しいレースだったが、08年のダイワスカーレット優勝を境に最近13年で4勝。すっかり様変わりした。

 有馬記念優勝のクロノジェネシスと2着のサラキア。牝馬の1、2着独占は史上初だった=共同

名前を挙げた5頭は、国内最強のノーザンファーム(NF)生産で、NFと関係の深いクラブ法人の所有。19年に両グランプリとオーストラリア伝統のGⅠ、コックスプレートを勝って年度代表馬に選定されたリスグラシューも属性は同じだ。

国内生産界ではかつて、高く売れないため牝馬の評価は低かった。だが、NFをはじめとした社台グループは、引退後の生産基盤になる牝馬の育成に力を入れており、牝馬限定GⅠでは他のカテゴリー以上に、存在感が目立つ。長期的な育成策の成果といえる。

牝馬の体格向上、外部牧場活用も効果

近年の牝馬の活躍の一因として、アーモンドアイを管理していた国枝栄調教師(65、美浦)は、体格の向上を挙げる。実際、同馬は昨年のジャパンカップ優勝時が 490㌔で、デビューから18㌔増。グランアレグリアはスプリンターズステークス優勝時が自己最高の 504㌔で、デビュー戦から46㌔も増えた。クロノジェネシスは19年のオークス3着時が 432㌔だったが、昨年の有馬記念当日は474㌔。ラッキーライラックは有馬記念当日が 522㌔(最大 524㌔)だった。昨今、牡馬の 500㌔台は当たり前だが、牝馬も大型化し、「体力負けしなくなったのでは」と国枝調教師はいう。

もう一つ挙げられるのは臨戦過程の変化だ。アーモンドアイは3歳時の桜花賞から12戦連続でGⅠに出走。グランアレグリアも19年以降の7戦中6戦がGⅠである。両馬とも福島県のNF天栄で長い期間を過ごし、レース3~4週前に美浦トレーニングセンターに戻ることが多かった。

一般的に牝馬は、トレセンに入るとレースが近いことを察して食が細り、実戦でも力を出し惜しみしないとされる。その分、レース後のダメージも大きく、連戦ならそれが蓄積することになる。その点、トレセンと外部牧場の往来は格好のガス抜きとなり、牝馬向きの手法と言える。回復と実戦に向けた調教の両面で、外部牧場の役割は大きくなる一方だが、GⅠのみを狙う臨戦過程が増えたことでノウハウの蓄積も進み、仕上げの精度は上がった。

牝馬が強くなったことで、競走のあり方も変わってきた。現在の体系では、有力な牝馬は3歳三冠の後、エリザベス女王杯から年長馬と合流し、4歳の前半はヴィクトリアマイルを目指すことを想定している。だが、18年のアーモンドアイ、昨年のデアリングタクトは3歳でジャパンカップに挑んだ。4歳以降も、宝塚記念や天皇賞・秋、有馬記念に参戦する例が増えた。その結果が「10戦9勝」で、昨年は牝馬全体で延べ39頭が牡牝混合GⅠに出走して9勝2着4回。連対(2着以内)率は33.3%で、牡馬の6.2%を大きく上回る。牡馬がやられ通しだった1年を象徴する数字である。

コントレイルは牡馬のスター候補

牡馬勢はコントレイルが無敗で3歳三冠を達成するまで、ディープインパクト、オルフェーヴル級のスターがなかなか出なかった。キタサンブラックはGⅠを7勝したが、同世代の15年二冠馬ドゥラメンテに3戦3敗だった点が痛い。07年のウオッカのような例を除けば、3歳三冠路線には基本的に牝馬は参入しないが、16年以降は傑出馬不在の混戦が続き、三冠レースの後に年長馬と合流すると、牝馬相手にも苦戦した。ジャパンカップではアーモンドアイに敗れたが、コントレイルが牝馬の勢いを止められるかが今年の見どころだ。

牡馬のスター不在は、生産界にとって望ましい状況ではない。血統背景にもよるが、スターホースは引退後、高額の種付け料を稼ぐ種牡馬となる。1年に3桁の子が生まれ、一種のブランドとして市場を先導する。だが、牝馬が繁殖馬として一生の間に産む子は多くても15頭程度。牡馬が活躍した方が潤う構造である。

負担重量の見直し論も出てきそうだ。日本では3歳以上のレースの場合、牝馬が牡馬より2㌔軽い負担で出走できる。牝馬上位の傾向が際立つ中、2㌔の差は大き過ぎるとの声も出始めた。国枝調教師も「世界的な傾向を見極めた上で、削減することもあり得るのでは」と話している。

(野元賢一)

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