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西武一筋の栗山、球団愛と人間性で2000安打の高みに

スポーツニュースの収録の時だったか、テレビ局で若かりし西武・栗山巧と話したことがある。「これだけの体をしていたら、もっとホームランを打てるよ」。年間の本塁打数が1桁だったシーズンの途中だった。身長177㌢と上背はあまりないが、体重は85㌔。がっしりした体から、もっと飛ばせるはず、と思っていた。

本人の答えは、一発への欲とは無縁のものだったと記憶している。本塁打より打率、自分は中距離ヒッター、という考えだったのだろう。4日の楽天戦で史上54人目の通算2000安打を達成した。堅実に安打を重ねるスタイルを貫いてきたことは正解だったようだ。自分というものをしっかり持ち、偉業を成し遂げたことに賛辞を贈りたい。

西武の生え抜きで2000本に到達したのは栗山が初めてだという。西鉄時代などを含め、あれだけ歴史のある球団で、優秀な選手も多くいたことを思うと意外だ。西武でプロ生活をスタートし、他球団に移って2000安打を達成した選手なら秋山幸二や清原和博、和田一浩、松井稼頭央がいる。

1985年から2年間西武に在籍した私としては、これまで古巣に生え抜きの2000安打選手がいなかったのは少し寂しい気がする。寂しいといえば、私が知る限り西武にはOB会がない。西武で一緒にやっていた連中と顔を合わせる機会がないのはなんとも残念だ。

プロ入り時からお世話になった中日と、現役生活の晩年に在籍した阪神にはOB会がある。活発なのは中日。昨年は新型コロナウイルス禍でできなかったが、それまではOBと現役選手らが毎年、交流を深める会が設けられ、これはという活躍をした選手をOB会で表彰してきた。

私が琉球ブルーオーシャンズのゼネラルマネジャー(GM)をしていた際、中日でプレーしてきた亀沢恭平らを獲得した。その年の中日の会合で球団社長があいさつして「うちの選手が田尾さんのところにお世話になることになった」と話した。既に辞めている選手を「うちの選手」と言ったところに優しさを感じ、温かい球団だなと思った。

会合があれば自然と中日OBと会う機会も増える。昔話に花を咲かせたり、チームの現状についてあれこれ話したり。話題の中心にドラゴンズがあるので、当然チームへの愛着は強い。はたして西武はどうかというと、同窓会のようなものがないので、球団とのつながりを感じにくいのは確かだ。

西武ファンの皆さんは栗山の快挙を喜ぶ一方で、複雑な思いも抱いているのではないか。本来なら秋山らがとうの昔に生え抜きで2000安打を達成していたはずなのに、と。チームリーダーとして黄金期の西武を引っ張った石毛宏典は通算1833安打で引退しているが、ダイエー(現ソフトバンク)に行かず西武に残っていたら、確実に2000本に届いていただろう。

秋山は佐々木誠らとの3対3のトレードでダイエーに出され、石毛は自軍監督就任をもくろむ西武球団から戦力外通告を受けたのを不満に思い、新監督のオファーを蹴ってフリーエージェント(FA)でダイエーに移った。ただ、石毛や秋山は西武の「顔」。そういう人は西武の選手のまま辞めてもらいたかったと、私でさえ思う。

看板選手を簡単に手放す球団の姿勢は「選手に冷たい」という評価につながった。後に涌井秀章、岸孝之、浅村栄斗ら主力が次々にFAで西武から出ていったのは、そういうところが背景にあったのかもしれない。私が西武退団後に感じてきた寂しさともつながるような気がする。

ただ、最近は西武球団の姿勢が少しずつ変わってきたように思う。渡辺久信がGMに就任したことが大きいだろう。長く西武のエースとして活躍し、戦力外通告を受けるとヤクルトに移籍。やがて活躍の場がなくなると、今度は台湾に行った。選手や指導者として異国の文化に触れ、チームに溶け込んでいくのは大変だったろう。

そうやってよその釜の飯を食い、苦労してきたことが、監督として西武に戻った時に生きた。2008年に就任し、いきなりリーグ優勝と日本一を達成。青年監督が兄貴分の立場で中島裕之(現宏之)、栗山ら生きのいい若手を率いるさまは、新生西武の名にふさわしいものだった。

監督を退任後は編成責任者に就任。現在はGMとしてチーム整備に努める一方、雰囲気のいい集団をつくることを重視しているようにみえる。そんなアニキの姿勢を意気に感じたのか、FAで他球団に移ることなく西武一筋でやってきたのが38歳の栗山であり、同学年の中村剛也だ。

渡辺の場合は色々な球団を渡り歩いたことが彼自身の血肉になった。ただ、理想は初めに入った球団で現役生活を全うすることだと思う。そのためには渡辺のような苦労人が野球人、社会人としての心得を選手に伝えることが大切。その点、栗山と中村は西武に入って今年で20年目だが、実績を鼻にかけたり、てんぐになったりするところが一切ない。栗山の2000安打や中村の400本以上の本塁打は、打撃の技術はもちろん、彼らの人間性が打たせたものだと思う。

「プロでやりたい」というアマチュア選手はごまんといる中、「この球団でやりたい」とこだわりを持つ選手はそう多くはないかもしれない。そこで「西武が第1志望です」と言う選手がいれば、球団もファンもうれしいもの。一つところに居続けた栗山が大輪の花を咲かせた事実が、様々な人の関心や愛着を呼ぶきっかけになればいい。OBの端くれの切なる願いである。

(野球評論家)

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