サッカー日本代表、高まる「3バック」の経験値
サッカージャーナリスト 大住良之

一瞬、「デジャヴ(既視感)」を感じた。ワールドカップ・カタール大会のグループリーグ突破をかけたスペイン戦。日本代表は初戦のドイツ戦に続き、前半1点を先制されながらも粘り強く対応し、後半にはいって一挙に攻撃のスピードを上げ、2-1で逆転勝ちした。
ドイツ戦と同じだったのはスコアだけではない。前半は一方的に押しまくられ、まともにパスも通らない状況だったのが、後半に選手交代を使って思い切った攻勢に出て逆転に成功したのだ。その主役が三笘薫、堂安律ら交代ではいったアタッカーたちだったのも同じ、選手交代で次々と布陣を変えながら全員がよくそれに対応した。
ドイツ戦勝利の喜びを帳消しにするようなコスタリカ戦の敗戦で、日本は苦境に立たされていた。ドイツがコスタリカに勝つと仮定すると、日本はスペインに引き分けても2位以内を確保できるかどうかという状況だった。この困難な状況を見事な逆転勝ちで乗り越えた日本。「ラウンド16」の相手はF組2位のクロアチアだ。
クロアチアは大会初戦でモロッコと0-0の引き分け。続くカナダ戦はいきなり先制点を奪われたが、前半のうちにFWクラマリッチ(ホッフェンハイム)とFWリバヤ(ハイデュク・スプリット)の2得点で逆転に成功し、後半25分にクラマリッチが3点目、アディショナルタイムには交代出場のマイエル(レンヌ)がダメ押し点、4-1で快勝した。そして最後のベルギー戦で相手の猛攻をしのぎ、0-0の引き分けに持ち込んで2位を確保した。
チームの大黒柱はなんといってもレアル・マドリードの中心選手であるMFモドリッチである。小さく細いが、圧倒的なテクニックとチャンスをつくる力をもっており、得点力も高い。中盤はMFブロゾビッチ(インテル・ミラノ)を「底」に置き、モドリッチとMFコバチッチ(チェルシー)が前に並ぶ「逆三角形」。このチームを動かす重要な「動力源」である。中盤での戦いで後れをとると、またドイツ戦やスペイン戦のように守勢一方ということになりかねない。

日本はここにきて酒井宏樹、冨安健洋、遠藤航ら故障者が相次ぎ、まだまだトップフォームに達していない守田英正など、コンディションが上がりきっていない選手を数多くかかえている。スペイン戦では冨安と遠藤を時間限定で使い、それが功を奏したのは幸いだったが、チームがベストの状態からほど遠いのは確かだ。また、これまでセンターバックとして奮闘してきた板倉滉が警告の累積で出場できないのも大きな痛手だ。
就任直後から森保一監督が掲げてきた目標が「ベスト8以上」。「日本のサッカーの歴史をつくり、新しい景色を見る」ということだった。ドイツとスペインに勝ったことで、クロアチア戦はその目標に直接挑戦する試合である。
この試合に日本はどう挑むのか。今大会の流れからすれば、「3バック」でスタートすることになるのではないか。
サンフレッチェ広島時代からの森保監督の「看板」は、恩師であるミハイロ・ペトロビッチ監督(現在コンサドーレ札幌監督)の流れを引く3バックだったが、日本代表監督に就任してからは一貫して4バックで戦ってきた。何度か3バックを試したがうまくいったことはなかった。しかし大会直前のカナダ戦で終盤に採用した3バックが攻撃力を強化したことで、この大会に向けての大きなヒントを得た。
ドイツ戦では、前半ドイツのパスに振り回されると後半は3バック(5バック)に変更して守備を安定させ、さらに「ウイングバック」と呼ばれるサイドのMFを入れ替えることで一挙に攻撃力も増した。逆転成功のカギは3バックの採用だった。
3バックでは、「センターバック」タイプの選手を中央に3人配置し、守備時にはその外側のスペースを両サイドの「ウイングバック」が埋めて5人のラインとなる。そのウイングバックに誰を使うかで、攻撃的にも守備的にもなる。ドイツ戦では最初は「サイドバック」の酒井と長友佑都だったが、まず長友に代えて三笘を投入して左からの攻撃を強化、さらには酒井に代えて南野拓実を投入、スピードドリブルを武器とする伊東純也を右のウイングバックに据えた。堂安の同点ゴールが生まれたのはその直後だった。
スペイン戦では、1試合この3バックで推移した。やはり選手交代によって「守備バージョン」と「攻撃バージョン」を使い分け、最後には右ウイングバックに冨安を投入して「守備バージョン」に戻すという手の込んだ采配だった。

ワールドカップの3戦を通じて、間違いなく選手たちは3バックに手応えをつかんでいる。スペイン戦に向けての準備では、森保監督は当初は4バックでスタートすることを考えていたが、選手たちの意見を入れて3バックに変更したらしい。
クロアチアは、たしかにドイツやスペインのような「横綱級」ではない。しかし国際サッカー連盟(FIFA)ランキング12位は、ドイツ(11位)とほぼ同格と言える。しかも前回、2018年ロシア大会の準優勝国でもある。けっして日本が簡単に勝てる相手ではないのだ。
しかしグループリーグ突破の重圧を克服し、3バックに手応えをつかんだ日本代表である。ドイツ戦やスペイン戦のような「前半は死んだふり」のようなサッカーにはならないだろう。相手の攻撃を受け止めつつ、ボールを奪い返したらしっかりとした攻撃ができると期待される。
「ベスト8目標」なら、この試合がその「決勝戦」である。チームの力を結集し、今大会で初めての「先制点」を奪い、しっかりと試合を進めてほしいと思う。
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