女子ゴルフ、変わる勢力図 22歳以下が14戦中10勝
編集委員 吉良幸雄

新型コロナウイルスの感染拡大により23試合が中止となり、14試合の開催にとどまった2020年の女子ゴルフツアーは、原英莉花(21)が最終戦のJLPGAツアー選手権リコー杯(宮崎)で4日間首位を突っ走り、完全優勝を果たした。10月の日本女子オープン(福岡)に次ぐ国内メジャー2連勝は、昨年、日本女子プロ・コニカミノルタ杯、日本女子オープンを制した同じ1998年度生まれの「黄金世代」畑岡奈紗(21)に次ぎ史上11人目(1988年ツアー制施行後)の快挙だ。
昨季の平均飛距離253.33ヤード(4位)の名うてのロングヒッターは、これまでショートゲームに難があったが、師匠のジャンボ(尾崎将司)直伝のアプローチやパットがレベルアップ。難しいコースセッティングのメジャー大会に生きた。コロナ禍による長いオフは千葉市内にあるジャンボの私設練習場やコースでトレーニング、練習に精勤。利き手でない左手を使っての食事や歯磨き、左手1本での球打ちなどもときどきやっているそうで「技術向上につながると思う」と話した。

日本女子オープンの決勝ラウンド、リコー杯4日間とも2人1組で「ツーサムは好き」という原には、もってこいの試合形式。目の前の相手との勝負に闘争心がかき立てられるらしく、計6ラウンドで5勝1分けとし、2連勝につながった。今年の自己評価は「81点」。14試合で3回予選落ち(ほかに大王製紙エリエールは右膝痛で棄権)したことが減点材料で「波の荒さを痛感。果敢に攻めながら、安定して成績を残せるようにしたい」と課題を口にした。
ミレニアム世代、黄金世代に迫る勢い
黄金世代は昨季、39試合のうち渋野日向子(22)の4勝を筆頭に計12勝し、新時代の到来を高らかに告げた。今季は2勝の原英のほか、小祝さくら(同)がゴルフ5レディース(岐阜)で勝ち、世代全体で3勝を挙げている。女子ツアーの若返りはさらに進み、2000年度生まれの「ミレニアム世代」が、黄金世代に迫る勢いで大活躍した。
ミレニアム世代のトップランナーが古江彩佳(20)だ。昨年10月の富士通レディース(千葉)で史上7人目のアマチュア優勝を飾り、直後にプロ転向すると、今季は9月のデサント東海クラシック(愛知)でプロ初優勝。11月の伊藤園(千葉)、大王製紙エリエール(愛媛)と2連勝し、今季最多の3勝をマークした。リコー杯で史上3人目の3週連続Vは逃したものの、ツアー史上2人目となる大会4イーグルの離れ業をみせて2年連続2位に。日の出の勢いで、20年を走り抜けた。

153㌢、54㌔と小柄で、飛ぶほうではない。しかし「正確性で勝負したい」というショットは安定、小技も巧みだ。フェアウエーキープ率は4位(75.61%)、パーオン率は7位(73.45%)で平均パット数は8位。実力のバロメーターである平均ストローク(70.10)のほか、リカバリー率、パーセーブ率とも1位である。コースマネジメントにもたけ、ゴルフに粗がなく、総合力がかなり高い。3勝のほか2位も3回あり、トップ10入りが14試合中7試合と5割を誇る。デサント東海はプレーオフ1ホール目にウエッジで20㌢に、伊藤園は同3ホール目で7番アイアンの第2打を30㌢につけ熱戦にけりをつけるなど実に勝負強い。
3歳からゴルフを始めた古江は、兵庫・滝川二高時代から日本ゴルフ協会(JGA)のナショナルチームのメンバーとして、同級生の安田祐香(19)らと活躍。高校を卒業した昨年、6月のリゾートトラスト(静岡)で優勝争いし3位に入るなど、ツアーでも好成績を残すと、富士通女子でアマ優勝、一気に花開いた。今季の賞金ランクは笹生優花(19)に次ぐ2位(9050万円)、各大会の成績をポイント換算したメルセデスランクではトップに立つ。
古江、東京五輪代表の有力候補に名のり
快進撃で世界ランクは渋野、鈴木愛(26)をかわし日本勢2番手の15位に躍進。21年東京五輪代表の有力候補に名のりをあげたが「(五輪の)チャンスは増えたな、という感じはしている。一つ一つの試合を頑張っていけば」とおっとり口調で語る。コースに向かう車中では大好きな浜崎あゆみの歌を聴き、大会前には験担ぎにとんかつを食べるのが常。「(調子は)ぼちぼち」と笑いながら、集中力を研ぎ澄ませている。つかみどころのなさ、マシンのような抜群の安定感は00年から6年連続賞金女王に輝き一時代を築いた不動裕理をほうふつとさせる。
ミレニアム世代では、大阪・大商大高出身で今季プロデビューした西村優菜(20)もツアー初優勝を飾っている。国内メジャーの日本女子プロ(9月)で最終日首位発進から7位に敗れた苦い経験を糧に、1カ月半後の樋口久子・三菱電機レディース(埼玉)で、黄金世代の勝みなみに6打差逆転勝ちした。

西村も150㌢、50㌔と小柄だが、平均パット数4位とパット巧者だ。JGAナショナルチームでは、オーストラリアから招いたガレス・ジョーンズコーチが「スコアメークにはショートゲーム」とアプローチ・パットに練習時間の65%、ショットには35%を割くよう指導。ダンロップフェニックスでプロ初優勝(ツアー2勝目)した男子の金谷拓実もそうだが、「ジョーンズ・チルドレン」は小技が優れている。賞金ランク7位につける西村は「想像以上の結果。優勝もあったので60点。ショットの修正とショートゲームの引き出しを増やすのが課題」とデビューイヤーを総括した。
20年はほかにも、男子並みのヘッドスピードで衝撃を与えた新人・笹生が2勝、「黄金」と「ミレニアム」のはざま世代の稲見萌寧(21)が1勝し、14試合中、22歳以下が10勝と女子ゴルフ界の勢力図は大きく塗り替わった感がある。10日開幕の全米女子オープン(テキサス州)に出場する日本勢18人のうち「アンダー22」は12人の大陣容だ。原英は「今の自分で戦えるように、調整しないと」、古江は「結果は全然望まない。自分なりのプレーができれば」と抱負を語った。20年の海外メジャー最終戦で、エース畑岡をはじめアンダー22がどんなプレーを見せるか、興味は尽きない。