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人知超える山のまさか 天候急変に備え、最悪イメージ

富士山麓での2年前のUTMFで2位となった梁晶選手㊨も5月のレース事故で亡くなった

5月22日に中国・甘粛省で開催された100㌔㍍のトレイルランニングレースで21人もの犠牲者が出た。原因は天候の急変による低体温症らしい。この事故では、私が実行委員長を務めるウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)2019年大会でみごと2位となった梁晶(リャン・ジン)選手も犠牲となった。

富士山麓を走る約160㌔のレースを走り抜いた表彰式のあとで「あなたのようにアジア人として世界で活躍できる選手になりたい」と熱く語ってくれた笑顔がいまも目に浮かぶ。素朴でいて意志の強い青年だった。間違いなく中国のみならずこれからのアジアを背負って立つランナーだっただけにやるせない。

今回の事故はいくつかの要因が重なり発生したと考える。まずは運営体制。中国では競技人口が増えたここ数年で、大会数も急激に増えた。そのため安全に配慮した大会運営の体制づくりが追いつかなかったかもしれない。次に地理的要因が考えられよう。この山域は荒天時に身を隠す樹林帯がない荒野。近年は温暖化が原因なのか、天気概況では予測のつかない天候の急変が頻繁に起こる。今回もその可能性は否定できない。

実のところ低体温症の事故は、こんな時期にこんな場所でこれほど多くの人が亡くなるのか、と意外に思う事故が多い。国内でも09年7月には北海道大雪山系のトムラウシ山で8人の犠牲者を出している。

私自身、かつて2度ほど生命の危険を感じたことがある。夏の日光白根山では、事前に調べておいた天気予報からみてもそれほど悪天候になるとは思えない日だった。海外の過酷な環境下のレースを何度も経験し、防寒、防水対策は万全だし、体温低下を防ぐために補給食をとりながらあえて動き続けるなど、低体温症への備えは十分なはず、だった。ところが想定外のすさまじい風雨に見舞われ、急激に体力を消耗した。もうろうとした意識の中でなんとか樹林帯へと逃げ込み、事なきを得たものの、完全に思考力が奪われ、風雨から身を隠すことさえできずにぼんやりとその場に立ち尽くしていた自分を思い返し、低体温症の怖さを垣間見た気がした。

また19年4月末のUTMFでは、レース中に突然雪が降り出した。幸い普段から非常事態に備え、山岳救助に精通したスタッフを集めて助言を受けていたおかげで、素早い大会中止の決断を下し、現場で疲れ果てた選手たちの搬送や救護作業に取りかかったボランティアやスタッフの臨機応変な行動により、大事に至らずに済んだ。日ごろから山岳レースのリスクを主催者と選手がともに共有、双方の対話を重ねてきたことが功を奏したともいえる。

いずれの場合もまさかこの時期にこのような悪天候に見舞われるとは、という状況。山では予測不可能な天候の急変に遭遇するのは当たり前と、頭の中ではわかっているはずなのに……。常に想像力を膨らませ、これまでの自分の経験や知識でたぶん大丈夫だろうではなく、最悪の事態をもイメージし準備しておく必要がある。中国の事故では、若い多くの命が失われた。彼らの犠牲を無駄にしないよう、アウトドアスポーツの安全啓発により一層努めることをここに誓う。

(プロトレイルランナー)

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