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普及進まぬ女子サッカー 新しいブームを生み出すには

サッカージャーナリスト 大住良之

1月の全日本高校女子選手権で優勝し、喜ぶ藤枝順心の選手たち。日本では女子選手が中学、高校とサッカーを続けるのは難しい現状がある=共同

前会長の失言(というより時代錯誤の思想か)がきっかけとなって、東京五輪・パラリンピック組織委員会の女性理事数が大幅に増えた。そしてそれだけでなく、さまざまな組織で「女性登用」に真剣に取り組まなければならないという空気が醸成されている。日本サッカー協会(JFA)も例外ではない。

2月18日に開催されたJFA理事会では、女性理事をどう増やすかという話題も出たという。現在JFAの理事は30人。うち女性は5人である。全体比17%。日本スポーツ協会の加盟117団体の平均11%(2018年10月調査)は上回るものの、スポーツ団体として目指すべきだとされている「男女同数」にはほど遠い。

だがこれでも、JFAに登録されている女子チーム数、女子選手数と比較すれば、「異常に多い」という割合なのだ。現在発表されている最新のデータである2019年度の女子チーム数(1326)は男子を含めたJFA全登録チーム数(2万7670)の4.8%、選手数(2万8598人)は全登録選手数(87万8072人)の3.3%にすぎない。

女子日本代表「なでしこジャパン」の女子ワールドカップ優勝(11年)で大きくクローズアップされ、ことしにはプロのWEリーグが始まるといっても、日本の女子サッカーはまだまだ「普及」が最大のターゲットであり、課題でもあるのだ。

昨季のプレナスなでしこリーグで優勝を決め、サポーターにあいさつする浦和イレブン=共同

JFAへの女子チームの登録は1979年に始まった。この年登録されたのは、52チーム、919選手。チーム数は26倍、選手数は31倍にもなったが、現状としては、日本のサッカーはいまも「男のスポーツ」なのである。11年の女子ワールドカップ優勝、翌年のロンドンオリンピック銀メダルの影響もあり、13年には、1409チーム、3万243人と、2年前と比較するとチーム数で11%、選手数で15%の伸びがあったが、翌年に11年のレベルに落ち、以後漸増してきているといった状態だ。

15年に発表した「なでしこvision」のなかで、JFAは「2030年までに女子の登録選手数を20万人にする」とうたっているが、その道は非常に険しいといわなければならない。

国際サッカー連盟(FIFA)が07年に発表した「Big Count 2006」という統計データによると、全世界の登録選手数は男子が2億3855万7000人、女子は2599万5000人。女子の比率は全登録選手数の9.8%ということになる。06年といえば、世界でもまだ女子サッカーに力を入れているところは少なく、現在のようなプロ組織などほとんどなかった時代だが、それでも現在の日本よりはるかに「普及」が進んでいたことになる。そしてFIFAは、世界のサッカー協会に対し、総登録選手の10%が女子選手になるよう、普及をうながしている。

米では登録選手の4割が女子

世界で最も女子選手数が多いのは米国で、登録選手数が167万人。全登録選手数の約40%にものぼっている。JFAの須原清貴専務理事は「10%というFIFAの目標どころではなく、男女平等の現在の価値観からすれば、男女同数が当然だと思う」と語る。「なでしこvision」の「20万人」もはるかに超える目標だが、15年以降の5年間の伸び率(1年平均で324人の増加)を考えれば、男子の選手数がまったく伸びないと仮定しても2500年(!)もかかってしまう。

女子チームや女子選手がなかなか増えない理由はどこにあるのか。一つは学校、なかでも中学校のクラブ活動に「女子サッカー部」がないことが挙げられる。指導教員の不足などから、女子サッカー部をつくれず、多くの中学校では従来男子だけだったサッカー部に女子選手を入れ、公式戦にも出場できる形にしている。しかし小学生年代はともかく、中学生年代になると急激に男女の体格・体力に差ができるなか、それでも男子に交じってサッカーをしようという女子選手たちは厳しい状態に置かれている。

一時、JFAはU-15(中学生年代)の女子チーム創設を支援する活動を展開し、数年間で100チームほどの増加をみたが、全国の中学校が約1万校というなかでは、「焼け石に水」のような状況といえる。女子中学生が学校の終業後スポーツに取り組むとしたら、中学校区単位ぐらいの地域ごとにその「場」がなければならない。こうした状況にないことが、小学生時代に取り組んできたサッカーを続けたいという女子中学生がその希望をかなえられない大きな要因となっている。

環境劣悪、狭く汚いトイレで着替え

もう一つはスポーツ環境の問題である。グラウンドはあっても、簡易トイレがある程度で、きちんとしたクラブハウス、清潔な更衣室やシャワー設備をそなえているところが非常に少ない。かつてサッカーは男子だけのスポーツだったから、外で着替えるのが普通だった。女子はそうはいかない。狭く汚いトイレで順番に着替えるなど、劣悪な環境は、この数十年間、ほとんど改善されていない。

もちろん、これはサッカーだけの問題ではない。しかしこうした状況が女子選手の増えない隠れた要因になっている。

国連が定めた「国際女性デー」に合わせ、JFAは3月8日を「JFA女子サッカーデー」と位置づけ、ことしも、全国のサッカー協会でさまざまな普及活動のイベントを企画し、JFA自体もシンポジウムなどを通じて普及活動とともに、いろいろな面で女性がサッカーと関われるよう、働きかけをする予定だ。

日本初のサッカー女子プロリーグ「WEリーグ」の参入クラブを発表する岡島喜久子チェア=同リーグ提供・共同

WEリーグができ、女子でもプロとしてサッカーを仕事にできるようになったことが、新しい「女子サッカーブーム」を生み出すかもしれない。しかし中学生年代の「受け皿」を増やすとともに、「社会問題」といっても過言ではないスポーツ環境の大改善が実現されない限り、「男子と同数」どころか、「なでしこvision」の目標に達することも、至難の業といっていい。

遠回りに思えるかもしれないが、まずサッカーをしたいという女の子を増やすこと、そして女性たちが安心してサッカーに取り組むことができるような環境づくりに、JFAが率先して社会に働きかけ、取り組んでいく以外にない。

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