国境閉鎖と盲導犬の危機 パラアスリートにも影響 - 日本経済新聞
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国境閉鎖と盲導犬の危機 パラアスリートにも影響

マセソン美季

アナステージア・パゴニスさん(16)は、東京パラリンピック出場を目指す米国の水泳選手だ。黄斑変性症を引き起こす遺伝性疾患「スターガルト病」により、14歳で全盲になった。

この夏、彼女の元に盲導犬の「レーダー」がやってきた。ニューヨーク州ブルックリンを本拠にする北米プロアイスホッケーNHLのアイランダーズが寄付を募り、子犬のころから育成を支援していた盲導犬候補生のうちの1匹。訓練を終え、アナステージアさんの元で盲導犬としての仕事を始めた。レーダーのおかげで自由と自立を手に入れた彼女は、一緒に東京へ行くことを楽しみにしながら、トレーニングに励んでいる。

カナダでも、やはり盲導犬が必要な20代のパラアスリートを私は知っている。9年間、彼女の目となっていた相棒犬が今年春に引退。新しいパートナーと出会う予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で思わぬトラブルに見舞われた。

カナダで活躍する盲導犬の多くは、米国のブリーダーから子犬の時にやってきて、最大2年間の訓練を受ける。しかし3月以降、米国とカナダの国境は、不要不急の旅行客に対し、閉鎖されたままの状態が続いている。盲導犬候補生も、米国からカナダに入国できなくなってしまったのだ。

このため、カナダでは深刻な盲導犬不足の危機に直面している。視覚障害者からの引き合いは膨れ上がり、改善の見通しはたっていないそうだ。しかも犬の特性や性格が、飼い主と合うよう就職面接のようなプロセスを経るため、早く手を挙げた人が必ずしも早く相棒に巡り会えるわけではない。

盲導犬が見つからなければ、トレーニングに集中することも、大会を目指すことも難しいと彼女は言う。コロナの状況が大幅に改善されるまで、世界最長の国境を閉鎖し続けるとカナダ政府が発表したばかり。厳しい状態は長引きそうだ。

盲導犬のトレーニング施設の閉鎖や長期休業のニュースも相次ぐ。選手のトレーニングはもとより、彼らを支える犬のトレーニングも、一刻も早く復活することを願っている。

マセソン美季
1973年生まれ。大学1年時に交通事故で車いす生活に。98年長野パラリンピックのアイススレッジ・スピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得。カナダのアイススレッジホッケー選手と結婚し、カナダ在住。2016年から日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。国際パラリンピック委員会(IPC)教育委員も務める。

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