21年のJリーグ、生き残りレースの中で「徳」に期待
サッカージャーナリスト 大住良之

2月の声を聞けば、Jリーグの開幕も間近だ。今季のJリーグは、「J1」20クラブ、「J2」22クラブ、そして「J3」15クラブがしのぎを削り、26日にJ1が、翌27日にJ2が、そして3月14日にJ3が開幕する。
J3では、2016年から5シーズン続いてきたFC東京、ガンバ大阪、セレッソ大阪の「U-23(23歳以下)」チームの出場がなくなり、宮崎県から初めてのJリーグクラブ、テゲバジャーロ宮崎が加わった。これでJリーグは、1993年に誕生したシーズンの「8府県10クラブ」から「40都道府県57クラブ」となった。現時点でJリーグクラブがない7県にも、Jリーグ入りを目指して地域に根差して活動しているクラブがあり、いうなれば「Jリーグ・ムーブメント」は、30年にしてほぼ日本中を覆った観がある。

さて、2005年以来一貫して18クラブで戦ってきたJ1が21年に20クラブに増えたのは、新型コロナウイルス禍で4カ月間もの中断を余儀なくされた昨季が影響している。「ともかく全クラブで協力してリーグ戦を完遂する」ことを目指し、昨年はJ1からJ2へ、またJ2からJ3への降格をなくしたうえに、2クラブずつを昇格させたからだ。たび重なる日程変更を経て、ともかくJ1からJ3までリーグ戦全1074試合をやり遂げることができたのは、「降格がない」という条件下で全クラブが協力し合った結果だった。
J1では、サガン鳥栖と柏レイソルに「クラスター」が発生し、それぞれ数週間試合ができなかった。名古屋グランパスの試合も、1試合延期になった。また「グループステージ」の第2節で止まっていたアジア・チャンピオンズリーグの残り試合が10月に、次いで11~12月に変更になったことで、出場3クラブの日程を2度にわたって大幅に変更しなければならなかった。ひどい「連戦」もあったが、ともかく全試合をやり遂げられたのは、奇跡といってよかった。それを可能にしたのは、「護送船団方式」ともいえるJリーグの方針だった。

だが今季は大きく様相が違う。J3からJ2へ、そしてJ2からJ1への昇格はそれぞれ2クラブと、昨年と同じだが、J1からJ2へ、そしてJ2からJ3への降格は、それぞれ4クラブ。どのクラブも「生き残り」を強く意識しなければならないリーグとなる。
そのうえ、昨年の鳥栖や柏のようにクラスター発生で数週間試合ができないというような状況になったときには、その試合は「0-3の負け」扱いされる恐れもある。
1月28日にJリーグは「公式試合の中止に関する対応について」というリリースを出した。それによれば、試合が中止になった場合にはこれまでと同様「代替開催日」を探すが、それが見つからなかった場合には、「みなし開催」として、それぞれの試合の結果を出すというのだ。
たとえば荒天などどちらのチームの責任でもない状況なら、「0-0の引き分け」、一方のチームの責任なら、責任のあるチームの「0-3の敗戦」、そして双方に責任がある場合には、ともに「0-3の負け」となる。そして「責任」の範囲には、新型コロナの影響で試合のエントリー選手を13人以上(GKを必ず1人含む)そろえられなかった状況も含むという。
昨年は、さまざまな理由で試合日程の変更を余儀なくされたが、たとえ相手クラブに「責任」があっても、どのクラブもまったく不満を表さず、誠心誠意代替日程を探し、協力し合って試合をこなした。だが今季は微妙な状況になる。
たとえば残留争いにかかわるクラブが相手の責任で試合ができなくなり、別の日程を探したとしよう。Jリーグのリリースには、「みなし開催」にするのは「代替開催日やスタジアムが確保できない場合」とあるだけ。無理すれば確保できる状況であっても、試合をせずに「3-0の勝利」が欲しいと考えるのは、「追い詰められた者」の人情というものだ。相手が上位なら大きな問題ではないかもしれない。だが相手も残留争いに絡んでいるチームだったら、試合ができるかできないか、最終的に誰が判断するのだろうか。
昨年秋の時点では、「21年には元どおりのJリーグに戻るのではないか」という期待があった。しかし年末から年始にかけての恐ろしいばかりのウイルスの猛威の前に、その期待はむなしくついえた。全国的にではないものの、再び「緊急事態宣言」が出され、それがいつ解除できるのかさえわからない。
21年のJリーグも、昨年に続き、「超厳戒態勢」化でのスタートを余儀なくされるだろう。感染状況が好転しなければ、開幕そのものが難しい状況に置かれても不思議ではない。

そのなかで、「4クラブ降格」という厳しい状況に置かれるJ1とJ2の42クラブ。だがそうした状況であるからこそなおさら、私は日本のスポーツの最前線のひとつと言っていいJリーグクラブの「スポーツとしての徳」に期待したい。試合をしないほうが明らかに利益がある状況でも、互いをリスペクトし、誠心誠意「試合の実現」に努めてほしいと思う。
もしかしたら、監督や選手たちは「代替日程案を受けないでほしい」と言うかもしれない。サポーターたちも、「譲歩して試合をして、負けるリスクを負うなんてばかげている」と言うかもしれない。しかし誰もが苦しんでいるこの状況のなかで、クラブは、スポーツの公明正大さを示さなければならない。
その試合をした結果、仮に降格することになっても、長い目で見ればクラブに大きなものをもたらすはずだ。「百年かけて理想を実現しよう」というのがJリーグである。わずか30年足らずの時点で目の前の利益に飛び付き、スポーツクラブとしての公明正大さを失うなら、そのクラブに「百年」はない。
護送船団方式の年ではないからこそ、クラブ同士の仲間意識と「スポーツとしての徳」に期待したいと思う。
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