日本、再び「ドーハの歓喜」 耐えてスペイン撃破

日本の忍耐がボールに通じ、ライン上にとどまってくれたのではないだろうか。
田中が挙げた日本の決勝点はビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)判定に委ねられた。三笘が左のゴールライン上から折り返したボールは、ラインにぎりぎりかかっていた。
前半を1点で耐えた日本の執念が報われたととらえたい。DFとGKの間に鋭いパスを送った堂安も、飛び込んだ前田の裏から駆けつけた三笘も、忍耐一筋ではないアグレッシブさが満々だった。
吉田を中心とした5人が最終ラインにきれいに並ぶ。相手の2人のCBだけは自由にさせて、ほかは各人ががっちり捕まえる。スペインはパスの出しどころを失い、攻めはスローダウンし、後方をボールがさまよう。
ボールはスペインに80%近く持たれた。なすすべなく一方的にやられているようで、これがスペイン攻略の最善の策なのだ。試合前日、選手らの意見をくんだうえでこの戦い方でいくと決断したという。ルイスエンリケ監督からすれば「ギャンブル」と映るこの戦術、スペイン代表やスタイルの似通うバルセロナが度々苦しめられている。

一瞬、モラタを自由にして奪われた早い時間帯での失点は誤算だったが、〝賭け〟の成否は、必ず巡ってくるであろう数回の隙をものにできるかにかかっていた。後半開始直後の48分、堂安の左足が火を噴く。間髪入れず、速攻で襲い2点目。3分間で優勝候補をダウンさせるとは痛快だ。
そこからは時計の針とも戦った。相手シュートがGK権田の正面に飛んでくれる幸運にも救われた。それでも、DFと化した三笘の守備は頼もしく、DF3人衆は警告を受けながらも奪いに踏み出すことを恐れず、68分から冨安が助太刀に入った右の守りは破られる気がしなかった。

「我慢強く戦うのは自分たちの大事なところ。チームが一つになって戦う点では、見てもらったら分かると思いますが、どの国よりも熱いものがあると勝手に思っています」と田中が誇る。「リードしてブロックをつくって守れば崩されない感じはあった。最後まで気を緩めず戦えたのが大きい。うれしいです。すいません、語彙力が乏しくて」と主将の吉田も相好を崩す。
ドイツ、スペインを押しのけ、グループ1位で16強へ躍り出た。「アジアが、日本サッカーが世界の舞台で戦っていけるということ。大きな自信につながる。うれしい」。歴史的な一歩を刻んだドーハの夜に、森保監督の声は晴れやかに響いた。
(ドーハ=岸名章友)
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