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準V早大ラグビー、成長みえた2年生「ハーフ団」コンビ

天理大に敗れ連覇を逃した早大。「ハーフ団」の攻防が勝敗のポイントになった=共同

ラグビーで試合をコントロールするポジションが「ハーフ団」と呼ばれる2人である。密集からボールを出すSHと、そのパスを受けて攻撃を組み立てるSO。天理大が早大を破った今年の大学選手権決勝もこのポジションがカギとなった。理論派でならす早大の後藤翔太コーチ(コンサルティング会社の識学所属)に、勝敗を分けた点やハーフ団の育成について聞いた。

天理は決勝史上最多の55得点で初優勝を果たした。早大の不出来を指摘する声もあるが、後藤コーチは否定する。「早稲田は持てる力は出した。天理が素晴らしかった」

天理大の特筆すべき接点の圧力、攻撃の練度

称賛するのは特に2つの点。1つ目は接点の圧力である。「コンタクトの時、早稲田がもう終わったと思っているのに、天理の選手はもう1つ、2つ戦ってきた」。最初の衝突の後、天理の選手は足を止めずに二の矢を繰り出してきた。早大は今まで止められていたタックルで止められず、ボールを持っても前進できない。天理が体格の不利を覆すために長年磨いてきた技術は、実際に体を当てないと分からぬ奥深さがあった。

もう一つは組織攻撃の練度である。分かりやすいのが、タッチラインの近くでラックができた後のボールの動かし方。攻撃側にとっては次に攻める方向がフィールドの中央側に限定されるため、守備側の重圧を受けやすい局面だ。多くのチームはSHからFW3人の集団にパスをしてラックを再形成。素早く次の攻めにつなげようとする。早大も、そして準々決勝までの天理もこの形を取っていた。

天理大の藤原はチームの弱点をカバーする抜群の運動量をみせた=共同

トーナメントの最後の2戦、天理は別の手を用意していた。SH藤原忍がSO松永拓朗を経由してからFWに渡し、グラウンドの中央付近にラックをつくる形に変更。両サイドを攻めやすい態勢を整えた後、次のフェーズの攻撃が研ぎ澄まされていた。松永の周囲に大黒柱のCTBシオサイア・フィフィタら計7~8人がパスの受け手となって走り込む。さらにフィフィタからのパスやキックの選択肢もあり得たから、早大の守備は的を絞れなかった。

「早大の攻撃は稼働している人間がSOプラス3人ほど。3人と8人では成功率が全然違う」。戦前から危機感を抱いていた後藤コーチは、SH小西泰聖をやや外目に立たせるなど守備の微修正を施したが、小手先の技は効かなかった。早大の攻撃はタックルで後退させられる一方、天理は楽々と突破に成功した。

天理が精度の高い攻撃を遂行できた背景にはハーフ団の技術もあったと後藤コーチは言う。早大のように大外のラックからSHのパス1本で攻める場合と違い、パス2本を使うと守備側に対して前に出る時間を与えることにもなる。「天理は藤原と松永のパスが非常にいいので、後ろに下げられるリスクをヘッジ(回避)できていた」

一方、天理の守備には僅かな隙があった。ラックの両側に防御ラインを敷く際、直前の攻撃方向と反対の「逆目」と呼ばれる場所がやや手薄だった。「そこを突く準備をしていたけど、決勝では藤原にカバーされた」と後藤コーチ。ラック形成後、藤原はまずその位置に立って警戒。必要がなくなると即座に防御ラインの裏を埋めるなど抜群の仕事量を見せた。SHの1試合の走行距離は通常6000~7000㍍だが「藤原は8000㍍くらい走っていただろう」と舌を巻く。

早大の2年生SO吉村紘らがプレッシャー下でのプレーを経験したのは収穫だ=共同

大学随一のハーフ団を擁する天理に敗れ、早大の連覇はならなかった。しかし、2年連続の決勝進出は12年ぶりでもある。「彼らの成長がなかったら準々決勝で負けていた」と後藤コーチはハーフ団をたたえる。昨季の早大はSH斎藤直人、SO岸岡智樹という4年生がチームを差配していた。後釜のSH小西、SO吉村紘の2年生コンビは才能はあるが実戦経験に欠ける。2人をどう育てるかが今季のテーマだった。

SHが1人でパスをする動画がパソコンに流れる。「あと○㌢腰を落とせ」「つま先の向きはこう」「この瞬間にボールを離せ」……。画面の向こうの選手に対し、後藤コーチは指示を送る。チームが活動停止となった昨春の緊急事態宣言時に行っていた「通信教育」である。全SHに対して1対1の指導を連日4~5時間実施。「活動停止で仕事がなくなるかと思ったら、むしろきつくなった」と笑う。

「僕は子供の頃から体が小さく運動神経が悪かった。他者との違いをどうつくり、勝つかをいつも考えていた」。SHとして日本代表歴もある後藤コーチは、パスの細かい技術なども全て感覚ではなく理屈で説明できるようにしているという。その教えは〝常識〟と異なることも多い。例えば「SHは体重移動をして投げよ」という定説。

パスの技術、常識にとらわれず理論的に指導

地面のボールをパスする時、体を進行方向に移動させればスピードをつけやすい。次の接点へ走り出すにも有利とされてきたが、これは間違いだという。「体重移動で重心が外に行けば反対側に(パスやランで)行くオプションがなくなる。重心がいつも両脚の間にあれば、相手が(パスダミーなどにつられて守備位置から)外れた時、反対の選択肢が取れる。そのボディーバランスを常に保つ必要がある」。大学生では珍しいこの技術を身につけた小西は強みのランがより生きることになった。

司令塔のSO吉村にはスポーツ心理学者とともに週1度のミーティングを実施。試合中の円陣での効果的な声の掛け方などを学ばせた。弱点だったキックの飛距離は〝伝統技能〟の活用で改善させた。準決勝、決勝では吉村のキックが相手を背走させる場面が何度もあった。いずれもボールの進行方向を軸とする横回転を掛けたスクリューキック。方向がぶれやすいため、近年はほとんど使われない技術は効果的だった。

早大の後藤翔太コーチ。細かな技術を感覚ではなく理屈で説明していく

2人には戦術の座学も講じた。攻撃の各フェーズで起こりやすい出来事や、守備側のどこが空きやすいかを映像とともに説明した。「セオリーが分かっていれば、試合中に別の部分に頭を使うことができる」。シーズン序盤は2人に判断のミスが相次ぎ、「高校生レベル」と後藤コーチも頭を悩ませたが、3カ月で見違えるほど改善した。

しかし、成長したはずの2人に決勝ではエラーが相次いだ。パスやキックの失敗。ランで持ち込んだボールを奪われる……。「最もボールを扱う選手2人が、誰でも分かるミスを6つもした。結果としては赤点」。ただ、ハーフ団はチームが劣勢の場合に最も影響を受けるポジションでもある。「チームとしてプレッシャーを掛けられた中で、彼らの所でエラーになった」

「このプレッシャーを経験できたことが一番の収穫」とも後藤コーチは言う。「プレッシャー下でのプレーの精度と、右左のどちらに行くかなどの判断の精度を磨いていかないといけない」。天理の2人や、早大を2年前に優勝させたハーフ団は1年目から試合に出続けて最終学年で栄冠をつかんだ。敗戦を糧に、大学ラグビー界の新たな顔となるハーフ団がこれから生まれるだろうか。(谷口誠)

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