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「対策が数日早ければ…」後悔 クルーズ船集団感染1年

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 横浜港に停泊するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」(2020年2月)=共同

新型コロナウイルス集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の横浜沖での大規模検疫開始から3日で1年となった。感染確認が相次ぎ、船内待機を求めた政府対応には批判の声も出た。クルーズ船の感染症対応では国際ルールの不備が浮かび上がった。

未知の感染症リスクを軽視

ダイヤモンド・プリンセスでは、乗客乗員3711人の約2割に当たる712人が感染し、13人が死亡した。前例のない豪華客船でのアウトブレーク(突発的集団発生)。当時の乗客と乗員は、未知の感染症のリスクを軽視していたと振り返る。

米企業が運航する大型クルーズ船が横浜港から出航したのは、昨年1月20日。乗船した50超の国・地域の人びとは、香港やベトナム、台湾を巡る船旅で、青海原を望む浴場やカジノ、レストランを満喫していた。

だが、香港で下船した男性の感染が2月1日に判明して以降、事態は急変。厚生労働省は3日夜に横浜沖に着いた船をそのまま停泊させ、船内検疫に踏み切った。

「生活は通常通り。まだ誰もコロナの恐ろしさを分かっていなかった」。乗客だった札幌市の男性(71)は当時の状況を明かす。防護服を着た検疫官が慌ただしく行き交う中、4日夜までレストランも利用でき、船内移動も止められなかった。

5日に乗客10人の感染が判明する。同省は乗客乗員に2週間の船内待機を要請。「客室から出ないように」とアナウンスが流れ、食事はルームサービスに。だが、船側が許可した甲板での短時間の散歩などですれ違う人同士の距離も近かった。

 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」内で作業する検疫関係者(2020年2月)=クルーズ船関係者提供・共同

その後、待っていたのは相次ぐ感染確認におびえる日々。船窓から救急車が感染者を搬送する様子が見え、テレビで報じられるクルーズ船のニュースにはくぎ付けに。隣室の高齢者も感染し「明日はわが身」と不安を募らせた。夫婦で参加した初の船旅は20日の下船まで恐怖との戦いだった。

接客に当たった元乗員の30代男性は「当時の社会の危機感を考えると即時対応は難しかったが、対策が数日早ければ結果は違った」と悔やむ。当初は乗客への行動制限やマスク着用の呼び掛けはしなかったという。

配膳で1日3回、乗客と接触する機会があるのに、体調を崩して休みを取る乗員と、仕事を続ける乗員が相部屋だったことも。こうした労働環境も感染拡大の一因だったのではと考えている。

感染者の下船に手間取り、同室の家族が感染した事例も見た。「船で完全隔離は不可能。政府は乗船者を早期下船させ、個別隔離すべきだった」

全員下船した3月1日から約11カ月が過ぎた今も、船内隔離の「悪夢」は乗客だった男性の心に影を落とす。旅費は全額無料となり、運航会社から同社の旅で使用できる金券が届いたが「楽しい思い出ではなくなった」と、使う気になれない。

元乗員の男性の暮らしは一変した。運航会社との雇用契約は残っているが、乗員としての仕事はない。国から何の補償もないことに「あれだけ船内で頑張ったのに見向きもされない」。乗員に戻るめどはなく、別の仕事で生計を立てている。

責任の所在あいまい 感染対応手探り


クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染を巡っては、国際航路を行き来する客船の感染症対応について、どの国が責任を負うべきか国際ルールの不備が明らかになった。状況を是正しようと、政府は国際ルールを作るための準備作業などを進めている。
ダイヤモンド・プリンセスは英国船籍で船会社は米企業。国際法上、感染症対応に関して責任の所在があいまいになっていたが、政府は「日本の内水であり、防疫上の必要から国内法で対応した」(当時の菅義偉官房長官)。治療や検疫では手探りの対応に追われた。
横浜港に停泊するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」前を、サイレンを鳴らして移動する救急車両(2020年2月)=共同
経験を糧に、外務省は国内シンクタンクに調査・研究を委託。3月にも報告書を受け取る予定だ。2021年度予算案にも関連費として3千万円を計上。論点が浮かび上がった段階で、省内議論を本格化し、国際社会にルール整備を提唱する段取りだ。政府関係者は「新たに浮き彫りになった問題だ。日本が議論を主導する」と強調する。
一方、国土交通省は日本に寄港する海外のクルーズ船事業者に対し、感染症の発生などを報告させる仕組みを法制化する。船内の情報を迅速、正確に収集するよう改善し、国際クルーズの受け入れ再開に備える。
改正案では日本に立ち寄る国際クルーズ船で感染者が出た場合は、感染者数や乗客数、対応状況の報告を法律に基づいて集められるようにする。
国内クルーズは昨年10月以降、一部再開したものの、その後は感染再拡大で取りやめが相次いだ。ダイヤモンド・プリンセスの運航会社「プリンセス・クルーズ」は同船の日本発着の船旅に関し、7月再開を目指している。〔共同〕

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