営業秘密の不正取得最多に 企業の持ち出し対策急務

企業の営業秘密を不正に取得して持ち出すケースが後を絶たない。2020年に警察が不正競争防止法違反で検挙した事件は計22件(38人)となり、ともに過去最多を更新した。従業員の情報持ち出しに対する企業側の管理体制の甘さを突くケースが目立ち、海外への技術情報の流出も懸念されている。人材の流動化が進むなか、企業側の対策強化が一層求められている。
警察庁幹部は「危機意識の高まりから企業がチェック体制を強化した結果、新たな事案の発覚や摘発につながっているのではないか」とみている。
営業秘密の漏洩に対する罰則は2015年の法改正で強化されたが、その後も摘発が相次いでいる。近年目立つのは海外への情報流出だ。
20年10月には積水化学工業の元社員が自社技術の機密情報を中国企業に漏らしたとして、大阪府警に書類送検された。「あなたが研究している技術について教えてほしい」。中国企業からのこんな誘い文句が発端となり、情報交換を持ちかけられるうちに社内情報を流出させていたという。
国内の転職先に前の職場の営業秘密を持ち込むケースも問題となっている。20年9月には、産業用ロボットの設計製造会社から営業秘密に当たる生産ラインのレイアウト図やロボットの設計情報などを取得し、転職先に持ち出した疑いで愛知県警が元社員を逮捕している。
21年に入ってからも、ソフトバンク元社員の男が楽天モバイルに転職する前に高速通信規格(5G)に関する情報を不正に入手して持ち出したとして警視庁に逮捕されている。警察庁幹部は「人材の流動化が進むなか、競合への転職時に有利になるように持ち出そうとしている可能性がある」と話す。
情報処理推進機構(IPA)が実施した営業秘密の管理状況に関する20年調査では、回答した2175社のうち、情報漏洩があった企業で最も多かった原因が「退職者による持ち出し」で36.3%に上った。

先端技術を巡る国際競争が激化するなか、営業秘密の保護を巡っては各国が対策を強化している。
日本では14年に半導体メーカーの元技術者が韓国企業にフラッシュメモリーの研究データを流出させた事件などがきっかけとなり、15年に不正競争防止法を改正。盗んだ情報を海外で使った場合の企業の罰金の上限を3億円から10億円に引き上げた。
米国は13年に営業秘密の窃取などを禁じる経済スパイ法の罰則を強化。欧州連合も16年に秘密の保護について法制化する指令を出し、加盟国で法整備が進んだ。
企業法務に詳しい野坂真理子弁護士は、営業秘密の漏洩が企業に与えるダメージとして▽競争力低下による売り上げの減少▽取引先からの信頼低下▽社員の士気低下――などを挙げる。「漏洩によるダメージは回復が難しく、未然防止が最も重要だ。情報持ち出しを防ぐシステムの構築や漏洩を禁じる誓約書締結、社内教育といった対策が欠かせない」と指摘する。
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