震災遺構、長期維持に費用の課題 風化とコロナで来場減

東日本大震災の教訓を将来に受け継ぐ「震災遺構」が維持管理費の壁に直面している。国の支援制度はなく、管理する自治体は入館料や寄付金などで負担軽減を図るが、震災から10年がたち風化の影響は深刻だ。足元では新型コロナウイルスの感染拡大も影を落とし、社会全体によるサポート環境の充実が求められている。
校舎4階まで津波が到達した宮城県気仙沼向洋高旧校舎(気仙沼市)。窓ガラスのない建物に風が吹き込み、3階の教室に流されてきた車やがれきがそのまま残るなど津波の脅威を無言で物語る。2019年3月に「東日本大震災遺構・伝承館」として開館した。
20年度は目標を上回る約8万1千人が訪れたが、人件費や修繕費など施設の維持管理に年間約5500万円かかり、約1300万円は入館料などで賄えず市が負担した。市の担当者は「全国から修学旅行生が訪れる防災教育の拠点。長期的な運営のため、財政支援が必要だ」と訴える。
東日本大震災で被災した各地の震災遺構は、災害の教訓を後世に伝えて防災意識を高める地域の拠点だ。国は復興事業として13年に保存費用の支援を始め、これまでに9件の整備を支援したが、維持管理費は対象外のため自治体や運営団体が負担している。
岩手、宮城、福島の被災3県で整備済みか今後整備を終える主な遺構17件のうち、7件が入館を既に有料にしているか今後有料化する方針。岩手県陸前高田市は今後オープンする気仙中など2カ所の内部見学について、ガイド同伴を条件とした上で案内料の支払いを求めることを決めた。

各自治体は入館料や寄付金の収入などを維持費に充てる考えだが、陸前高田市では11年度に4億円超あった災害復興寄付金の件数・総額が年々減り、19年度は約1700万円にまで減った。市の担当者は「大震災後も様々な災害が起こっており、関心が薄れていくのはやむを得ない」と話す。
岩手県宮古市も「たろう観光ホテル」の維持管理に充てる寄付金を募るものの、14~19年度の6年間で約5000万円が集まったうち19年は約200万円で最も少なく、18年度の6分の1にとどまった。
風化に加え、新型コロナも深刻な影響を与える。伝承館は20年春に2カ月近く開館を諦め、同年4月から21年1月にかけての来場者数は前年同期比で6~7割減った。「大型連休中の休館が響いた」(佐藤克美館長)
関西大の永松伸吾教授(防災政策)は、遺構について「被災地以外からも『教訓を伝えるために残すべきだ』との声が上がった。国民全体の財産だ」と強調。自然災害の激甚化や南海トラフ巨大地震などの発生が懸念されるなか、防災意識を高める震災遺構は将来の災害で犠牲者を減らす事業だと指摘する。
その上で「維持費を自治体だけの問題にせず、社会全体で負担を分かち合うべきだ」と訴えている。
東日本大震災から11年、復興・創生期間がほぼ終了した被災地。インフラ整備や原発、防災、そして地域に生きる人々の現在とこれからをテーマにした記事をお届けします。