不忍・昌平橋通り(東京・文京など) 神話と歴史たどる道

東京都文京区の不忍通りから千代田区の通称・昌平橋通りを歩く。下町の住宅街とオフィス街をつなぐ舗道は日本の神話と文化をたどる「歴史街道」でもある。
不忍通り北側の根津神社(文京区)は1900年余前、日本武尊が創建したと伝わる都内屈指の古社だ。代表的な祭神は須佐之男命(すさのおのみこと)。古事記にも度々登場し、三種の神器の一つ、草薙剣の出現につながる「八岐大蛇(やまたのおろち)退治」を果たした。

境内奥の駒込稲荷(いなり)神社には父の伊邪那岐命(いざなぎのみこと)や、伊邪那美命(いざなみのみこと)も祭られ、二柱の神が海水をかき回し島々を誕生させた「国生み」の神話を想起させる。
南へ約2キロ進んだ後に西側の路地へ。坂を上ると湯島天満宮(同区)に着く。学問の神様、菅原道真の御利益を求めて訪れる受験生は多いが、祭られたのは1300年代以降。かつて祭神は天手力男神(あめのたぢからおのかみ)一柱だった。
高天原で大暴れした弟、須佐之男命に怒った天照大神が岩屋に身を隠す「天岩戸」の物語では大神を外に引き出す役割を担い、地上にまで光が戻った。今は境内北側の戸隠神社でも参拝者を見守る。

昌平橋通り沿いに1キロ弱。西側の高台に神田明神(千代田区)がのぞく。平将門を祭り、「江戸総鎮守」としても崇敬を集めた。中世以降の歴史との関わりが深いようでいて、最初の祭神は大国主命。高天原の神の求めで治める国を明け渡し、自身は出雲大社に移り住む。一連の「国譲り」は天照大神の孫が地上に降り立つ「天孫降臨」への扉を開いた。
都内に神社は約1400社。東京都神社庁は「3社は取り分け地域に愛されてきた存在」という。高天原を追放された須佐之男命、左遷の憂き目に遭った道真、朝敵として討伐された将門。共通する悲劇的境遇が人々の心を揺さぶったのか。

新型コロナウイルスは境内の風景も変えた。神社を問わず「神々との出会いの場であり、古くからの価値観や生活様式を学ぶ入り口」(同庁)であろうと、安全な参拝のあり方に知恵を絞る。
天皇誕生日の23日、晴天の根津神社をマスク姿の人々が訪れた。手と口を清める手水舎にひしゃくはなく、列は間隔を2メートル取る。感染の懸念を押しても拝殿の前に立ちたいという思い。神話に触れ、神々を身近に感じられればうれしい。(尾崎実)
=おわり