「早く決着を」「コロナ後手に」 組織委迷走に困惑の声

東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が12日、女性蔑視発言の責任を取って辞任表明した。後任と目された川淵三郎氏は「選考過程が不透明」と批判を浴び、一転して就任を辞退。大会のイメージを悪化させかねない迷走ぶりに、関係者や聖火リレーのランナーらは「透明性の確保を」「滞りなく進めて」と訴える。
「辞任するにしても後味が悪い。女性蔑視発言に続き、後任選びでもたつくとさらに国際的なダメージにつながる」。東京都のある幹部は12日、森氏の後任人事が白紙に戻ったことへの懸念を語った。
この幹部は後任の決め方に疑念を抱いていたという。「五輪・パラの話なのにアスリートが置き去り。根回しや密室人事など、ある意味日本のあしき部分が出た。同じ関係者として恥ずかしい。もっとオープンな場で決めた方がいい」。開催まで半年を切り、本来は新型コロナウイルス対策に全力を挙げて取り組むべき時期だ。「人事に時間を割いている場合ではない。一刻も早く後任を決め、コロナ対策にまい進してほしい」と話した。
別の都幹部も「後任選びに透明性は不可欠だ」と強調する。「そもそもあの発言の問題の本質は、『誰もが意見を言える世の中』に反するということだったはず。それなのに後任を限られた人で決めるのは都民、国民の理解が得られない」と眉をひそめた。
3月25日にスタートが迫った聖火リレーの関係者からは不安の声もあがる。福島県楢葉町を聖火ランナーとして走る予定の阿部聖央さん(19)は「次のトップが誰になったとしても、多くは求めない。とにかく無事に大会を開き、聖火ランナーとして走らせてほしい」と強調する。
阿部さんは小学生で東日本大震災を経験。県外避難を経て進学した福島県立ふたば未来学園高校(同県広野町)で陸上部に所属し、聖火ランナーに応募した。だが、コロナの感染拡大で五輪開催は延期され、高校を卒業。震災をきっかけに興味を持った陸上自衛隊に入隊し、現在は長崎県で寮生活を送る。
今年は震災から10年の節目の年。「福島も復興が進んできたし、自分自身もこの10年で心も体も大きくなった」。地元で聖火ランナーとして走り、成長した姿を友人や知人に見せたいと願う。
聖火リレーがスタートする福島県のオリ・パラ推進室の担当者は「震災からの復興を国内外に発信していくため、誰が新会長に選定されても引き続き連携していく」とコメントした。会長人事は静観の構えだが、組織委が2020年末までに作成する予定だったコロナ対策を盛り込んだガイドラインがまだ手元に届かないことには気をもむ。「滞りなく進めてもらいたい」と求めた。

森氏の発言や川淵氏を後継指名した「密室人事」は、SNS(交流サイト)上でも批判が渦巻いた。12日午後の辞任表明直後は「東京五輪組織委」や「白紙撤回」などがツイッターのトレンドワードで国内上位に入った。
ネット上では森氏の「処遇の検討と再発防止策」を求めて、署名活動も呼びかけられた。15万人を目標とした署名は12日午後5時現在、14万7千人を超えた。
呼びかけ人の一人、福田和子さん(25)は「(後任として)次は女性や若い人に、という声もあるが、とりあえず女性にしておこうという理由でなく、ジェンダーバランスを踏まえた上で、きちんとした人権意識を持つ人物が公正なプロセスを経て選ばれることが重要」としたうえで「混沌としているが、これを機に差別などの問題に光が当たり、着実な変化が生まれてほしい」と訴えた。
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