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「リフレ派再び」の不意打ち

「菅さんはマクロの金融政策にあまり関心がない」「政権との関係は金融緩和を迫った安倍晋三前首相のときが特殊で、これからは通常の姿に戻る」。2020年9月に菅義偉政権が発足したころ、日銀内で聞いた声だ。新型コロナウイルス対応や地銀再編などで協調姿勢を示せば、政権に攻め込まれることはない。そんな雰囲気だった。

こうした日銀の期待を吹き飛ばすような人事案が21日、国会に提示された。3月末に任期を満了する桜井真審議委員の後任に、金融緩和や財政出動に積極的な「リフレ派」の野口旭・専修大教授を据えるという。

安倍前首相ほどリフレ派を重用しないとみられていた菅氏の選択は、同派の関係者にも「サプライズ」と受け止められた。

退任する桜井氏は安倍前首相の経済ブレーンだった浜田宏一エール大名誉教授と親交があり、審議委員になる際はリフレ派とみられていた。実際は大規模緩和の副作用にも目配りし、政策判断で黒田東彦総裁ら執行部に寄り添う姿勢を貫いた。

野口氏は筋金入りのリフレ派との見方が多い。岩田規久男前副総裁を中心に経済学者らで集う「昭和恐慌研究会」のメンバーでもある。同研究会には若田部昌澄副総裁、安達誠司審議委員、原田泰元審議委員と日銀入りしたリフレ派が顔をそろえる。内閣官房参与として菅首相に助言する高橋洋一・嘉悦大教授も関与する。

「ボード(政策委員会)の多様性が失われるとの批判は避けられないだろう」。日銀のプロパー幹部はこうつぶやく。

野口氏が国会の承認を得て正式に就任すると、日銀の最高意思決定機関である政策委員会の計9人中4人をリフレ派が占めることになる。政策委は学者や企業経営者など様々な経験や知見を持つ委員が熟議を重ね、最後は多数決で政策を決めるというのが本来の姿だ。政策委の位置づけを明確にした1998年の新日銀法の施行後、これだけ一つの勢力が固まることはなかった。

リフレ派が再び勢いを取り戻すと、3月に控える金融政策の点検にも影響が及びそうだ。点検を経て打ち出す政策修正では、緩和策の拡充よりも長期化に伴う副作用の抑制に力点が置かれる見通しだった。ある幹部は「黒田総裁も今回の人事の意味を重く受け止めるだろう」とみる。「引き締め的な手は打ちづらくなった」

6月下旬には政井貴子審議委員も任期を終える。「後任にもリフレ派が送り込まれ、政策委の過半を占めることにならないか」。日銀内ではそんな不安も渦巻く。日銀外のリフレ派は「さらに勝ち取りたい」と勢いを増す。

菅首相はコロナの収束後も見据えて日銀が緩和を弱めないようにくぎを刺したのか。それとも日銀支配を強める方向に動き出したのか。真意が見えるのはこれからだが、日銀のガバナンス(統治)を巡る問題は重大な局面を迎えつつある。

(斉藤雄太)

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