ネット広告の掲載基準を透明化 公取委、巨大ITに迫る
公正取引委員会が17日に公表した報告書は、巨大IT(情報技術)企業に対してネット広告の掲載基準の透明化などを迫っている。広告媒体や仲介業など複数の側面を持つ巨大ITに対しては、不透明な基準で自社サービスを優遇しているのではと疑問視する声が競合企業から出ていた。
「米グーグルで突然、広告を出せなくなった」。外資系の広告配信会社の男性は、取引先企業からこんな相談をよく受ける。規約違反の内容を載せるミス以外に、凍結理由がわからないことも少なくないという。男性は「特に中小事業者は巨大ITに命運を握られていて、リスクが高すぎる」と話す。
「外部サービスで広告の効果測定ができないので、巨大IT側のリポートしか検証できない」(ネット広告代理店)、「見られる情報が限られているし、本当に正しいのか、第三者の検証が必要だ」(中小広告代理店)といった声もあった。

巨大ITは自らが運営するSNS(交流サイト)上のスペースなどを広告媒体として販売しており、そこに広告を出したい企業を仲介する業務も手掛けている。検索サービスやSNSを通じて集めた膨大な個人データを使い、消費者一人ひとりの好みや興味に沿った広告を配信することで大きな収益を得ている。
公取委の報告書では、巨大ITが一方的な理由で広告配信を打ち切ることや他の仲介事業者を使わせないようにすることなどが独占禁止法違反にあたる恐れがあると明記した。広告の価格設定や効果などがわかりにくいとの指摘が出ており、報告書では表示基準を明確化することや価格情報を自主的に公開することが望ましいとした。
ネット広告は個人データを集めるほど広告効果が上がるとされ、巨大ITが広告主や消費者などに対して有利な立場になりやすい。報告書では、利用目的が曖昧なまま取得した個人情報を広告に利用すると、消費者に対する「優越的地位の乱用」にあたる可能性があるとも指摘した。

報告書は、巨大ITの広告ビジネスが新聞社など報道機関に与える影響にも踏み込んだ。「質の高いコンテンツを提供するメディアが正当に評価される環境整備が重要だ」(公取委)として、巨大ITに向けた提言を盛り込んだ。
国内ではヤフーやLINE(ライン)などが運営するニュース配信サービスが利用者を伸ばしており、新聞社などはこうしたサイトに記事を配信して収入を得る。メディアへのアンケートでは「記事の配信料が決まる根拠が不透明だ」などと不満の声が寄せられた。公取委は「基準や根拠を明確にすることが望ましい」と注文をつけた。
クリック数が広告収入につながると、刺激的な見出しやフェイクニュースでアクセスを誘う行為を招く恐れがあるとも指摘した。配信サイトでは、記事を提供するメディア名をわかりやすく示すことや、サイトの上位に掲載する記事を内容の正確性や信頼性などに基づいて選ぶことなどを求めた。
政府は2018年ごろから巨大ITの規制づくりを進めてきた。21年2月1日には巨大ITの取引の透明化を義務付ける経済産業省所管の新法を施行した。大規模なオンラインモールやアプリストアなど一部の業種を対象としたが、今後ネット広告などにもこうした規制が広がる可能性がある。
海外でもネット広告の寡占を問題視する動きが相次ぐ。20年末、テキサスなど米国の多くの州・地域で司法長官がグーグルを反トラスト法(独禁法)違反の容疑で提訴する動きが広がった。自社の取引市場を通じた広告供給を優先していることなどを問題視した。英国やオーストラリアはネット広告分野の寡占について調査を進めており、日本の公取委も英国の競争当局などと意見交換し報告書に反映した。