コロナ長期戦、「ゾンビ」増殖に身構え

「そろそろ『じゃぶじゃぶ』の点検に取りかからなければならない」。日銀内では最近、こんな声が上がり始めている。
「じゃぶじゃぶ」とは、新型コロナウイルスで打撃を受けた企業への資金繰り支援策のことだ。日銀は3月以降、融資を促すため金融機関に有利な条件で資金を供給する政策を導入・拡充してきた。11月下旬時点の残高は51兆円と国内総生産(GDP)の1割にあたる水準まで膨らんだ。
政府による給付金などもあいまって、企業倒産や失業者の増加は一定程度に抑えられている。黒田東彦総裁も一連の政策は「相当効果がある」と話す。
そんななかで日銀が気にかけるのは、いわゆる「ゾンビ企業」の問題だ。支援先を問わない潤沢な資金供給で生産性の低い企業が生き残り、中長期的な成長力を押し下げれば物価の低迷もさらに長引く。こうした問題意識がある。
「本来は廃業しているはずの非効率な企業まで延命されることで、生産性の伸びに重しとなる副作用が生じる可能性がある」。鈴木人司審議委員は3日の講演でこう指摘した。別の日銀幹部も「どういった企業が生き残るべきなのか。選別の議論がどこかのタイミングで必要になる」と話す。
ゾンビを巡る問題は、コロナ禍で始まったわけではない。バブル崩壊後、不良債権処理の遅れで低成長が続いた日本では低金利政策が常態化した。2013年春以降の異次元緩和は金利低下に拍車をかけ、銀行は収益性の低い企業にもリスクに見合わない低い金利で融資するようになった。
日銀の試算では、こうした「低採算融資」の比率が18年度時点で3割弱と過去最高水準まで増えた。それだけ生産性の低い企業が生き残り、産業の新陳代謝を鈍らせる要因になっていた。
経済協力開発機構(OECD)の19年11月時点での試算では、日本の20年の潜在成長率見通しは0.6%とすでに先進国で際立って低かった。コロナ禍を経て、状況はさらに悪化している可能性が高い。
日銀がすぐに資金供給を絞って「ゾンビ退治」に動けるわけではない。17~18日に開く金融政策決定会合では、むしろコロナ対応の資金繰り支援策の期限延長を決める公算が大きい。感染再拡大で景気の下振れリスクがくすぶり、政府も追加の経済対策を組むなかでは、日銀も蛇口を緩めたままにするほかない。
日銀には執筆者の個人的見解という体裁で公表する「日銀レビュー」などのコミュニケーション手段がある。「こうしたリポートでゾンビ企業の増加に警鐘を鳴らす地ならしをしてはどうか」という苦肉の策も浮上する。
目先の政策対応はしつつ、中長期的な課題への布石をいかに打つか。試行錯誤が続く。
(古賀雄大)
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