僕は僕の道をいく (岡崎慎司)

欧州に渡って10数年が過ぎた。日本を離れて、仕事をし、家族と暮らすことで受けた影響は当然大きい。
多くの国が陸続きで接する欧州は、様々な価値観や生き方の人間が混在している。意識せずとも当たり前のように多様性を受け入れざるを得ない社会だ。日本で体験することのなかった主張、行動に驚くことは多かったし、悔しさを味わうことも少なくなかった。
最初の数年間は、どんな理不尽なことも受容し耐えてみせようと奮闘した。けれど、このままではつぶされると気づき、自分の意見を相手に伝えるようになった。いろんな価値観に触れ、「それもありなんだ」と思えるようになり、今では、人それぞれに考え方、生き方があることが当たり前で、それが本当の世の中なんだと感じている。
多様性がある社会では「あなたはどうしたいのか?」「あなたの考えは何?」と問われる機会が多い。自分は何者で、何を持っているのかを意識することで「自分」というものを育みやすい。逆に何の考えもなく、他人と同じようなことをしていると、小さく見られてしまうことが多い。
日本で指導者や両親、教師といった周囲の大人から様々なことを学ばせてもらった。ただ、日本ではどうしても「こうあらねばならない」という敷かれたレールを歩きがち。20代前半で欧州に来て、そうじゃなくてもいいということを知れた。厳しさを体感する中で自然と気づきを得て、「自分」を確立していく過程で他人に左右されなくなっていった。考え方が柔軟になった面もあるし、同じ考えを持たない相手への許容量も増した。
だから、サッカーに限らず、海外へ出て、挑戦する日本人が増えることを応援したいと思う。海外に出ることで日本にネガティブな感情を持つこともあるだろうけれど、それ以上に日本の良さ、ポジティブな面を再認識する機会は多い。僕にとって、日本は一番愛する母国であることに変わりはない。
2010年の南アフリカ大会からブラジル大会、ロシア大会とワールドカップ(W杯)に出場した。アジア予選も戦った過去3大会と違い、「元日本代表」として目指すカタール大会は、全く違うW杯になった。
新天地スペインへの挑戦。2部リーグでの戦い。描いた予想図通りに進まない日常。折れそうになることも当然あった。諦めてもいいんじゃないかと思ったことも。けれど、諦めたくはない。W杯への思い、執念が僕を立ち上がらせ、奮い立たせてくれた。
そんな日々を5年に渡りつづってきた連載も今回が最終回だ。読んでくださった皆様に感謝したい。そして、これからの岡崎慎司にも期待してほしい。僕は僕にしか歩めない道を進む。(シントトロイデン所属)=終わり

サッカー元日本代表、岡崎慎司選手の連載です。FCカルタヘナでのこと、日本代表への思い、サッカー選手として日々感じていることを綴ったコラムです。
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