[社説]株式市場の魅力高め投資呼び込め - 日本経済新聞
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[社説]株式市場の魅力高め投資呼び込め

2022年が終わる。30日の大納会の日経平均株価は2万6094円で取引を終えた。21年末から2697円(9%)下落し、年間としては18年以来4年ぶりの下げ相場となった。

今年の日経平均は米S&P500種株価指数(19%安)など欧米の主要指数よりは底堅かったといえる。ただ、昨年まで最高値を更新してきた欧米株と異なり、バブル期の33年前につけた最高値(3万8915円)はなお遠い。

終わる「カネ余り時代」

浮かび上がるのは、日本企業の株にだれも積極的にお金を投じようとしなくなった事実だ。

今年の株式相場は、世界で進んだインフレに翻弄された。約40年ぶりとなる高インフレの抑制を急ぐ欧米中央銀行は、急激な利上げを実施した。08年のリーマン危機から続いた金融緩和による「カネ余り時代」が終わり、世界の株式市場からはマネーが流出した。

日米金利差の拡大で外国為替市場ではドル高・円安が加速し、春先に1ドル=110円台だった円相場は10月に32年ぶりとなる150円台まで下落した。企業の原材料コストの増加に加え、物価高による消費低迷を警戒し、円安下でも日本株は買われにくくなった。

大きく日本株を買う投資家が見当たらない中、今年は事業会社が自社株買いで4兆円強を買い越した。国内外の機関投資家や個人投資家を超える日本株の最大の買い手となった。株式市場が、企業による資本調達の場から資本回収の場へと変わったといえる。

だからこそ、企業にリスクマネーを供給する本来の役割を取り戻すことが、来年の株式市場の課題となる。とりわけ、個人のお金が投資へ向かう道筋が必要だ。幅広い国民が株高の恩恵を受けられるようにするとともに、経済をけん引する成長産業を株式市場が後押しする好循環をつくりたい。

岸田文雄政権が今年打ち出した「資産所得倍増プラン」は、そのための重要な方策となる。政府・与党は少額投資非課税制度(NISA)の恒久化や投資枠拡大を決めた。預貯金に偏る家計資産を税制優遇で投資へと誘導するのは、株式市場の担い手をつくる最初のステップとして有効だ。

1~11月の投資信託市場では海外株ファンドに4.3兆円が入る一方、日本株ファンドの流入額は0.6兆円にとどまった(QUICK資産運用研究所調べ)。かように日本株に魅力が乏しい現状で投資を優遇しても、個人のお金は海外株へと流出するだけだ。投資先の企業が自らの価値を磨き、投資魅力を高めるのが必須だ。

日銀は12月、長期金利の変動許容幅を拡大した。事実上の利上げであり、企業の借り入れコストはこれから上昇していくだろう。企業は、借入金や資本の調達コストに収益が届かない「ゾンビ事業」から撤退し、有望事業に資金を振り向ける経営の腕が試される。

企業には、資本効率を示す自己資本利益率(ROE)を高める経営を求めたい。電線大手のフジクラが一つのモデルだ。総花的な売り上げ主義をやめ、事業絞り込みでROEを大きく引き上げた。株価は今年8割近く上昇した。

東京証券取引所の役割も重い。4月にプライムなど3市場への再編を実施したが、実際の中身はほぼ変わっていない。基準未達企業も上場を当面維持できる「経過措置」を認めたのは残念だ。同措置は速やかに打ち切るべきだ。

市場の新陳代謝高めよ

上場企業の半数の株価は解散価値を下回り、事業を続けるより資産を処分して解散したほうが株主がもうかることを示す。市場の半数が投資家から「上場失格」とみなされている異常な状況だ。

東証は株価を上げる努力を引き出す強制力のある仕組みを検討すべきだ。投資家からは、解散価値を長く下回るプライム企業をスタンダードに移すなどの要望が出ている。企業から反発もあろうが、東証には投資家のために市場の新陳代謝を高める責務がある。

今年はSMBC日興証券が副社長ら幹部が逮捕される相場操縦事件を起こした。証券会社や銀行は、個人が投資に抱く不安や不信感を取り除く取り組みを進めてほしい。そのためにはまず、金融機関自身が顧客に信頼され、投資アドバイスや運用を任される存在に変わらなければならない。

戦後の株式市場は、財閥解体で放出された企業の株を、全国の多数の個人に販売する「証券民主化運動」から始まった。「貯蓄から投資へ」を掛け声だけに終わらせず、官民挙げた新たな証券民主化運動を始めるときである。

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