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いまそこにある「問題」 将来世代と危機感共有

NIKKEI脱炭素(カーボンZERO)委員会 第1回ユース対話会

日本経済新聞社は脱炭素プロジェクトの一環で、NIKKEI脱炭素(カーボンZERO)委員会の第2回円卓会議に続き、第1回ユース対話会を開いた。事前に集めた質問を大きく6つにまとめ、企業と将来世代が意見交換した。温暖化ガスを2030年度までに13年度比で46%削減する目標の達成には国民全体の意識改革や危機感の共有が欠かせない。ユース団体からは「ポーズだけの脱炭素はいらない」と企業の姿勢をただす厳しい声も出た。

ユースへの回答

投資家、脱炭素で選別も 社内で地道な意識改革

環境活動に取り組むユース3団体が企業に対して寄せた質問では、脱炭素に向けた取り組みや環境負荷の開示といった具体策のほか、関心の薄い人に危機意識をどう持ってもらうか、将来世代の視点を企業活動にどう反映させるかといった若者らしい内容もあった。

企業側は自社の取り組みを説明した

監査・税務・コンサルティングのEY Japan(東京・千代田)は様々なプロジェクトを実施する際に排出する二酸化炭素(CO2)の量を測定するツールを開発した。携わる人の住所、国内外の出張に伴う移動距離などを入力し、排出量をはじき出す。「現場に根付いた施策で意識を高めてもらう」。滝沢徳也リージョナル・アカウンツ・リーダーはこう答えた。

風力・太陽光発電所開発などを手がけるafterFIT(東京・港)はグリーン電力の小売りで、企業や個人が契約する大手電力会社の電気料金と同一価格であることを訴え、契約の切り替えを促している。前田雄大CCO(チーフコミュニケーションオフィサー)は「『コストは同じです。同じだったら選べますよね』とビジネス上のうまみを顧客に感じてもらう必要がある」と、情報開示の重要性を指摘。地道な意識改革が脱炭素に取り組む日本にとって重要だと考えているという。

大和証券は2018年に発行したグリーンボンド(環境債)で調達した100億円の8割を再生可能エネルギー、2割をグリーンビルディングに投じた。「投資家も単純に運用益を稼ぐだけでなく、グローバルでカーボンニュートラルを達成できるかという視点が入ってきた」。デット・キャピタルマーケット第三部SDGsファイナンス課の清水一滴課長は強調する。

住友林業は18年にユーロ円建て転換社債型新株予約権付き社債(グリーンCB)を発行。調達した100億円をニュージーランドの山林(約3万1000㌶)取得に伴い減少した運転資金に充てた。成長が速いラジアータ・パインの植林地で、安定供給が見込めて価格競争力もあるという。

世界的な木材需要の拡大に加え、気候変動への意識の高まりから、持続可能な植林地の価値が高まると判断。グリーンボンド原則に即して第三者評価機関の評価を得た。

脱炭素に関心の薄い人に危機意識を持ってもらうための取り組みにも企業は腐心する。

日本ガイシは社内のペーパーレス化で役員にパソコンやタブレット端末での資料閲覧を義務付けた。役員会には20~30人が集まり、1回あたり2000~3000枚の紙を使っていた。資料にミスがあると1ページずつではなく全部差し替えるためだ。経営層の意識が変わると、会社全体がペーパーレスに切り替わった。

サントリーホールディングス(HD)は傘下のサントリー食品インターナショナルの飲料「やさしい麦茶」の容器に100%リサイクルペットボトルを使っている。「またあえるボトル」と名付け、ラベルに記した。環境問題に関心が薄い人に気づいてもらうためだ。「自分事としてとらえてもらう身近なきっかけづくりが大事だ」(北村暢康サステナビリティ推進部長)

将来世代の視点を企業活動にどう反映させるかという質問に、JERAの奥田久栄副社長執行役員は「50年、60年先を見据えた若者の視点を取り入れるのは大事だ」と指摘した。日本では年功序列の人事制度を採用している企業が依然多く、「人事制度をジョブ型雇用、徹底的な実力主義に変える必要がある」とも話す。同社は実力主義を徹底して経営環境の変化に対応すると説明した。

企業への回答

事業内容 忖度なく評価 新常態、ワクワクする未来に

環境問題に取り組む若者たちは企業の何を見て評価しているのか。企業とどう連携でき、連携に何を期待しているのか。

Youth Econet 鳥井要佑さん 小竹真帆さん

Youth Econet(ユースエコネット)の小竹真帆さんは「環境にやさしいことは多くの企業がやっている。それよりは、その取り組みについてどれだけ効果的に発信しているかに重きを置く」と話した。

国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)には17の目標があり、企業が取り組んでいることを発表しやすい環境だと指摘する。図や読みやすい文章を使いホームページや商品に載せるとともに、親しみやすさを企業に求めたいという。

同団体の鳥井要佑さんは「こういうこともしています」という企業の発信に「『本当か?』と疑いたくなる」と明かす。理由や今後の課題、目指している方向についても知りたいと考えており、こうした条件を満たす情報開示を求めている。

また、環境意識の低い人を巻き込んで一から始めるには「2030年までの短い期間では時間が足りない」と指摘。すでに動き出した若者や企業がタッグを組んで活動し、最善を尽くすことが肝要だと考えている。

Climate Youth Japan 田中迅さん 近藤壮真さん

Climate Youth Japan(CYJ)の近藤壮真さんは若者が直接企業活動にかかわるのは大きく分けて、日常の消費行動と就職活動の2つだと分析する。 商品のエネルギー源や原材料について、二酸化炭素(CO2)の排出量など定量的な数値があるかどうかを意識しているという。数値を開示する商品があればあるほど「環境問題への意識が促進され、若者の中での評価が高まる」とみる。

就職活動では、企業が環境問題に取り組む上で社内の制度やシステムを改善しているかについて意識する就活生が増えている。環境対応の部署を置き、どのように取り組み、どれだけの効果を上げているのか。「環境問題への取り組みが遅れた企業は大きく競争力を失う可能性がある」と就活生の意識を代弁した。

CYJの田中迅さんは企業と連携した「エコタピ」を例に挙げる。タピオカドリンクのプラスチック製使い捨て容器を減らそうと、再生可能な容器の利用を促した取り組みだ。若者団体が企業と連携して活動することは「柔軟な思考と新規性のあるアイデアを持つ人材を育成し、社会に送り出すことにもつながる」。

海外のユース団体のように、企業との連携事例を国際会議で発信できるよう活動を深化させたいとも考えている。その基盤として、多様な活動資金の確保や組織の法人化が必要になるという。

Friday For Future Japan ナイハード海音さん 酒井功雄さん

Fridays For Future Japan(FFFJ)のナイハード海音さんは企業をどう評価するかについて、友人の例を挙げて話した。友人が靴を買った米サンフランシスコ発のシューズブランド「オールバーズ」では、店員が地球温暖化対策について熱心に語ったという。

「店員がきちんと教育を受けており、すてきな会社だと感心した」。うわべだけでなく、見えないところにも気を使う企業姿勢を求めているのだ。

FFFJの酒井功雄さんは「僕たち若者は忖度(そんたく)する必要がない。現状の企業活動では我々の未来がない」と言い切る。企業の行動が気候変動への対応で倫理的か、次の世代にしわ寄せがいくようなビジネスをしていないか。こうした観点でチェックする。

その上で企業の「CSR部」といった当該部署だけでなく、経営トップから取締役、管理職、社員まであらゆる階層の人と連携していく必要があると強調する。

脱炭素は現在の生活の便利さを我慢したり、コストとして上乗せされたりするものだと認識されているが、気候変動に対応する新しい生活をニューノーマル(新常態)にしなければならない。我慢やコストではなく「ワクワクするような未来を描けるパラダイムシフトを、企業や若者の情報発信で起こしたい」。酒井さんは話をこう結んだ。

総括「2050年への社会変容探る」 NIKKEI脱炭素委員長 東京大学未来ビジョン研究センター教授 高村ゆかり氏

高村ゆかり氏

NIKKEI脱炭素(カーボンZERO)委員会の第2回円卓会議で出た各委員の意見、参画各社の取り組み状況を踏まえ、9月の第3回円卓会議までにもう少し議論を深める時間が必要だと考えた。このため分科会を設けて掘り下げたい。第1回ユース対話会での皆さんの意見も非常に有意義だった。7~8月の分科会にはユースの方もオブザーバーとして参加していただきたい。

新設する分科会の一つは金融だ。2050年の脱炭素(カーボンニュートラル)に向け、日本企業や社会の行動変容を促す金融の役割は大きい。

もう一つは50年の社会像を掘り下げて議論する「VISION2050」だ。50年に向け日本がどういう姿に変わっていかなければならないか。エネルギーの使い方も大きく変わる。経済社会インフラはストックも含めて変えていかなければならないとの問題意識は、今回の円卓会議の議論でも共有された。

脱炭素社会の実現に向けて必要な人事や組織といった企業のガバナンス(企業統治)についても、委員や企業の関心が高いことが分かった。

ユースの皆さんからは誠実で非常に率直な意見を聞くことができた。これで終わりではなく、12月に第2回の対話会を開きたいと考えている。

10月には国内でシンポジウム、英グラスゴーで開催される国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)にあわせた現地での関連イベントを11月に開く予定だ。脱炭素プロジェクトでの活発な議論の成果を日本のみならず、世界に発信する。

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