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迫る「1.5度上昇」排出量 実質ゼロへ

NIKKEI脱炭素(カーボンZERO)委員会 第2回円卓会議

パリ協定は2015年12月、仏パリで開催された第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で合意、成立した。1997年の「京都議定書」を継ぎ、国際社会全体で温暖化対策を進めるための枠組みだ。

先進国のみが対象の京都議定書とは異なり、パリ協定は途上国を含む196カ国・地域が対象だ。世界の平均気温上昇を産業革命前と比べセ氏2度未満にするため、1.5度以内に抑えるよう努力することを盛り込んだ。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年に発表した特別報告書によると、世界の平均気温はすでに産業革命前に比べ1度上昇している。このままの経済活動を続ければ30年にも1.5度の上昇に達し、50年には4度程度の上昇が見込まれるという。

気温上昇を1.5度に抑えるには50年に二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロにしなければならない。これが脱炭素をめぐる議論のポイントとなっている。

パリ協定の目標を達成したとしても、異常気象や海面上昇など温暖化の悪影響は避けられず、対策や途上国への資金・技術供与が求められる。

世界気象機関(WMO)は5月に「25年までに『気温上昇が1.5度以上』の年がある可能性は40%以上」との予測を発表した。温暖化が進むペースは速く、切迫感や危機感が高まっている。

電力需要側の変化促すインフラ投資と両輪で NIKKEI脱炭素委員 東京大学大学院工学系研究科准教授 田中謙司氏

田中謙司氏

マッキンゼー・アンド・カンパニーは2020年11月に発表したリポート「パリ協定の目標実現に向けた日本の脱炭素化の道筋」で、30年度の温暖化ガス(二酸化炭素=CO2換算)の削減ポテンシャル(16年度比)と、1トンを追加的に減らすために必要な費用「限界削減費用」を試算した。

商業ビルでの石油ボイラーからガスボイラーへの転換、ディーゼルエンジンのトラックから電動トラックへの転換などは、CO2の削減ポテンシャルは小さいものの、コスト効率は高い。

一方で原子力発電所の再稼働、石油・石炭火力発電から太陽光発電への転換、鉄鋼製造の転炉から電炉へのシフトは削減ポテンシャルが大きい。

一見すると、電力会社や鉄鋼会社が削減努力をしないと達成できないと片づけられてしまいがちだ。

しかし、私は逆にこう考えている。これらの業界はいつかクリアできるとすると、残りの部分の温暖化ガス削減が進んでいなければいけない。エネルギーのユーザー側、企業側を今から変えていく必要がある。

30年以降のパリ協定達成には、現状の延長線上では経済的な負担が大きい。脱炭素と経済成長を両立させるには①電力など集中型インフラの設備投資②分散型ユーザー・需要側の環境を重視した行動――の両者が協調するインセンティブメカニズムのイノベーションが有効だろう。

①ではCO2の回収・貯留・再利用技術「CCUS」、洋上風力発電、電力の長期貯蔵などで脱炭素化を進める。②では自動車の電動化、分散電源や蓄電池の導入など。この両輪が非常に重要だ。

一つの事例として蓄電池について説明したい。太陽光や風力といった再生可能エネルギーは発電量が変動するので系統に柔軟性、つまり蓄電能力が必要になる。系統の蓄電池ですべて賄おうとするとコストは非常にかかり現実的ではない。

そこで、電力需要家を束ねてマネジメントするアグリゲーターやVPP(仮想発電所)がすでに試みられている。需要が急増するときに需要を減らす要請に応じたユーザーに対してインセンティブを出す仕組みを広げていく必要がある。

分散電源のコントロールや、エネルギー需要の見える化といった技術は日進月歩で進んでいる。こうした技術を取り込み、脱炭素の取り組みを加速させるべきだ。

情報化進み電力消費増将来像の考慮欠かせず NIKKEI脱炭素委員 産業技術総合研究所エネルギー環境領域ゼロエミッション研究戦略部総括企画主幹 田中加奈子氏

田中加奈子氏

私が大学で学んでいたころ低炭素やカーボンニュートラルという言葉はなく、二酸化炭素(CO2)削減の3本柱は①再生可能エネルギーの利用②省エネ③炭素を大気から除く――だった。

消費エネルギーあたりの排出量(G/E)×生産量あたりのエネルギー消費量(E/M)×ある製品の量を得るため必要な生産量(M/P)×サービスのために必要な製品の量(P/S)×製品利用により得られるサービス(S)=G。この掛け合わせで排出量が決まる。茅陽一・東京大学名誉教授の提唱した恒等式を発展させ2014年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書第3作業部会で示された考え方だ。

低炭素と言っていたころはボトムアップで頑張ろうでよかった。しかしカーボンニュートラルは「ゼロ」あるいは「相殺してゼロ」を真剣に考えなければならない。

それぞれの項目を見ると、G/Eでは再生エネ、E/Mでは省エネに一層取り組むしかない。M/Pは製品やサービスについて物質効率や利用効率をさらに向上させることだ。循環型社会やリサイクルの活用といった日本的な「もったいない精神」が表れてくる部分だ。

50年のカーボンニュートラル社会を考える上で足りないのは「他の観点から見たときの50年のありうる社会」だ。就業人口は現在より3割減り、65歳以上が2割を占める可能性もあり、ドラスティックな就業構造の変化が起こるだろう。同時に情報化社会が一層浸透し人工知能(AI)やロボットの高度利用が進む。

情報化が浸透すればデータセンターで使う電力消費が増える。低炭素社会戦略センターの試算では30年に現在の日本全体の消費量の2割を超え、50年には数百倍になりかねない。起きそうな未来から出てくる変化が大きい。産業や社会の構造変化を想定し、予測することは困難だが、そこに至る道筋(パス)を考えなければならない。

トップダウンによる目標設定と、ボトムアップによる削減積み上げのギャップを埋めていくことは大変だ。トップダウンの目標そのものが、今後大きく変わる。

就業構造が変われば新しい教育や職業訓練が求められ、ビジネスチャンスが生まれる。カーボンニュートラルは最も効果的に進められる分野から進めるべきで、日本以外に目を向け国際協力に取り組むことも必要だ。

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