「アネット」のカラックス監督 現実のレベル押し進める

寡作の鬼才9年ぶりの新作「アネット」(公開中)はミュージカルだ。
「子供のころから音楽は人生の一部だった。映画もコンポーザー(作曲家)のつもりで作っている。作曲家は楽譜にする前にメロディーラインが頭に浮かぶ。僕の映画の作り方も同じだ。物語にはあまり興味がない。描きたい映像が1つ、2つ、3つと頭に浮かぶんだ」
「今回まず浮かんだのは小さく心細そうなアネット。闇夜に1つ星がある。とても孤独な存在だ。そんなイメージ。僕が父親になったからかな」
アダム・ドライバーの父、マリオン・コティヤールの母と共に重要な役アネットはなんと人形。
「0~6歳で歌う女の子をどう存在させるか。バーチャルは嫌だ。触れることができる存在として、人形に行き着いた」
「ミュージカルは現実ではない。人が突然歌ったり、踊ったり。その前提を観客が受け入れている。だから生まれた子が人形でも、登場人物は違和感をもたず、観客も受け入れる。現実のレベルを押し進めているんだ」
初期作以来の破滅に向かう愛の物語でもある。
「僕は作品に自分の疑問や恐怖を盛り込む。愛が壊れるのは疑問から。自己破壊的になるのも自分の中で答えが見つかっていない問題の提起だ」
コロナ禍は世界をどう変えるのだろう。
「カタストロフィー後の人間の反応は2つに分かれる。やけになって自己崩壊するか、強く立ち上がるか。今回も最初は希望をもったが、今ではすっかり忘れたようだ」
「僕への影響はわからない。ただボスニア紛争が『ポーラX』に影響を与えたように、僕の作品は時々の世界の事件や戦争に対して開かれた存在だ。映画の島に住む僕は世界で起きる現実を世界と違う視点で見ている」
(古賀重樹)