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海外で社有林拡大 「排出ゼロ」実現 矢嶋進王子ホールディングス会長

脱炭素社会 創る

王子ホールディングスは2050年に温暖化ガス排出量の実質ゼロをめざす。森林による二酸化炭素(CO2)の吸収・固定、燃料転換や省エネ設備の導入による排出量削減を柱に、50年を見据えた環境ビジョンや30年に向けた環境行動目標を定めた。エネルギー多消費型産業とされる製紙業をいかに脱炭素に導くのか。矢嶋進会長は社有林拡大や森林資源の活用を説く。

CO2固定化、目標達成けん引

当社グループは50年に温暖化ガス排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)とする「環境ビジョン2050」、その道筋として30年度に18年度比で70%以上を削減する「環境行動目標2030」を定め、20年秋に公表した。

70%削減のうち50%分は森林によるCO2固定化の純増で達成する。当社グループは国内外に約58万㌶の森林を保有する。国内が約19万㌶、残りが海外だ。目標達成のため海外で植林地の面積を増やしていく。

すでに保有林があるブラジルやニュージーランド(NZ)を中心に30年度までに約15万㌶増やす計画だ。大きくなって成長が止まった木は伐採して新しい木を植える。成長が早い、CO2を吸収・固定化しやすいといった樹種の選定・植樹・育成には、当社グループが持つノウハウを活用し、効率の高い森林経営を進めていく。

ただ、排出量取引が広がってきた影響もあり、NZでは植林に適した牧草地の価格が高くなってきた。海外の年金基金などがNZの森林を買っているうえ、世界でだぶついた投資マネーも流入している。植林地の取得費用は約1000億円と試算しているが、さらに膨らむ可能性もある。

対策に2000億円

残る20%分の削減は石炭ボイラーのガスへの転換、省エネ設備への更新などで実現する。植林地の取得と合わせ、ざっと2000億円かかると試算している。経常的な修繕投資を除けば自由に使えるキャッシュフロー(CF)は年間800億円程度だ。机上の計算になるが29年度までの8年間では6400億円。今後5年間で手を打つならばCF4000億円のうち投資が2000億円を占め、かなりの負担になる。

それだけ覚悟して取り組まないと、企業として存続できないと考えている。ステークホルダー(利害関係者)に対するアカウンタビリティー(説明責任)を果たせないと認識して行動している。

計画を立てたのは世界の潮流を見据えたためだ。気候変動、地球温暖化の環境問題に対して影響力が強いのは欧州連合(EU)だ。20年初めの段階で、EUの30年の温暖化ガス削減目標(1990年比)は40%だった。これが50%以上に引き上げられるのは間違いないとみていた。今後、排出量取引が拡大し、排出量そのものに対する規制、いわゆる炭素税が課せられることになるだろう。

世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ1・5度に抑えることに伴う事業リスクを検討した。パリ協定の目標を達成できず温暖化がさらに進んだ場合、集中豪雨や干ばつが頻発する。最も大きな問題は海水面の上昇だ。1つの大きな工場で生産するのは効率が高い半面、工場水没という気候変動リスクを背負ってしまう。供給責任を果たすためには工場の分散化を検討せざるを得なくなる。

森林の維持・管理にも問題が生じる。干ばつや森林の乾燥で山火事が発生しやすくなってきた。植林地で木が育つには700㍉以上の年間降雨量が必要とされる。植林地としての可否は30年平均の降雨量をこれまで判断基準にしていたが、温暖化の影響が顕著になるなか、近年は直近の降雨量で判断するよう指示している。

厳しい目標掲げ行動を

欧州主導のタクソノミー(サステナブルな経済活動を促す基準)は確定していない段階だが、ベースになる温暖化ガス削減を急ぐ。2、3年で達成できるわけではなく、早急に行動しなければならない。ルールづくりは厳しく言うところがリーダーになり、シビアに考え行動するところが主導権を握る。それが欧州だ。

日本政府が30年度の温暖化ガスの削減目標を13年度比26%から46%に引き上げたのは正しい。日本の考え方を取り入れてもらうには、日本が厳しい目標を掲げ行動しないといけないと考えている。

当社グループが持つ脱炭素のノウハウは他社にも供与していきたい。例えば、成長が早い植林木を選び育てていくという森林経営のデータの交換・開示などを通じ、世界全体の温暖化ガス排出量削減に貢献していきたい。

森林資源の再利用循環、ノウハウ生かす


 王子ホールディングスは国内外に約58万㌶の広大な森林を保有している。内訳は、環境に配慮しつつ木材の生産を主目的とした生産林が約45万㌶、生物多様性や流域保全を主目的とした環境保全林が約13万㌶だ。2020年秋に公表した「環境行動目標2030」では、30年度までに海外を中心に15万㌶の森林をさらに増やすことを目標に掲げている。
 同社は急増する紙需要に応えるため、1910年に北海道・苫小牧に工場を新設した。製紙産業にとって原料となる木材の確保は当時から課題だった。そうしたなか、37年に王子造林を設立。森林資源の再利用循環に着手した。90年代には他社に先駆け、海外の植林事業に乗り出した。現在では日本の民間企業では最大となる約19万㌶の社有林を国内に持つ。
 海外では現在、ブラジルやニュージーランド(NZ)、インドネシア、ベトナムなど6カ国10地域で環境保全林を含め約39万㌶を維持・管理している。広葉樹として10年程度で収穫可能なユーカリやアカシア、針葉樹として約30年で収穫可能なラジアータパインなど、植林地では樹種や育成方法を決めている。
 環境行動目標2030に盛り込んだ15万㌶の森林を増やす計画を実行するため、ブラジルでは保有林の隣接地や同じ州内の近隣地などを取得すべく調査に着手している。NZでも、経済合理性を維持できる範囲で植林可能な牧草地などを取得する計画だ。
 単に保有林の面積を増やすだけでなく、効率を高める工夫にも力を入れる。例えば、ユーカリならば600種類を超えるとされる育種の中から、その土地の気候や土壌に合ったものを選び出す。国内外に持つ研究所でさらに品種改良を加えるなどして「より早く成長し、二酸化炭素(CO2)を固定化する量を増やすようにしている」(王子グリーンリソースの山口聡康植林事業部長)という。
 懸念材料は土地価格の上昇だ。CO2排出量の取引制度が整備されたNZでは、世界の年金基金をはじめ機関投資家が土地を取得するなど値上がりや投資収益を見込んだマネーが流入。この2、3年でかなり価格が上がった土地もあったという。王子ホールディングスは21年3月時点で森林取得費用を約1000億円と試算しているが、15万㌶の森林を追加取得するには、計画を大きく上回る資金が必要になる可能性もある。
 国内外の保有林による20年度のCO2純吸収量は93万5000㌧規模に上る。30年度には18年度の温暖化ガス排出量の約50%を森林によるCO2固定化で削減する計画だ。矢嶋進会長は30代で約3年半、パプアニューギニアの植林事業会社に出向した経験もあり、森林資源の価値や活用に対する思い入れも強いという。

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