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伝統と新産業 磨いて共栄 福井「幸せ県」持続に挑む

最も幸せな都道府県はどこか。日本総合研究所の全47都道府県幸福度ランキング調査(隔年実施)によると2022年度までに5回連続、過去10年間ずっと福井県が首位だ。なぜ福井か。その源泉は優れた学校教育と地元企業にある。24年春には北陸新幹線が金沢市から延伸し、福井市を経て敦賀市まで開通する。地元を主導する産官学は今、伝統と新産業を磨いて共栄させ、内外への発信を進めて地域の幸せ持続に取り組んでいる。

地域力の方程式 (ヒト+技術)×世界展開

福井市に本社を構え、地域経済をけん引するセーレンの川田達男会長に地元への思いを聞いた。

日本の良さ残す

――福井県はどんなところか。

福井は雪国で、昔から米と繊維産業の県だ。長い冬を忍耐強く過ごさねばならず湿気も多い。快晴は年40日ほどしかない。閉鎖的で保守的な面もあるといわれるが、男女ともよく働き質素で堅実、努力家だ。昔の日本の良さが残り、普通の生活の結果として幸福度1位になっている。

――セーレンの歴史と現況は。

江戸初期、徳川家康の次男で下総国(茨城県)結城城主だった結城(松平)秀康が福井藩主となり、結城紬(つむぎ)の技術がもたらされた。福井の繊維は1950~60年代、基幹産業として高度成長を支えた。繊維技術は自動車や医療、メガネなどの資材に応用されている。

地元出身が9割

セーレンは1889年に福井市で創業した。染色加工専業だったが、70年代の繊維不況に直面し、委託加工のままでは将来はないと考え、私が社長だった2005年に旧カネボウの繊維事業を買収、一貫生産体制を築いた。今は繊維の枠を超え多様な産業資材を製造・販売している。22年秋のハンガリー工場完成で欧州の生産体制も整った。国内社員の90%が県内出身だが、福井発グローバル企業に変貌している。

――「福井本拠」の強みは。

地元にいい人材がいることだ。小中高校の教育がしっかりしている。創業133年の当社は地元の大学卒を含め、福井県人が支えだ。チームで仕事し、他の社員に技術を教える。日本企業が当たり前としてきた気質だが、助け合いと思いやり、愛社精神がある。

福井は物価が安く、人件費面でも企業のプレッシャーは少ない。当社は東京在勤者に都市手当を支給するが、それでも福井の方が暮らしやすい。夫婦共働きや3世代世帯が多く、世帯年収は常に上位だ。

世界へ、宇宙へ

――今後の展望を聞きたい。

幸福度1位は現在で、現在は過去の結果だ。今までの延長線でなく、新たな夢を追いたい。福井から日本、世界へと展開しなければ成長はない。当社の海外売上高比率は60%に達している。福井県人を活用し、地元で先端技術を磨いて地球規模で事業を進める。

グローバルに通じる製品開発が重要だ。例えば本革の4倍の強度と2分の1の重量の新素材「クオーレ」を開発した。環境保護と動物愛護の時流の中で自動車内装向け需要が期待できる。環境分野で水処理の事業も拡大させる。東京大学や福井大学と連携し超小型人工衛星を開発し、宇宙ビジネスにも乗り出した。「やがて宇宙へ」を合言葉に前進していく。

幸福支える教育と仕事 Uターンの魅力増す


 福井県が幸福度1位を続ける秘訣は何か。調査を担当した日本総合研究所の松岡斉理事長は「人口が77万人(調査時点)と少ない。大都市圏よりも県民が政策に誠実に対応し、まとまりがある」と話す。その上でカギを握るのは「入り口の教育、出口の仕事」だと分析する。
 北陸新幹線の延伸開通を1年半後に控えたJR福井駅。恐竜のモニュメントが出迎える駅前では、ありがちな学習塾の看板を見つけにくい。福井県はランキング指標で「教育」と「仕事」が1位。教育力が高いという評価だが、松岡氏は「義務教育行政がうまく回っているということ。塾通いや中学受験が盛んな首都圏とは全く違う」と説明する。
 松岡氏によると、福井県の公立の小中学校は、校長と教頭も教職員組合に入っている。管理職としての校長や教頭とほかの教職員の意思疎通がスムーズで、方針を打ち出しやすい。「保護者も協力し、学校教育がうまく回る」。運動会も学校と地区の年2回体験できる。グローバル人材の必要性を見越し、小学校の英語教育も先行して取り入れた。高校で進学校が目立たないのは学力格差が少ないからだ。
 出口としての「仕事」への仕組みも整っている。福井県はUターン率が高いが、小中学校から地元企業へのインターンシップ制度を取り入れている効果とみられる。地元の有力企業を早い時期から教えていく。インターンには保護者が同伴する。大都市圏の大学に進学しても地元に戻って働くストーリーを親子で描けるのだ。「かわいい孫が戻ってくれば祖父母も元気になる。3世代の幸せにつながる」(松岡氏)。日本の強みだった普通の教育と仕事が幸せの決め手になる。

3大都市圏に接近 「価値づくり」急務   Interview 福井県知事・杉本 達治氏

福井県が近くなる。北陸新幹線延伸に加え、26年春には中部縦貫自動車道も県内区間が全線開通し岐阜県境とつながる。杉本達治知事は日本経済新聞に対し、3大都市圏や産学官との連携と「価値創出」が幸福度首位を守るカギだと強調した。

               ◇ ◇ ◇

「福井県長期ビジョンの基本理念として、『安心のふくい』を未来につなぎ、もっと挑戦!もっとおもしろく!──、を掲げている。福井県は教育力が高く、生活保護受給率は最低水準。安心して暮らせる。少し足りないのが挑戦とおもしろさ。新幹線と中部縦貫道の延伸に向けてまちづくりやアリーナ構想を進め、スポーツやエンタメも充実させる」

「15年に産学官金で構成する『ふくいオープンイノベーション推進機構』を設立した。現在、県内外406機関・個人が参画し、『宇宙』『炭素繊維』『ヘルスケア』『AI(人工知能)、IoT(あらゆるモノがネットにつながる)技術、ロボット』『エネルギー関連技術』の重点5分野で共同研究や事業化を進めている。23年には産業技術総合研究所が『北陸デジタルものづくりセンター』(仮称)を坂井市に開所する。スマートテキスタイルなどの新技術に挑みたい」

「福井県は5年来ずっと有効求人倍率が全国1位。21年度から企業誘致の補助金制度を変えた。投資規模や雇用人数でなく、給与水準、U・Iターン人材や子育て世帯を連れてきてくれることなど条件のいい企業を優遇する。県民一人ひとりの価値を高めるため、ものづくりから価値づくりへと転換する」

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