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[社説]年金水準の急落を避ける改定ルールに

生活が苦しいときにツケ払いの精算を求められるようなものだ。2023年度の年金改定で、物価や賃金の伸びに連動させる改定率が少子高齢化への対応で0.6%も差し引かれることである。

年金額は4月分から67歳以下は前年度比2.2%増、68歳以上は同1.9%増となる。3年ぶりの増額改定だが、先の調整により、伸び率は賃金上昇率(2.8%)や物価上昇率(2.5%)に比べるとかなり小幅になった。

この調整は少子高齢化の進展にあわせて年金の給付を抑えるマクロ経済スライドと呼ぶ仕組みだ。現役人口の減少率と平均余命の伸びから調整率をはじき、物価や賃金の動向を反映させる毎年度の年金改定率から差し引く。

年金の持続性を維持する上で重要な仕組みだが、年金額がマイナスになる改定は行わず、翌年度以降に繰り越すルールがある。今回の調整率が0.6%と大きくなったのは、過去2年の繰り越し分を一気に解消したためである。

政府・与党は名目の年金額が減ると高齢者の反発を招くと考えているのだろう。だが物価と賃金が大きく上がったときに、繰り越し分をまとめて調整する仕組みでは物価高という厳しい局面で年金水準を急落させることになる。

物価や賃金の伸びが小さく名目の年金額が前年度を割り込んだとしても、毎年こつこつ調整していくほうが、高齢者世帯の生活への影響は小さいのではないか。

今回は賃金の伸びが物価を上回り、04年に今の年金制度になってから初めて年齢で異なる改定率になった。67歳以下の新規裁定者は賃金、68歳以上で年金をすでに受け取っている既裁定者は物価の変動率に合わせる改定の原則をようやく適用できたからだ。

既裁定者の年金を物価に連動させる原則には、年金改定を賃金の伸びよりも抑えて年金財政を改善させる狙いがある。通常の経済状態であれば賃金の伸びが物価を上回ると制度創設時はみていた。

ところが実際には賃金の伸びが物価を下回ったりマイナスになったりした。この状況で物価連動を続けると年金財政を悪化させるため、既裁定者分も賃金に連動させる特例改定を強いられていた。

物価や賃金が今後も伸び続けるとは限らない。制度の持続性を保つと同時に、年金水準の激変を避けるためにもマクロ経済スライドの発動要件を見直すべきだ。

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