[社説]年金改革は小手先ではなく広い視野で

2025年の年金制度改正に向けた議論が厚生労働省の社会保障審議会で始まった。少子高齢化が加速する中で国民の高齢期の暮らしをどう支えるのか。広い視野で議論を進めてほしい。
将来の年金水準を試算し直す5年に1度の財政検証が24年に予定されており、厚労省はこれに合わせて年金制度の改正案をまとめる方針。25年の通常国会への関連法案の提出を目指す段取りだ。
現在の公的年金制度は欠陥を抱えている。04年の改革で導入したマクロ経済スライドと呼ぶ給付調整が機能せず、国民年金の財政が悪化。1階部分にあたる基礎年金の給付水準を将来にわたって大きく下げる必要が生じている。
基礎年金は現在、満額で月額約6.5万円だが、46年以降は19年時点の賃金水準に換算して4.7万円程度まで目減りする。自営業者ら国民年金の加入者や、厚生年金の報酬比例部分が薄い低所得の会社員に大きな影響が生じる。
基礎年金の目減りを防ぐ改革の一つとして議論される国民年金の保険料納付期間の延長には賛同できる。今は20~59歳の40年間だが、働き方改革を進める観点からも64歳まで延ばしたほうがよい。納付が増えた人の年金額を増やすことで底上げにつながる。
5年間の延長部分の年金財源は今の基礎年金制度と同様に国費で半額を賄うべきだ。この国費投入には恒久的な財源が要る。そのために必要であれば、消費増税の議論も避けるべきではない。
報酬比例部分がある厚生年金の適用対象者も拡大すべきだ。労働時間が週30時間未満の雇用者が加入するには週20時間以上働き、月給が8.8万円以上ある等の要件を満たす必要がある。従業員規模の要件は従来の500人超から段階的に緩和してきたが、24年10月に50人超にして打ち止めになる。対象をさらに広げてほしい。
低年金による生活困窮者が続出する事態を防ぐには、高齢期の住宅確保の支援を充実させるなど公的年金制度の枠を超えた改革が必要だ。私的年金と一体で老後に備える重要性も増している。
最低所得を保障するベーシックインカムなど様々な抜本改革案を野党や識者が提起している。専業主婦のいる世帯をモデルとする制度も時代遅れだ。現行制度の枠内で傷口を塞ぐ小手先の発想ではなく、広い視野を持って持続性の高い仕組みを再構築してほしい。