/

森林資源の循環確立 令和版「自利利他」に 光吉敏郎・住友林業社長

脱炭素社会 創る

住友林業は「脱炭素化へ向けた長期ビジョン」を2月に発表した。組成予定のグローバル森林ファンドの活用によりアジア・太平洋や北米で森林を拡大し、質の高い二酸化炭素(CO2)吸収源を提供。あわせて伐採・加工、利用、再利用、植林という森林資源の循環を確立する。光吉敏郎社長は住友グループの事業精神「自利利他公私一如」に基づき、森林の活性化と木材建築の普及を通じた脱炭素への貢献を「令和版の『自利利他』にしたい」と力説する。

木を「守る」1000億円ファンド

2月14日に脱炭素化へ向けた長期ビジョンとその第1段階となる2024年12月期まで3年間の中期経営計画を発表した。長期ビジョンは「Mission TREEING 2030~地球を、快適な住まいとして受け継いでいくために~」を名称・ステートメントとした。あらゆる人やすべての生き物に、地球が快適な住まいとして受け継がれていくようめざす。

目玉の一つがグローバル森林ファンドの組成だ。山を買って木を切り、キャッシュを生み出す経済的な林業を対象とした森林ファンドは、株式や債券ではないオルタナティブ(代替)投資として北米や欧州を中心に行われてきた。ただ、当社の考える森林ファンドは経済的な林業だけを目的としていない。

CO2吸収源の価値に加え生物多様性の維持、水質保全、水源涵養(かんよう)、土砂災害の防止といった公益的な価値が評価される時代がやってくる。そうした価値を生み出すための資金の箱であり仕組みだ。

保有林50万ヘクタールへ8割増

ファンドの中核資産には、サステナブル(持続可能)な林業がすでに確立した北米やオセアニアの森林を組み入れる。これに、違法伐採や山火事で荒れてしまった土地に新たに植林するインドネシアなど東南アジアの事業地も加える。こうした事業地は木を切ることでキャッシュを生み出すのではなく、守ることでCO2を吸収するカーボンクレジット(排出枠)の価値創出を目的とした資産になる。

出資する企業が安定したリターンとカーボンクレジットをしっかり得られるようにしたい。21年の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)でルールが決まり、今後数年で方向性が見えてくるはずだ。第1号のファンドは24年までに立ち上げ、30年までに運用資産を1000億円規模に育てたい。当社が保有・管理する森林(21年)は国内外合わせて27万9000㌶。30年には1・8倍の50万㌶に増やす目標だ。

同時に進めているのが、21年に業務提携したIHIとの協業だ。IHIの持つ人工衛星データ活用や気象予測の技術と、当社が保有する泥炭火災を防ぐ森林管理技術や森林データを組み合わせ、熱帯泥炭地の地下水位を予測する森林管理コンサルティング事業開始をめざす。

質高いクレジット創出

熱帯泥炭地の土壌は大部分が水で構成され、残りは樹木の枝葉などが腐らずに堆積している。インドネシアや中部アフリカ、南米アマゾンに分布し、貯蔵するCO2の量は世界のCO2排出量の10倍以上とされる。これを守ることは地球のために本当に重要だ。当社はインドネシアで泥炭地を破壊せず守りながら木を植え、生物多様性を維持する林業を営んでいる。

IHIとの協業では、山火事や違法伐採で森林が失われていないかモニタリングし、CO2固定量を計測する。まさにグリーンウオッシュではない、科学的な根拠を持った質の高い炭素クレジットを創出する狙いだ。

当社のCO2排出量(20年)は949万㌧。うち自社の排出量(スコープ1、2)は37万㌧。保有・管理する森林のCO2吸収量(77・8万㌧)が上回り、自社ではカーボンネガティブを達成済みだ。スコープ3は排出量全体の96%を占める。木材・建材メーカーと連携して環境認証ラベル「EPD」の普及を進めるとともに、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)を推進していく。

住友の事業精神の一つに「自利利他公私一如(じりりたこうしいちにょ)」がある。「住友の事業は住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利する事業でなければならない」「企業は私的な存在であると同時に公的な器である」という意味だ。森林の活性化と木材建築の普及で世界の脱炭素に貢献し、令和版の「自利利他」にしたい。

CO2排出量、すべての建築物に記載を


 2050年のカーボンニュートラルを達成するため森林による二酸化炭素(CO2)吸収量をいかに増やすか。住友林業の光吉敏郎社長は世界と日本の課題はそれぞれ違うと説明する。海外では気候変動に伴う山火事や違法伐採などで森林が減少しているため、保護林を守り増やす「森林の保全・拡大」が求められていると指摘する。
 一方で日本はスギ、ヒノキ、カラマツなど戦後植林された人工林が伐採適齢期を迎えているものの、林業従事者の高齢化・人手不足などで伐採が進んでいない。森林は高齢化でCO2吸収量が減る。日本は国土の7割近くが森林だが、国産材の価格競争力が低く、6割の輸入材に頼る。21年に起きた輸入材の供給不足と価格高騰「ウッドショック」は記憶に新しい。
 欧州やニュージーランドのような循環型森林ビジネスを日本でも確立するには「川上の林業、川中の木材製造・流通業、川下の建築。3つの問題を解決し、ウッドサイクルを回せるようにする必要がある」という。
 国産材のコスト競争力を高めるため木材コンビナートを設立する。2月に鹿児島県志布志市と立地基本協定を結んだ。臨海工業団地の約8万8000平方㍍を取得。木材加工工場とバイオマス発電所の建設を検討し、25年にも稼働する目標だ。
 発電所も併設することで木を余すことなく使うカスケード利用を進め、コンビナート1カ所の丸太の年間使用量は20万~30万立方㍍を想定する。30年までに全国に3、4カ所設立する。今後3年間の投資額は200億円を見込む。
 木材需要の拡大では、オフィスビルや学校など非住宅建造物の木造化を進める。建築面積でみて住宅の木造化は7割程度に達しているが、非住宅はおよそ1割にとどまっている。構造材の標準化やユニット化による工期短縮でコストを抑える。
 建築時のCO2削減に向け、資材・建材メーカーと連携して環境認証ラベル「EPD」を普及させる。これとは別にフィンランドのOne Click LCA社と単独代理店契約し、日本で同社ソフトウエアの利用を広げる。建築現場で使う資材データをもとに、見積もりと同時にCO2排出量を算定できる。
 光吉社長は「クッキーやチョコレートの包装にカロリー表示があるように、すべての住宅・建築物にCO2排出量が記載される。これが私の夢であり、目標だ」と話し、業界全体に脱炭素化に役立つツールの採用などを働きかけていく考えだ。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

カーボンゼロ

温暖化ガス排出を実質ゼロにするカーボンゼロ。EVや再生可能エネルギー、蓄電池、各国政策などの最新ニュースのほか、連載企画やデータ解説を提供します。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン