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虎穴に入らずんば…ロッテ・安田にみる人材育成の妙

編集委員 篠山正幸

昨季の経験を生かして大きく羽ばたこうとしているロッテ・安田(25日)=共同

プロ野球における各チームの1試合あたりの打席数を計算すると、セ、パ両リーグともに37.6という数字になる(2020年)。この限られた打席数をどの選手に割り振るかに、チームづくりの意図が浮き出る。昨季、貴重な打席を安田尚憲(22)に託し続けたロッテが、先行投資の果実を手にしつつある。

勝つために、考えるまでもなく打席に立たせるべき主軸がいる一方で、結果を多少度外視してでも経験を積ませたい若手もいる。3年目を迎えた昨季の安田は後者だった。打率2割2分1厘に本塁打6本、54打点。120試合中87試合で4番という重用度合いからして、及第とはいえなかった。

それでも井口資仁監督は終盤、ぎりぎりになるまで4番を任せ続けた。「ほかに4番を打たせられる選手がいなかった」(同監督)という事情もあるにはあったが、長距離砲としての才能を見込み、主軸に育てあげるという球団全体で共有する意思を貫徹した。

昨季、ロッテはチーム全体で4505という打席数があった。その1割強にあたる460打席を安田は得た。しかも、大半を4番という要の打順で。

経験がもたらしたものは大きかったようだ。今季、4番三塁で先発し続けている安田は4月1日の楽天戦で5打数2安打5打点と大暴れするなど、順調に打点を稼いでいる。26日現在、28打点でリーグトップ。すでに昨年の半分を超え、本塁打も5本放っている。

先制打、同点打など「肩書付き」の打席も増え、風格が伴ってきたようにみえる。井口監督の口調の変化が、「4番安田」が立つステージが変わったことを示す。

昨季、初めて4番に据えた7月下旬あたりのこと。時期尚早では、との思いを抱きつつ打順へのはまり具合を尋ねると「高校時代(大阪・履正社高)から4番しか打ったことがない人だからね」。はまり役のはず、というのではあるが、口調にはまだまだお試し期間、という軽さがあった。

新人、鈴木昭汰㊨の初勝利を祝う井口監督。安田や3年目の藤原恭大ら若手を大胆に登用してきた(25日)=共同

ところが今年は同じ質問について「しっかり仕事をしてくれているけれど、打率をみたらまだまだだし、もっと打点をあげるチャンスもあった。そういうところでしっかり無駄なく、点をとってほしい」という答えが返ってくる。これはお試しでもなんでもない、真の4番に対する厳しさだ。

安田の発言にも進境がうかがえる。初回の先制打と2号を含む3安打4打点をマークした4月7日のオリックス戦のあと。

打席に向かう気持ちを問われ「結果も出ていなかったけど、ネガティブな気持ちはおいといて、前向きに……去年よりは下向きにならずにできているかな。去年ああいうつらい経験をしているので、それがいい方向に出ているのかな」と話した。

試合前までの打率は1割3分5厘だった。スコアボードに表示される数字は嫌でも目につく。「正直、内心バクバクだったが、消極的にならないように前向きにやれた」。「内心バクバク」が表に出なくなった分、主軸としての心づもりができてきたのかもしれない。

昨季はそこまで腹が固まっていなかった。10月1日の日本ハム戦、2-3の九回2死満塁で、宮西尚生から見逃し三振に終わった。結果はともかく、自分のバットで決める、という気持ちを持てなかったことに悔いが残った。これらの打席が「ああいうつらい経験」という言葉となって出てくるのだろう。

経験がもたらす技術面での蓄積も、もちろん大きい。今年、脚の上げ方を変え、ゆったりとタイミングを取れるようにしたのは去年得た「引き出し」によるものだという。打席でのスタンスをクローズド気味に変えたことにも、昨年来の試行錯誤が生かされているようだ。

しかし、何といっても1軍でもまれることの一番の意味は、戦い続けるために必要な心のスタンスを固められるところにある。井口監督も、安田の内面的な変化をみながら、貴重な打席を預け続けたのだろう。

3年目の中日・根尾。開幕戦で先発に起用したベンチの期待に応え、チャンスをものにできるか=共同

虎穴に入らずんば虎児を得ずで、リスクを冒さなくては人材育成もままならない。一方、目先の試合を勝たなくてはならない監督にとって、成績があがらなければ先行投資どころではなくなってくる。

中日の3年目、根尾昂(あきら)は開幕の先発メンバーに名を連ねたが、ベンチを温めることが増えてきた。勝ちながら育てる、ということがいかに難しいか。早く羽ばたいてくれ、と願う監督たちは選手以上にドキドキしながら、一投一打を見守っているのではないだろうか。

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