持続可能な社会 地域と若者が企業の力に - 日本経済新聞
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持続可能な社会 地域と若者が企業の力に

日経バリューサーチフォーラムの議論から

日本経済新聞社は10月7日、サステナビリティー(持続可能性)のある社会の未来を探る日経バリューサーチフォーラム「新価値創造で開くサステナ社会の扉」をオンラインで開催した。東急不動産の岡田正志社長が地域社会に貢献する環境先進企業について講演したほか、東京大学の高村ゆかり教授らがZ世代の若者と持続可能な社会について語り合った。

地域社会と共生し環境先進企業に

東急不動産 岡田正志社長

脱炭素社会、循環型社会、生物多様性の3つをテーマにして環境施策に取り組んでいる。環境対応とビジネスを両立させ、様々な環境施策を継続することが重要で、環境先進企業を目指すためには各地域の皆さんに溶け込み、一緒に考えていくことが不可欠。各地域の社会課題の解決に向き合い、全国の地域と共生し、事業を通じた持続型の環境対応を進めている。

例えば、長野県茅野市のゴルフ場では、森林の間伐で出た廃材をバイオマスボイラーで活用して地域循環型の環境づくりを進めている。沖縄県恩納村のハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄では海洋の温暖化などで個体数が減少するカクレクマノミを保護・育成するプロジェクトを実施し、SDGs(持続可能な開発目標)先進自治体と呼ばれる恩納村とも協力している。

脱炭素へ自治体と企業が連携

東京大学未来ビジョン研究センター 高村ゆかり教授

地域を脱炭素化していこうという大きな動きがあり、2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)を目指す自治体は785になっている。環境省の脱炭素先行地域は第1回目として26自治体が選定され、多くの自治体が企業と連携し脱炭素化を進めている。

今、政策の中心は大きく変わっており、カーボンニュートラルに向けた社会の変化に対応した産業を重点に置いた気候変動政策になっている。脱炭素社会に向けて変わるマーケットのニーズに企業が対応することで、企業の産業競争力を増していこうということだ。

気候変動、生物多様性、資源循環の問題は、それぞれ関連して私たちの社会の大きな課題になっていて、これらを統合的に解決する必要がある。環境の観点からだけでなく、地域の課題を解決していく視点が重要だ。

海の豊かさを守り、暮らし改善

沖縄県恩納村 長浜善巳村長

恩納村は2018年に「サンゴの村宣言」をして、世界一サンゴに優しい村をビジョンとして掲げている。気候変動やサンゴを始めとした生物多様性の保存などは環境だけの問題ではなく、村内で活動する一人一人の暮らしや活動に大きく影響する問題。それを念頭に置いて、みんなで環境や暮らしを改善していくことを目標にしている。

SDGsを目指し、サンゴの村宣言の施策をより具体化する取り組みが内閣府に評価され、19年に「SDGs未来都市」の選定を受けた。海の豊かさと陸の豊かさを守ることを通して、観光業や農業、漁業などの付加価値を上げ、村民生活の質の向上につなげたい。生活が充実すれば、村民の目線もおのずと環境に目が向き、好循環が生まれると考えている。

パネル討論

パネル討論にはZ世代も参加し、サステナブルな社会づくりに向けた企業の活動などについて議論が続いた。

企業の環境関連データを自動集計するサービスを手掛けるサステナブル・デザイン(東京・渋谷)の松本恵社長は「脱炭素などの取り組みに関する情報開示の要請が高まるなか、持続可能性の可視化が非常に重要になる」と指摘。顧客、株主・投資家、従業員、地域社会などと同様に「未来世代も重要なステークホルダー(利害関係者)だと意識している」と語った。

地球環境を守る「地球医」を育成する東大のプログラムに参加する東大大学院修士2年の鳥井要佑氏は「未来の地球のために何がしたいのかを学生は真剣に深く考えている」と述べた。企業との関係については「若者が一方的に企業を『グリーンウオッシュ(見せかけの環境対応)』だと批判し、企業は情報を出しても若者が見てくれないといった不毛な一方通行がある気がする」との見方を示し、Z世代と企業の対話の重要性を訴えた。

環境団体SWiTCHの佐座槙苗代表理事も「若者がどんな未来をつくっていきたいのかを対話の中で企業がヒアリングするシステムが必要」と語った。そのうえで持続可能な社会の構築に向けて行動できる若手人材「サステナブルアンバサダー」を100万人育成する計画について説明し、「若者たちが応援したい企業ランキングもつくりたい」と具体的な行動に意欲を示した。

企業とZ世代をつなぐサイトを運営するアレスグッド(神奈川県鎌倉市)の勝見仁泰CEO(最高経営責任者)は「脱炭素や持続可能性はアウトプット(成果)で、その前にはOS(基本ソフト)が大事。これは何かといえば組織だ。日本は組織のダイバーシティー(多様性)への投資がなされていない」と指摘。さらに「OSを整えるなどのアクションが必要」と強調した。

東大の高村教授は「若い世代が次のマーケットの担い手であり、社会の担い手。行動したい、OSを変える取り組みをしたいという若者と企業がうまく手をつなげるとよいだろう」と話していた。

             ◇  ◇  ◇

<議論を終えて>

気候変動、生物多様性、資源循環などの地球的な課題を克服して持続可能な社会を築くための企業の役割は大きい。そのパートナーとなり得るのが地域社会、そして若手人材だ。

たとえば、東急不動産のリゾート事業。地域の自然からの恩恵をビジネスに活用しているがゆえに、事業からの収益を自然環境のために生かし、自然の持続可能性を確保しなければ事業の持続性もおぼつかない。「持続可能性とビジネスは表裏一体」(東急不動産サステナビリティ推進部長も務める松本サステナブル・デザイン社長)という典型例だ。

地域社会とのパートナーシップは強固で、長野県でのリゾート事業では、森林資源を核とした地域循環型社会をめぐり茅野市などと包括連携協定を結んでいる。沖縄県のホテルでのクマノミ育成は恩納村にある大学との連携プロジェクトになっている。

そして間伐や植林などの森を守る活動、クマノミ育成やサンゴの保全などの海の豊かさを守る活動には、未来世代の人材をパートナーにすればよいだろう。未来の地球のための具体的な行動に積極的な若者たちは持続可能性とビジネスを両立させた新しい価値を創造する担い手となり得る。

(前野雅弥)

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