排出ゼロへ強まる意志 循環型経済も変革後押し
NIKKEI脱炭素プロジェクト ユース対話会と分科会
脱炭素社会の実現を後押しする「NIKKEI脱炭素プロジェクト」は、参画企業や脱炭素委員の関心が高いテーマについて分科会方式で議論している。2022年10月には「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」について意見を交換。同年12月はエジプトで開催された第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)を振り返りながら、ユース団体との対話会を開いた。
COP27を振り返るユース対話会

世界の声聞き 決意新たに
ユース対話会ではCOP27の会場を訪れた脱炭素委員会委員や企業関係者、ユース団体の若者らが意見を交換した。次世代を担う若者とCOP27を振り返りつつ、脱炭素の実現に何が必要か真剣に話し合った。
過去10年間ほど参加してきた国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問の末吉竹二郎委員は「(政府間交渉以外に)COPのもう一つの顔は非政府組織(NGO)やユース団体など(政治家ではない)普通の人々だ。彼らがつくる国際世論の熱気が非常に高まっている」と指摘した。
2023年5月に広島市で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)で議長を務める岸田文雄首相の姿がCOP27になかったのが「非常に不思議だ」とも話した。
吉高まり委員(三菱UFJリサーチ&コンサルティングフェロー)も10年以上参加している一人だ。「(COPに合わせて開かれる)サイドイベントが巨大化し、地球規模の課題を訴える場になっている」と強調。気候変動に伴う食料危機などをアピールするパビリオンがあったという。
ユース団体の若者は会場で開かれた「カンファレンス・オブ・ユース」(COY)などに参加した。一人は「『損失と被害』を受けている地域の悲痛な声を生で聞けた」と話した。グローバルサウス(南半球を中心とした途上国)の環境活動家と話した別の団体の若者は「気候変動問題には国境がない。ニュアンスや空気感を生で感じられた」と述べ、問題への理解が深まったという。
「先進国と比べ、途上国は成長のためにまずお金が必要だ」とのアフリカ政府関係者の発言を聞いた若者は「気候変動対策が第1で、経済成長が第2と思っていたが違った」と驚きを表した。
この発言に対して、企業の参加者は「途上国には先進国と異なる価値観や経済情勢がある。国や地域の実情に合った脱炭素のロードマップを描く必要がある」と応じた。
日本の立ち位置や存在感についても議論になった。環境NGOが「化石賞」に日本を選んだ。石炭や石油など化石燃料への公的資金の拠出額が世界で最も多かったことが理由だ。COYでは日本の存在感が薄く、アジア太平洋地域でひとまとまりだと指摘する声もあった。
自社で働く若い社員の意識向上に悩む企業の出席者に対して、ユース団体の若者は日本国内で活動内容など情報発信の機会を増やすことが大事だと答えた。別の企業関係者は「現地に行って困っている人々と話すなど1次情報を得ることが、意識を変えるきっかけになる」と話した。
「『適応』の観点からみると、ジャパンパビリオンで展示されていた防災技術は日本にできる貢献策だ」と話す若者もいた。二酸化炭素(CO2)の排出削減など「緩和」のみならず、気候変動に伴う災害に対して対処する「適応」も必要だからだ。
途上国支援に基金
2022年11月にエジプト北東部のシャルムエルシェイクで開かれた第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)では、気象災害などで「損失と被害」(ロス&ダメージ)を受けた途上国を支援する基金を含む制度の創設を決めた。
「損失と被害」は地球温暖化に伴う海面上昇による土地の消失、豪雨や竜巻などの災害による被害を想定する。気候変動枠組み条約が交渉中だった1991年に島しょ国が海面上昇の被害を支援する仕組みを求めたのが発端だ。
COP27では基金の設置に先進国が慎重で調整が難航した。資金の出し手や支援対象など基金の基本的な枠組みについては「移行委員会」を設置し、詰める。2023年11〜12月にアラブ首長国連邦(UAE)で開くCOP28で決定することを目指す。
合意文書には、21年に英グラスゴーで開いたCOP26の合意内容を改めて盛り込んだ。パリ協定の「1.5度目標」に基づく取り組みや石炭火力発電所の段階的削減などだ。削減目標の引き上げは具体的な方策が盛り込まれなかったが、今後の検討プロセスについては決めている。
NIKKEI脱炭素委員会の高村ゆかり委員長(東京大学未来ビジョン研究センター教授)はCOP27について、「ロシアによるウクライナ侵攻やエネルギー・食料危機といった複合的な危機の中で開催された会議だった」と述べた。「危機の中、どう取り組むかという難しさはあるが、移行に向けて現実に歩みを進めようとする果敢な挑戦が展開する」と総括した。

ユース対話会に参加した企業やユース団体の出席者は以下の通り(敬称略)
【参画企業】伊原彩乃ボストン・コンサルティング・グループプロジェクトリーダー▽清水一滴大和証券サステナビリティ・ソリューション推進部長▽伊井幸恵みずほフィナンシャルグループサステナブルビジネス部サステナビリティ・チーフストラテジスト▽野尻敬午日本ガイシESG推進部長▽山本有三井不動産サステナビリティ推進本部サステナビリティ推進部長▽石川智隆EY Japanマーケッツディレクター▽川村菜海EY Japan BMCアシスタントディレクター▽奥田久栄JERA取締役副社長執行役員▽宇佐美博之JERA企業価値創造部広報室▽光行康明Abalance社長▽白国哲大WWB GX営業推進部・脱炭素法人営業部部長
【ユース団体】▽Climate Youth Japan山本陽来、望月碧、内田大義▽Youth Econet高橋克英▽Fridays For Future Japan高田陽平▽record1.5中村涼夏、山本大貴
新規参画企業
グリーンエネで貢献 Abalance社長 光行康明氏

当社はグリーンエネルギー事業が中心で、連結売上高の95%以上を占めている。子会社にWWB、バローズなどがあり、ベトナムのVSUNは太陽光パネルの生産を自社工場で行い急成長している。
弊社グループの強みは垂直型のワンストップ・ソリューションという点だ。企画から設計、調達、工事とパネルの自社製造、O&M(運転・保守)まで行っている。太陽光パネルのリユース・リサイクルにも力を入れている。
電力事業はつくって投資家に売るスタイルから我々が保有するストック型ビジネスに変えた。東南アジアを含め2030年までに原発1基分に相当する1ギガ(ギガは10億)ワットの発電容量を目標としている。脱炭素法人営業部も立ち上げ、再生可能エネルギー認証システムなどの研究もしている。光触媒の開発、水素電池の研究も行い、微力ながら脱炭素社会実現に貢献していく。
サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラル分科会
競争力引き上げに寄与
脱炭素社会の実現を後押しする「NIKKEI脱炭素プロジェクト」は2年目に入り、脱炭素委員や参画企業の関心が高い個別テーマを分科会形式で活発に議論している。「生物多様性と自然資本」「ディスクロージャーと金融」「エネルギー」に続き、取り上げたのは「サーキュラーエコノミー(循環型経済)とカーボンニュートラル」だ。
サーキュラーエコノミーについての分科会は、2022年10月に都内のホテルで開いた。循環型経済は従来の「3R」(リデュース、リユース、リサイクル)の取り組みに加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、新たな付加価値を生み出す経済活動だ。50年の二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロ(カーボンニュートラル)を達成するうえで大きく寄与する。
分科会に出席した企業の出席者からは、飲料用ペットボトルの水平リサイクル、既存の建物の躯体(くたい)を生かして再生する「リファイニング建築」の事例などが紹介された。
脱炭素委員からは、プラスチック資源循環促進法を22年4月に施行した日本のみならず、世界的にプラスチックの資源循環について関心が高まっているとの指摘があった。脱炭素委員会の高村ゆかり委員長(東京大学未来ビジョン研究センター教授)は「CO2排出量と比較して、循環型経済は価値とコストの見える化が難しい」と話した。環境省の土居健太郎環境再生・資源循環局長は「廃棄物に関しては推計する部分が相当あり、エネルギー統計に基づくCO2排出量に比べデータの精度が違う」と述べた。
日本は循環型経済について海外に比べて優位に立っており、日本企業の競争力引き上げにつながるとの見方を披露する企業もあった。

廃棄物の発生 最少化 環境省環境再生・資源循環局長 土居健太郎氏

我が国における二酸化炭素(CO2)排出量のうち資源循環が貢献できる部門は合計で36%ほどと試算している。例えば、製鉄の際は電炉を使った方がCO2も少なく済み、鉄スクラップに混じる銅の量を減らすことができれば間接的に製鉄部門のCO2を減らせる。
直接排出では、主に廃プラスチックと廃油の焼却・燃料利用の対策が大切だ。特に大きな割合を占める廃プラの資源循環を進めることが極めて重要。廃油はかなりの部分が溶媒や潤滑油で今の技術では代替が難しいため、使用量を減らしリサイクルを進めることが大事だ。
こうした議論を審議会で行っている。第4次循環基本計画の点検とその結果については循環経済工程表という形で2022年9月に公表し、50年を見据えて循環型経済がどのような方向に進むべきかをとりまとめた。
循環型経済とはそれぞれの資源・製品の価値の最大化に始まり、資源投入量や消費の抑制、廃棄物の発生を最少化していくことだ。これを進める上で重要な点が3つあり、1つ目は環境配慮の設計を進めること。プラスチックであれば紙やバイオマス資源に代替するとともに、製品からサービスに切り替えていく。2つ目はデジタル化の推進。3つ目は必ず出る残渣(ざんさ)の適正処理を確実に行うインフラの維持だ。
資源循環を通じて脱炭素社会をつくるには、バリューチェーン全体を考える必要がある。特に金属系のものは経済安全保障にも直結する物品がたくさんある。バイオマス系の対策も非常に重要で、持続可能な航空燃料(SAF)の調達に関して官民協議会を立ち上げ、環境省も参加している。


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