「強すぎるドルに潜むテールリスク」 中空麻奈氏
マネーの世界 教えて高井さん YouTubeライブ
国や企業の信用力を分析して投資収益を狙うクレジット投資の世界は、独特のリスク感覚が求められる。
債券は、株式よりリスクが低い分、大きなリターンは見込みにくい。一方、リーマン・ショックや欧州債務危機のように、経済が乱気流に突入すればクレジット市場は修羅場と化す。「平時」の持続力を見極めつつ、リスクとリターンのバランスが一変するテールリスク(確率は低いが影響の甚大なリスク)への嗅覚が鋭くないと生き残れない。
ロシアによるウクライナ侵攻から1年というタイミングで開いた日経マネーのまなび(まねび)のYouTubeライブでは、クレジット投資のプロの信頼を長年集めてきた第一人者、BNPパリバ証券の中空麻奈氏をゲストに招き、世界経済とマーケットに潜むリスクを総点検した。
最初は目先の注目イベント、日銀の新体制移行と金融政策の行方についてポイントを整理してもらった。債券市場の機能回復と金融緩和継続の両立がいかに難路か、ポイントをおさえた解説の詳細は動画をご覧いただきたい。
中空氏が真骨頂を発揮してくれたのはやはりリスク分析だった。インフレやドル高、中国経済の減速といった逆風が重なる新興国については、局所的なトラブルは続くものの、世界的システミックリスクの震源地になる可能性は低いと冷静な見方を示した。中国経済についても、不動産市場の大崩れがないかぎり、当面は世界経済の重荷にはなりにくいとみる。
一方、意外なテールリスクとして挙げたのが「プラザ合意2.0」だ。強すぎるドルが米国にとって不都合になれば、1985年の各国協調によるドル高是正の再現が起きうると読む。基軸通貨ドルの動揺が現実になれば、経済とマーケットを揺さぶるのは必至だ。
現時点では、米国経済は大きな景気後退なしにインフレを鎮静化できる軟着陸シナリオへの期待が根強い。だが、物価が高止まりし、利下げが遠のけば、スタグフレーションの懸念は強まる。気候変動やウクライナ危機の影響で物価や金利の「居所」が変わり、米国の通貨・金融政策が歴史的転換点を迎えるかもしれない――。
繰り返すが、これはテールリスク、万が一起きたら世界が一変する潜在的なリスクでしかない。しかし、世界が今、何があってもおかしくない激動の時代にあることは、2020年代に入って我々が嫌というほど学んできたことでもある。
YouTubeで公開している約1時間の完全版では、日本の財政状況や欧州経済のおかれた厳しい現状についても踏み込んだ分析を聞いている。世界経済の全体像を再点検しておきたい方には大いに参考になるだろう。
(編集委員 高井宏章)
【完全版】危機の時代、リスクはどこに 教えて中空さん&高井さん
https://youtube.com/live/sNjgNX_r18Q
「マネーのまなび」ツイッター
https://twitter.com/nikkei_manebi
難しげな専門用語が多く、とっつきにくい経済や金融の世界。ベテラン記者の「高井さん」が勘所をかみ砕いてスッキリ解説します。
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