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為替相場を予想してみよう 全国学生対抗円ダービー2021

外国為替相場(がいこくかわせそうば)と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? ニュースで「円安・ドル高が進んだ」と聞いて、お金の値段が上下するのを不思議に思ったことがある人も多いでしょう。

ここでは外為市場(がいためしじょう)のあらましと予想の仕方について、できるだけ簡単に解説します。皆さんが全国学生対抗円ダービーへの参加を通じ、経済や政治に関わるニュースや数字に少しでも親しんでもらえたらと思います。

1.外国為替市場の基本

為替は「遠くの相手とのお金のやりとり」

各国の通貨同士で取引するために必要な外為市場=ロイター

まず「為替(かわせ)」という言葉の意味から確認しておきましょう。為替は簡単に言うと、「離れた場所にいる相手と、お金を実際には移動させずにやりとりする仕組み」を指します。これでも難しいですね……。しかし実際に用いられる場面は案外、身近なところにもあります。

インターネットで買い物をしたことがある人は多いでしょう。ネットで商品を買うと、クレジットカードやコンビニの伝票を使ってお金を支払いますよね。実はこれも為替取引の一種です。皆さんが実際に現金を持っていかなくても、カードや伝票を通じて遠くにいる人にお金を支払うことができるのは、為替が機能しているからなのです。

為替の機能を支えるのは銀行などの金融機関です。ネット通販の例では、皆さんがカードで支払いを約束すると、その人の持つ銀行口座から、商品を送ってくれる業者の口座へとお金が移動します。為替はある銀行の口座から別の銀行の口座へとお金が移動する仕組みとみなすこともできます。

ネット通販と外国為替

海外の衣料品を日本から簡単に手に入れられるのはなぜか=AP

さて外国為替でも、基本的な仕組みは変わりません。日本にいるあなたが米国の通販サイトでしか売っていないTシャツを買うとしましょう。あなたは米国までお金を持って行けませんから、自分の銀行口座から米国のTシャツ業者の銀行口座にお金を振り込むことで取引を成立させることができます。

しかし1つ大きな問題があります。あなたは日本で使える円を持っていますが、米国の会社は自国で使えるドルで支払いを求めてくるからです。Tシャツを買うためには円をドルに替えなくてはなりません。

ここで登場するのが外為市場です。あなたが口座を持つ日本の銀行は外為市場を通じて円をドルに替え、米国の銀行にドルを振り込みます。そして外為市場でついた円やドルの値段を外為相場と呼ぶのです。「市場」は交換の場、「相場」は市場でついた値段と覚えておけばいいですね。

さて外為相場は日々刻々と変化しています。通販サイトで40ドルという表示が出ていたTシャツは、1㌦=110円ならいくらになるでしょう? 110×40=4400円ですね。

では1㌦=120円になったらどうでしょう? 今度は120×40=4800円ですから、Tシャツは値上がりしてしまいましたね。こうして1㌦の値段が上がったり下がったりする理由を考え、1~2カ月先にいくらになるかを予想することこそ、皆さんが参加する学生対抗円ダービーです。

為替の値動きは普段とは逆

さて円ダービーに参加する上で、基本的なことをもう少しおさらいしましょう。

まず注意したいのは、外為相場の上がり下がりは通常のモノの値段とは逆に表示されることです。先ほどのTシャツの例のように、1ドル=110円が120円に変化したとしましょう。このとき円の数字が大きくなったので「円高になった」と言いたくなるかもしれません。しかし外為相場では逆に、この動きを円安が進んだとみます。

なぜでしょうか? それは当初110円の値段がついていた1ドルが120円に値上がりしたと考えるからです。ドルの値段が10円上がったのでドル高。裏返すと円の値段が10円下がったので円安。まとめると1ドル=110円から120円への変化は「10円の円安・ドル高が進んだ」ことになります。

円相場の動きは新聞、テレビ、インターネットなどで知ることができます。例えば日本経済新聞では、朝刊1面左下の「MARKETS」欄に前日の終値(おわりね)を掲載しているほか、「マーケット総合面」で詳しい解説を読むことができます。日経電子版では「マーケット→為替・金利」のコーナーで刻々と変化する円相場の状況を追うことができます。

刻々と変動する外為市場(東京都中央区)

日経電子版マーケット→為替・金利コーナー

2.為替相場を動かす要因

需要と供給から考える

ここからは円やドルの値段が変化する理由を考えてみましょう。円相場を動かす要因はいろいろなものがありますが、まずは基本的な「需要と供給」という考え方から紹介します。

モノやサービスの値段が「買いたい人の数(需要)」と「市場に出回る量(供給)」で決まるという考え方は、教科書などで目にしたことがあるかもしれません。買いたい人が増えれば値段は上がりますし、少なくなれば値段は下がります。市場に出回るモノの量の増減によっても値段は上下します。

実は外為市場でも、通貨に対して需要と供給の原理が働いています。

まずは貿易がわかりやすい例です。例えば日本から米国への自動車の輸出が増える時に、通貨への需要はどう変化するでしょうか。

日本の輸出企業は米国企業に自動車を売った代金を、最終的には円で受け取らなければなりません。ドルを持っていても日本国内では仕入れの代金や従業員への給料を払えないからです。つまり輸出が増えるときには、日本企業がドルを円に替える、つまり円を買う需要が膨らむことになります。このため日本の輸出が輸入を上回る(貿易黒字が増える)局面では円の需要が増え、相場は円高・ドル安に動きやすくなるのです。

北米向けに輸出される自動車

投資も相場を動かします。生命保険会社などの機関投資家やヘッジファンドは、私たちから預かったお金を運用して増やすため、国境を越えて株式や債券を売買します。投資家は例えば日本の株価が下がると見れば、日本企業の株を売って米国企業の株を買おうとするでしょう。このとき投資家は株式を買うドルを手に入れるために円を売ります。円の売りが増えれば円安が進む要因となるのです。

このように貿易や資産運用にかかわる企業や投資家の行動により、外為市場の需給は変化するのです。

金利――中央銀行に注目する

次に外為相場の動きに大きく関わる「金利」について紹介します。

金利とは誰かにお金を貸したとき、1カ月後や1年後につく利息のことです。あなたが友達に1万円を貸すとき、1年後に1万1000円で返してもらいたいと思ったとしましょう。このとき友達への貸出金利は年利10%となります。

ワシントンにある米連邦準備理事会=ロイター

この金利は外為相場を短期的に動かす最大の要素といえます。なぜなら金利は1カ月や1年後のお金の価値を表しているからです。たとえば米国の金利が3%で、日本の金利が1%なら、あなたは日米どちらの銀行に余分なお金を預けたいと思いますか? 銀行に払う手数料や細かい条件を抜きに考えれば、米国と答える人が普通でしょう。

外為市場でも基本的に、お金は金利が高い国に流れる傾向があります。日本では低金利が続いており、預金をしてもほとんど利息は付きません。これに対し、外国の通貨で外貨預金をすれば、もっと高い金利がつくことが少なくありません。日本円よりも外貨で預金する方が得だと考える個人や企業が増えれば、円が売られて外国の通貨が買われる、つまり円安となるのです。

各国の金利が決まる上で重要な役割を果たしているのが中央銀行の金融政策です。日本の日銀や米国の米連邦準備理事会(FRB)は各国に出回るお金の量を増減させることで金利の水準に影響を及ぼしています。お金の量を増やす金融政策を「緩和」といい、減らす政策を「引き締め」と呼んでいます。中銀が金融緩和をするとその国のお金の量は増え、お金を借りやすくなるので金利は下がることになります。通常、中銀は景気が悪いときには緩和、景気がよくなってくると引き締めの政策をとります。

金利の決定に重要な役割を果たす日本銀行

たとえば日銀が金融緩和をしたとすれば、日本の金利は下がります。対してFRBの金融政策が変わらなければ、日本の金利が下がった分、米国への投資が有利になりますね。したがって日銀の金融緩和は円を売ってドルを買う取引を増やし、円安につながる傾向があります。

ここまで説明した通貨の「需給」と「金利」の2つの要素は、実際の相場をどのように動かしたのでしょうか? 2020年は1年を通じて緩やかな円高が続いた一方、21年に入ると急速な円安に転じました。

インドのムンバイで新型コロナワクチンの注射待ちで行列する人々=AP

20年は新型コロナウイルスの感染拡大で景気が悪くなるとみた各国の中銀が、一斉に金融緩和をしました。特にFRBが金利を大幅に下げたことで、日米の金利差は小さくなりました。すると日本企業が海外に輸出や投資を多くしているという「実需」に注目が集まり、円が買われるようになったのです。

21年になると状況が変わります。米国の景気がいち早く回復するように見られると、FRBが金利を上げるという予想に勢いがつきます。すると日米の金利差がまた開く方向になるので、円が売られるようになったのです。以下の記事では、この間の動きを詳しく解説しています。

シン・カワセの力学 円相場、米金利・ワクチンで再起動

物価――インフレは通貨を安くする

物価はモノやサービスの価格全体のことで、消費者物価指数などで測ります。一般に物価が上がる「インフレーション(インフレ)」が起きるとその国の通貨は下落し、デフレが進む局面では通貨価値は上昇します。なぜでしょう。例えば、モノの価格が高くなるということは、同じ100円で買えるモノの量が減ることを意味します。つまり裏返すと、インフレで物価が上がっているときは、お金の「モノを買う力(購買力)=お金の価値」が下がっているのです。デフレのときは「お金の価値」が上がっているので円高になりやすいと言えます。

購買力平価をはかる基準としてマクドナルドのビッグマックはよく知られている

さらに物価から為替相場を占う場合、「各国の物価水準をそろえて比較する」という発展した考え方もあります。日本と米国でモノの値段は異なりますが、日本と米国で同じくらいの量や品質のモノを買える為替レートを仮定するという方法です。そして仮定した為替レートに比べ、現在の円相場が円高ならば円安に動くと考え、逆に想定レートより円安ならば円高に動くと考えます。この仮定レートは長期的な為替相場の水準を決める有力な指標として「購買力平価」と呼ばれています。大学生以上のチームは一度は調べてみるのがいいでしょう。

購買力とは 賃金やハンバーガー…物差し多様

3.いかに予想するか

ニュースの先を読む

さてここからは実際に円相場を予想する方法を解説していきましょう。予想のやり方は大きく分けて、「ニュースやイベントから予想する」「数字やデータをもとに予想を立てる」という2つの方法があります。

まずはニュースやイベントに注目するやり方です。円ダービーでは1~2カ月後の為替相場を予想するわけですから、ただ日々のニュースを拾っていても意味がありません。大切なのは「為替相場を動かすようなニュース」を集め、どのように動くかについて仮説を立てることです。

中央銀行の動きには世界的な関心が集まる。為替相場の予想にも重要なヒントとなる(日本経済新聞の速報記事や解説記事など)

たとえば各国の中銀が次にどう動くかを考えるのは為替相場を予想する上でとても大切です。日銀もFRBも年に8回、重要な政策をきめるための会合を予定しています。日銀の場合は金融政策決定会合、FRBの場合は米連邦公開市場委員会(FOMC)と呼んでいます。会合が近づいてくるとその場で何が決まるかについて多くのニュースが出てくるようになります。まずはダービーの予想期間に会合が予定されているかどうか、日銀やFRBのウェブサイトで確認してみるのがいいでしょう。

データで先を読む

次に為替相場を予想するために数字(データ)を使うというやり方があります。

統計やデータを役立てるのです。金利にしても物価にしても、経済指標の動きはデータとして官庁や日銀などのウェブサイトで公表されています。

そうしたデータを予想に用いる第一歩は、為替相場と連動する指標を見つけることです。「この指標が動くタイミングで円高になる」という数字を見つけ出せれば、その指標の先行きを占うことで為替相場の見通しが立てられるからです。わかりやすい例が先に説明した金利です。米国の金利が上昇するタイミングで本当に円安が起きているか、実際の指標の動きを追ってチェックしてみればよいでしょう。さらに「為替相場が円高に振れたので日経平均株価が下落した」といったニュースもが日々流れています。株価と為替にはどんな関係があるのかも、実際にデータを取り寄せて調べてみるのです。

東京ディズニーランドの来園者も立派なデータに(千葉県浦安市)=石井理恵撮影

あるデータと別のデータの連動に注目する考え方は、統計学を勉強したことがある人ならば「相関」という言葉でおなじみでしょう。過去の学生対抗円ダービーでは、ユニーク賞の受賞者の多くが相関を見つける方法を採用しました。受賞者の中には米国の防衛費や東京ディズニーランドの来園者数など、プロの審査員も驚くような指標に注目した例もあります。皆さんも是非、独自のデータを予想に生かしてみて下さい。

なお主に大学生以上の参加者を対象に、相関を見る上での注意点を1つ挙げておきます。それは単に為替相場と同じような動きをしている指標を見つけるだけでなく、さらに突っ込んで「1カ月後の為替相場」への影響を調べてみるということです。具体的には統計学で習う回帰分析を用いる際は、1カ月先の為替相場との相性を確かめてみるべきでしょう。ユニーク賞でハイレベルな競争となった際には、こうした細かな点も審査の対象となります。

基本的なデータを見つける際には、日経新聞・電子版の「ビジュアル・データ」のコーナーが参考になります。金利や物価について最新のデータが更新されているので、1度のぞいてみるのもいいでしょう。

経済指標ダッシュボード

予想の仕方に「正解」はない

外国為替の予想は奥深い世界で、プロの間でもいまだに完成された方法はありません。みんな工夫を重ねながら、様々な方法を試しているのです。みなさんも、ぜひ独自の予想方法を編み出してください。

予想には大学入学共通テストのように正解はない

また、どんなニュースや指標に注目すればいいのか、それらがどう動くのか、知恵を絞って考えてみてください。中高生は、社会科だけでなく数学などで習った知識が活用できるかもしれません。大学生は経済学のほか、工学なども役に立つかもしれません。たとえ予想が的中しなくても、為替の動きを通して世界の動きが見えてくるはずです。

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