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海のプラ汚染、集まる知見 数値目標など規制強化も

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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

プラスチックによる海の汚染をめぐり新たな科学的知見が集まってきた。樹脂に混ぜる添加剤が世界各地の海鳥などから検出され、国際条約に基づくリスクの検討が始まった。海への流出量が従来の試算より2倍以上多いとの推定も注目を集める。現在の対策は排出抑制やリサイクル、再利用が柱だが、数値目標を設けるなど規制強化論が勢いを増す可能性がある。

海鳥からプラ添加剤

グリーンランドから南極大陸まで世界の16地点で32種類・145羽の海鳥を調べると、難燃剤や劣化防止剤などのプラスチック添加剤が52%の個体から検出された――。東京農工大学の高田秀重教授らの国際研究チームがこんな調査結果をまとめ、日本環境化学会の英文誌に掲載された。

難燃剤などのプラスチック添加剤は分解しにくく、環境中に広がると鳥や魚などの体内に蓄積しやすい。動物実験では一部に肝臓や腎臓への毒性が報告されている。

研究チームは海鳥が分泌する「尾腺ワックス」という脂肪を分析した。特にハワイのシロハラミズナギドリ、西オーストラリアのアカアシミズナギドリは胃の中にプラスチックが見つかり、添加剤の濃度も高かった。

添加剤のうち紫外線吸収剤の一種「UV328」という物質は有害化学物質を規制する「ストックホルム条約」に基づき、規制を視野に入れたリスクの検討が始まった。スイス政府が生物などに汚染が広がっている恐れがあるとして提案。2021年1月の会合で各国がリスク評価の実施に合意し、22年の締約国会議で結果を検討する。

ストックホルム条約の目的は環境や生物に悪影響を及ぼす「残留性有機汚染物質(POPs)」を規制することだ。電気製品などに使われたPCB(ポリ塩化ビフェニール)やごみ焼却場などから排出されるダイオキシンなど約30種の化学物質の製造や使用を規制してきた。

UV328を対象としたリスク評価の行方が注目されるのは、添加剤が有害物質とみなされプラスチックの生産・使用制限につながる可能性が出てきたためだ。ストックホルム条約が新たな規制手段となり、添加剤に幅広く使われる「ベンゾトリアゾール類」と呼ぶ化合物に規制が広がる可能性もある。

「ヒトの胎盤からも」

ヒトの胎盤から微細なプラスチック粒子であるマイクロプラスチックがみつかったという報告も研究者の危機感を強めている。イタリア・ローマのファーテベネフラテッリ病院のチームが20年12月、妊娠中の母親の胎盤から検出したと発表。胎盤に達したプラスチックが胎児に移る可能性を示唆した。

これまでも食べ物や水を通じて人の体内に取り込まれるとの報告はあったが、欧州食品安全機関などは「健康影響についてはデータが不十分」との見解を示してきた。

だがプラスチックは有害な添加剤を含んでいたり、PCBなどの有害化学物質を吸着したりするため「粒子自体の毒性に加え、付着した有害物質を含めたリスクの検討が必要だ」(農工大の高田教授)とみる研究者が多い。

一方で、海へ流出するプラスチックの量の問題も再び議論になっている。カナダ・トロント大を中心に米国、豪州などが加わる共同チームは20年9月、「16年時点で海や湖沼に流れ込むプラスチックは年1900万~2300万トンに及ぶ」と推定し、米科学誌サイエンスで公表した。世界の173カ国を対象に調べ、排出されるプラスチックごみのうち11%が海に流れ込むと推定した。

これまで流出量をめぐっては米ジョージア大などのチームが15年、「10年時点で年500万~1300万トン」との推計を公表。その中位ケースである「年800万トン」という数字が議論のベースになってきた。トロント大チームの推計はそれを大きく上回り、30年までの見通しも従来の推定を超える。

それによると、対策を取らない場合(成り行きケース)には、30年時点の海への流出は最大9000万トンまで増加する。発生量の抑制やリサイクルなどの対策が奏功しても1980万~5330万トンまで増える恐れがあるとした。

内訳は対策ケースで先進国(高所得国)が190万~410万トン、新興国(中間所得国)が1660万~4570万トンとなり、新興国が多くを占める。

22年国連環境総会が焦点

研究チームは海の生態系を守るには流出量を年800万トンに抑える必要があると警告する。それを達成するには、先進国で1人当たりの発生量を40%抑制し、新興国で35%抑制するなど、数値目標を定める必要があるとした。

プラスチックによる海洋汚染をめぐっては18年の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で対策強化をうたった「海洋プラスチック憲章」を制定した。日本政府はこれに署名しなかったが、翌年に大阪で開いた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を提案し、50年までに海に流出するプラスチックごみをゼロにする目標をまとめた。

その後、対策強化をめぐって停滞感もあったが、21年7月にイタリアで開かれたG20環境相会合で大阪ビジョンを再確認。条約制定など新しい国際的な枠組みづくりへ議論を続けるとした。

今後注目されるのは、国連環境計画(UNEP)などが22年2月に開催予定の国連環境総会だ。地球温暖化対策をめぐり10月末に始まる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では温暖化ガス排出削減の数値目標が焦点のひとつだが、プラスチック問題では具体的な目標を欠く。

温暖化対策と同様、プラスチックでも「決定的な一歩」を踏み出せるかが焦点になる。

(編集委員 久保田啓介)

[日経産業新聞2021年10月29日付]

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