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自ら成長する「自走できる街」をつくる

野村不動産 松尾大作社長

野村不動産が不動産開発の新領域に挑んでいる。マンションブランド「プラウド」で地歩を固め、商業施設やオフィス、物流施設、大規模な複合開発にまで事業のウイングを広げてきた同社。新たに目指すのは、地域と共生しながら発展する「自走できる街」づくりだ。「企画段階から開発、そして完成後の運営まで地域の人たちと向き合い、街を地域へ開放していく」と松尾大作社長。「住宅事業でBtoC(消費者向け)を磨いてきた当社だからこそできる」と力を込めた。

地域密着、住民が主役

野村不動産は、住宅を中心とした大型の複合開発プロジェクトを相次ぎ立ち上げてきた。代表例として「ふなばし森のシティ」(千葉県船橋市)、最近では「プラウドシティ日吉」(横浜市)、「亀戸プロジェクト」(東京・江東)などが続くが、それぞれ特徴があり進化してきている。

「『ふなばし森のシティ』は当社の街づくりにとって1つの転機になった。着工した2011年に東日本大震災が発生したが、被災された皆さんが地域で一体となって助け合っているのを目の当たりにし、自社のマンション街区内だけでコミュニティーをクローズした街づくりに限界を感じたのだ。それまでの街づくりは、セキュリティーを優先して外部から遮断し、マンション街区を閉じるのが一般的。しかし、これでは地域とのコミュニティーが断絶し、万が一の時に助け合う機会も奪ってしまう。これが『地域に開く』街づくりの始まりとなった」

「同プロジェクトの開発用地は約17ヘクタール。当社等の分譲マンション約1500戸に加え、複数の事業会社により病院、金融機関、商業施設等が整備されたが、開発エリア全体でのコミュニティー組成を目指した。マンション住民と開発エリア内の企業による街づくり協議会を設立し、住民自らが主体的に行う街づくりをソフト・ハードの両面で支援した。『マンションの外、開発街区全体』に目を向けたわけだ」

「この試みは国内外から注目され、フランス政府の目にもとまった。14年に来訪したフランス政府の関係者が『未来の住宅の形だ』と評価し『エコカルティエ認証(環境配慮型地区認証)』をフランス国外で初めて受賞した。その後も当社は街づくりの進化を模索し、開発エリアの持続的な活性化を目指す『BE UNITED構想』(18年策定)につながる。地域に開発街区を開くことで共生型の街づくりを行う考え方だ」

その構想を具現化しているのが、20年から段階的に竣工している「プラウドシティ日吉」、そして22年4月に開業した136店舗の大型商業施設「亀戸クロック」を核とした「亀戸プロジェクト」だ。

「『プラウドシティ日吉』は約1300戸の分譲マンション、商業施設、サービス付き高齢者向け住宅等に加え、敷地提供した小学校も含めた大規模開発だ。一部共用部を当社の保有として地域にも開放し、街のイベントや習い事の場などに利用してもらうことで地域全体のコミュニティー形成を促進している」

「第2弾となる『亀戸プロジェクト』は街区計画に時間を掛けた。敷地が外部と遮断されないよう、街との連続性や広がりを大事にして地域住民が敷地内を行き来できる通路を整備した。こうすれば敷地中心部のイベント広場や地元の飲食店が入居する『カメクロ横丁』に地域の人たちも自由に入ってこられる。日吉同様、敷地内に小学校用地も提供した。街区計画の段階から地域の皆さんと『街づくり協議会』で対話を続けた結果だ。コミュニティー組成が開発街区から周辺地域へと、さらに広がったというわけだ」

「街づくりで大切なのは地域密着。デベロッパー側が乗り込み独りよがりな街づくりをしても受け入れられない。マンションを中心にBtoCのビジネスを磨いてきた当社は『地域や住民の声を聞く』ことを大事にしている。もともとあった土地柄、風土といったものを大切にしながら地域に根付いているものを残してエリアの力を底上げしていくような街づくりが大切だ」

時計の針はもとには戻らない。新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いたとしても東京という街は進化を続けなければならない。

「東京はこれからも世界に開かれた国際都市を目指し続けなければならない。都市開発を担うデベロッパーは様々な要素を引き込み消化して自律的に発展していける『自走できる街づくり』を進める必要がある。複合開発の主役は地域の住民。地域に密着しつつ、地域に街を開いていくことだ」

「東京はまだまだ進化し続けなければならない。当然、当社も同様だ。31年3月を目標とする(グループ全体の)中長期経営計画では22年3月期に927億円だった事業利益を約2倍の1800億円にまで引き上げる計画だ。40年以上足場を置いた新宿の本社も25年には建設中の大規模複合開発『芝浦プロジェクト』へ移転する。オフィス、ホテル、商業、住宅などからなる一大プロジェクトだ。ここで、自らが率先して新しい働き方や暮らし方を模索していきたい。当社の新しい時代が始まる」

編集後記 地元の声を聞き開放する道 極める

「さらに進化させていく」。松尾大作社長はこう言い切った。野村不動産はマンションブランド「プラウド」のイメージが強いが、現在はオフィスや商業、物流施設、複合開発事業など幅広い領域で実績を蓄積、総合デベロッパーとして進化中だ。

野村不動産は「ふなばし森のシティ」「プラウドシティ日吉」「亀戸プロジェクト」を次々と立ち上げてきた。いずれも地元住民の声を聞き、エリアの潜在力を引き出したランドマーク的な総合開発と言えるが、その起点となったのがマンションで培った「BtoC」の力だった。顧客のニーズをきめ細かく取り入れ、顧客志向のマンションづくりを進めてきたように、街づくりもまた地域住民の声を丁寧に聞き進める。その街を地域に開くことで支持を獲得してきた。これが財閥系でも銀行系でもない野村不動産が示した新しいデベロッパーとしての形だった。

「東京ワーケーション」――。そして野村不動産は次のステージに進む。総事業費4000億円をかけ総力をあげて手がける「芝浦プロジェクト」がそれだ。すべてが完成するのは30年度。オフィスや住宅、商業施設のほか、ラグジュアリーホテル、海も空も取り込んだ巨大プロジェクトはビジネスとリゾートの要素を併せもった、これまで東京のどこにもない新しい街となる。その成否は野村不動産という会社の評価を大きく左右すると同時に東京という街の価値を左右することになる。

(前野雅弥)

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