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「ワーク・イン・ライフ」がポストコロナの新しい働き方

編集委員 石塚由紀夫

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新型コロナウイルスの新規感染者は減少傾向が続き、企業は落ち着きを取り戻しつつある。新型コロナ下に広がったテレワークの利点を生かし、ポストコロナに働き方をどう進化させるか、企業は模索を始めている。多様な働き方を認める一方で会社の競争力も高めなくてはいけない。次世代型働き方のキーワードとして「ワーク・イン・ライフ」が浮上している。

Nikkei Views

編集委員が日々のニュースを取り上げ、独自の切り口で分析します。

「リモートワークを推進し、ワーク・イン・ライフを実現していく」。NTTの澤田純社長は9月28日のオンライン会見で、こう強調した。ウィズ/アフターコロナに向けてNTTグループが経営スタイルをどう変革するか。今後の方針を説明するなかでの発言だ。ワーク・イン・ライフ――聞き慣れない言葉だが、澤田社長はこのところ社内外でよく口にする。社員一人ひとりが仕事(ワーク)を人生(ライフ)の一部と捉えて、自身の働き方を自由に選択するという考え方だ。

具体策として転勤や単身赴任の廃止を明言した。テレワークを活用すれば家族・生活を犠牲にしなくとも、遠く離れた部署の仕事を担える。現在全国約60カ所に構えるサテライトオフィス(冒頭の写真は川崎市内にある施設)を2022年度に260カ所以上に増やす計画も示した。出勤せずに職住近接で働ければ自由に使える時間が増え、生活の充実が図れる。生活を仕事に合わせるのではなく、生活に仕事を合わせる。それにより社員のやる気が高まり、会社への貢献も高まると見込む。澤田社長は「昭和のような流れから新しいスタイルに変えたい」と語気を強めた。

新型コロナ下で不要不急の外出自粛が求められ、多くの企業がテレワークに臨んだ。国土交通省「テレワーク人口実態調査」によると、20年度にテレワークを実施した雇用者は全国で23.0%に上る。前年度比8.2ポイント上昇し、過去最高だ。テレワークはコミュニケーションが取りにくく、組織力を発揮しづらいといった課題が指摘される。ただ、場所と時間に縛られない働き方は、副業やワーケーション、子育て・介護との両立のしやすさなどに道を開く。企業はその可能性を捨てきれず、どうすればうまく機能するかに知恵を絞る。

総務省は8月に提言書「ポストコロナの働き方『日本型テレワーク』の実現」をまとめた。その中にも「ワーク・イン・ライフ」という言葉が登場する。

従来は出勤してオフィスで働き、退社して自宅で生活した。ワークとライフは場所と時間で明確に区別できたが、テレワークはその境界線を曖昧にする。在宅勤務中であっても、荷物が届いたときは受け取りに出るだろう。朝夕に仕事の手を休めて保育所に子どもの送迎に行くこともある。逆にその日の仕事を終えたつもりであったのに、仕事上の問い合わせメールが夕食後に舞い込むかもしれない。どこまでが仕事でどこからが生活か。厳密な線引きは困難だ。ならば「仕事も生活の一部=ワーク・イン・ライフ」だと発想を転換してはどうかと総務省の提言書は訴える。

ワーク・ライフ・バランスに違和感

4月に識者らで検討チームをつくり、提言内容を議論してきた。チームの主幹を務めたユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの島田由香取締役人事総務本部長がワーク・イン・ライフを提唱した。根底にあったのは、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)への違和感だという。

ワーク・ライフ・バランスの考え方は2000年代に広まった。日本の人口が減少に転じる時期と重なり、少子化対策として仕事より生活の比重を高める重要性が繰り返し説かれた。「だけど仕事と生活は必ずしも対立するものではない。どちらかを高めるために、もう一方を犠牲にしなくてはいけないわけでもない。仕事と生活は相互に関係していて、ともに充実させることもできる。仕事と生活の境界線がおぼろげになるテレワーク時代は、ワークとライフを独立した存在として捉えるワーク・ライフ・バランスではなく、ワーク・イン・ライフがしっくりくる」と島田氏は説明する。

言葉こそ使っていないが、ワーク・イン・ライフの考え方に根ざした創意工夫は個別企業で始まっている。例えばカオナビの「スイッチワーク」だ。1日の就業時間中、何度でも私用のための仕事の中断を認める。事前申請は不要。オンラインでその都度入力申請するだけでいい。

かつては出勤前提の勤務体系だったが、新型コロナの感染拡大をきっかけに20年3月、全員が在宅勤務に移行した。ただ子育て中の社員から「折々子どもに手がかかり、始業から終業まで業務を継続するのは難しい」と声が上がった。それならスイッチのようにオン/オフを切り替え、仕事と生活を自由に行き来できるようにしようとスイッチワークを導入した。今では理由を問わず誰でも使える。「通院や役所での手続きといった日常の用事のほか、スキルアップのための通学や副業に使う社員も出てきている」(広報担当)

自分の中に会社を置く

SOMPOホールディングスが20年度に始めた「MYパーパス」制度もユニークだ。人生のパーパス(目標)は何なのか。グループ社員全員に考えさせ、上司と一対一で面接し、目標を共有する。仕事に関する目標である必要はない。家庭や社会貢献活動、趣味……どんな目標も許容する。21日に開催した社員向けオンラインイベントで桜田謙悟グループCEOは「これまでは会社の中に自分を置いていた。でもこれからは自分の中に会社を置き、自分にとってのやりがいを考えてほしい」と説明した。

同社グループも新型コロナをきっかけにテレワークを前提にした働き方に舵(かじ)を切った。時間と場所に縛られなくなれば今まで以上に多様な社員が働ける。多様な価値観を持つ社員を会社が求める方向に一斉にそろえるのは難しい。会社と社員の目標がぴったり一致しなくても、社員が定める目標に合致する仕事や働き方を会社が提供できれば、ダイバーシティー(人材の多様性)が高まり、組織の生産性・創造性は向上すると考えた。

ワーク・イン・ライフと言っても、仕事の重要性を軽んじるわけではない。ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの島田氏は「いつどこでどのように働くのが最もパフォーマンスを上げられるか。それは自分自身が知っているはず。きちんと成果を上げる自覚が個人に求められる」と強調する。テレワークに限らず、ジョブ型雇用や副業、ワーケーション、週休3日制など新型コロナ禍をきっかけに新しい働き方が広がろうとしている。それを生かして自律的な働き方を手に入れるか、はたまた新型コロナ前のように会社や組織、管理職に監視される硬直的な働き方に戻るか。働き方を進化できるか否かのカギは働き手の意識改革にもある。

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