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バリアフリー、国を先導 大阪・兵庫の条例制定30年へ

時を刻む

障害者団体の活発な運動を背景に、兵庫県と大阪府が全国の都道府県に先駆けて「福祉のまちづくり条例」を制定して来年で30年。駅のエレベーター設置や建物、道路のバリアフリー化を促す条例は全国に波及し、国のバリアフリー法制定にもつながった。しかし誰もが利用しやすいユニバーサルデザインや多様な立場を理解し合う「心のバリアフリー」といった課題はまだ多く、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)を契機に一層の推進が求められる。

駅などから義務化

NPO法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議の尾上浩二副議長は1978年、大阪市営地下鉄天王寺駅での光景を覚えている。車いすの友人2人にボランティアが付き添って改札を通ろうとしたところ、駅員から「階段はどうするのか。けがをしたら責任になる」と止められた。

当時はほとんどの駅にエレベーターがなかった。「そよ風のように街に出よう」をスローガンに始まった車いすでの外出運動は社会のバリアーを可視化して知ってもらうとともに障害者自身が社会の目に慣れていく試みだった。大阪市営地下鉄では80年開業の喜連瓜破駅に初のエレベーターがついたが、既存の駅の改修はなかなか進まない。

転機は両府県が92年10月に制定した福祉のまちづくり条例。駅や公共施設などに車いすで利用できるエレベーターやスロープ、トイレの設置を義務付けた。

高齢社会が目前に迫りバリアフリーの必要性が認識されるようになっていた。特に関西ではJR阪和線など鉄道の高架化・地下化計画が相次いで「エレベーターが設置されなければ移動できなくなる」と障害者や高齢者の団体が対策を強く働きかけた。福祉政策を看板に掲げる中川和雄・大阪府知事も前向きに応じた。

府は当初、建築物は建築基準法施行条例と結びつけて実効性を確保できるが鉄道駅舎には手出しできないという姿勢。しかし検討委員会の副座長だった故定藤丈弘・大阪府立大教授が「公共交通機関がバリアフリーでないと福祉のまちづくりと言えない」と強く主張。「まずエスカレーターで」というJR西日本も押し切って、車いすでも安全なエレベーターを基本とした。

兵庫県の条例は大阪府のように建築基準条例の後ろ盾がなかったが、対象を幅広くし、福祉のまちづくり工学研究所(現・福祉のまちづくり研究所)など条例を支える仕組みを作った。

研究所は義肢や装具の開発が中心だったが、阪神大震災後は街のバリアフリー化支援に力を入れ、現在は介護支援ロボットの開発や人工知能(AI)活用に注力する。釣り具メーカーのがまかつ(兵庫県西脇市)とは排せつ動作支援ロボットを共同開発し、神戸市しあわせの村では車いす利用者が安全に通行できるルートのマッピング研究を進める。「研究所や民間企業が開発した製品を、隣接する県立リハビリテーション中央病院や福祉関連施設で試用し、知見を開発に生かせる」と陳隆明所長は語る。

万博を機に前進を

大阪府と兵庫県には多くの自治体が視察に訪れ、2003年までに全都道府県が同様の条例を制定した。自治体の動きに押されて国も94年に建築物のバリアフリー化を進めるハートビル法を制定。2000年には交通バリアフリー法を制定した。両府県の条例化に委員として関わった三星昭宏・近畿大学名誉教授は「障害者団体が体を張って条例化を推進し、大阪と兵庫が全国のバリアフリーを引っ張った」と振り返る。

両法を統合したバリアフリー法も改正を重ねて既存施設の改善や対象施設の拡大を図ってきた。鉄道駅(1日の平均利用者3000人以上)の障害者用トイレの設置率は2000年度末(同5000人以上)が0.1%だったのが19年度末は88.5%に、鉄道車両のバリアフリー化も同じ期間で10.1%から74.6%に高まるなど対策は大きく進んだ。

「西高東低」といわれたバリアフリーだが、東京五輪・パラリンピックを契機に首都圏が大きく前進する一方、「関西は少しもたついている」と尾上氏。万博開催をテコに関西でも街全体で継続して改善する取り組みが必要だ。「今後は発達障害、LGBT、外国人など多様な当事者が計画段階から参加してユニバーサルデザインの観点から福祉のまちづくりを考えるべきだ」と三星名誉教授は指摘する。

20年のバリアフリー法改正では、公立小中学校での義務化や心のバリアフリーへの取り組み強化を盛り込んだ。尾上氏は「心のバリアフリーは情緒的なものでなく具体的な態度や行動に結びつけるもの」と語る。教育を含め、まだ道のりは長い。

(編集委員 宮内禎一)

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