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脱炭素社会の街づくり 再エネ普及カギに

日経バリューサーチフォーラムの議論から

日本経済新聞社は10月8日、カーボンゼロの社会像を探る日経バリューサーチフォーラム「脱炭素都市を実現する再生可能エネルギー」をオンラインで開催した。再エネ事業を拡大させている東急不動産の岡田正志社長らが基調講演したほか、キリンホールディングス(HD)の野村隆治執行役員らが温暖化ガス排出削減をめぐる企業の役割などについて話し合った。

街づくりのノウハウで再エネ事業

東急不動産 岡田正志社長

再エネ事業は街づくりで身につけた開発ノウハウを生かし、社会課題解決のために積極的に取り組んでいる。2014年に太陽光発電に参入、翌年には風力発電も開始した。発電量は1197メガワットに達し、原子力発電所1基分以上に相当する。松前風力発電所(北海道松前町)では町とともに地域マイクログリッド(小規模電力網)の構築を検討している。

当社は2月、25年に自社で使う電力を100%再エネで賄うと宣言した。4月には(本社を置く)渋谷ソラスタ(東京・渋谷)などのビルや商業施設の計17物件を再エネに切り替えた。22年度には所有する全てのオフィスビルに広げる。業界のトップランナーとして「東急不動産といえば、環境」と連想されるようにサステナブルな社会の実現に貢献したい。

分散型電源で災害に強い街を

京都大学大学院 諸富徹教授

再エネが普及すると、電源は日本各地に分散し、ネットワーク化され、それぞれの地域内で電力の需給が一致するように制御される。そのための技術もサービスもすでに存在していて、ドイツでは産業になっている。日本も(太陽光パネルなどを備えた)ビルや住宅は分散型電力システムの拠点になり、街づくりに分散型の考え方を取り込む地域は今後、競争力を増す。

二酸化炭素の排出量が少ないビルは企業に選ばれ、分散型電源を備えた街は災害に強くなる。こうした街づくりには、企業と自治体による事業主体が必要。地域のインフラ整備、エネルギーの調達、専門人材の育成を一貫して追求する事業体が地域産業の発展や雇用の確保、税収増という好循環をもたらす核になっていく。そんな構想を持った街づくりが重要だ。

風力発電から地域産業に活気を

北海道松前町 石山英雄町長

松前町は大型風力発電所建設の縁で東急不動産と知り合い、2019年に風力発電の円滑な推進と地域活性化に関する協定を締結した。風力発電から得られる電気は松前の資源ととらえている。東急不動産所有の発電所には12基の風車があり、今後さらに12基の増設を計画。松前沖の洋上風力発電も視野に入れている。

再エネ電力の地産地消のために地域電力組織を立ち上げ、町も出資する形で町民にも信頼される組織にする。陸上と洋上の風力発電の実現によって他の市町村に電力を供給するほか、水素エネルギーのサプライチェーンを確立して、新たなビジネスチャンスの拡大で産業が活気づいていくことを期待している。

パネル討論

パネル討論では再エネ普及の具体策について議論した。キリンHDの野村氏は工場内に太陽光発電所を設置した発電事業者から電力を買い取るPPA(電力購入契約)による再エネ調達を現在の4工場から来年1月に7工場に広げる計画を説明。そのうえで「工場の中だけでは足りないので、外から入れる」と述べ、今後、工場から離れた発電所からも再エネを調達する考えを示した。

発電所の開発を急ぐ東急不動産の池内敬取締役常務執行役員は「再エネの電源は北海道や東北の地方に偏在しており、地域の活性化とセットで(発電所の整備について)地域の人の理解を得たい」と強調。(自らが代表理事を務める)再生可能エネルギー地域活性協会を通じ、ドローンを使った配送サービスなどを展開する方針を表明した。

脱炭素の街づくりをめぐり、環境省の川又孝太郎・水環境課長は政府の「地域脱炭素ロードマップ」に基づき、5年間で全国に100カ所以上の脱炭素先行地域を創出する政策について説明。「(脱炭素の取り組みが連鎖的に広がる)脱炭素ドミノを起こし、2050年を待たずに脱炭素で強靱(きょうじん)な活力ある地域社会を全国でつくる」と述べた。

PwCコンサルティングの片山紀生パートナーは「スマートシティーはエネルギー利用の効率化や再エネ普及からスタートしているので、脱炭素との相性が良い」との考えを示した。そのうえで「欧州ではスマートシチズンなくして、スマートシティーなしといわれている。日本でも住民の巻き込みが非常に重要」と語った。

◇  ◇  ◇

<議論を終えて>

脱炭素社会を考えるうえで、街づくりは不可欠な要素。そう考えて不動産開発大手の中で「脱炭素都市」への取り組みが際立つ東急不動産に話を聞いてみると、実は「マーケットに背中を押されている部分がある」(池内氏)という。テナントの外資企業や投資家から環境性能の高いオフィスビルを強く求められ、自社物件を再エネ100%に急いで切り替えているのだ。

では、都市で暮らす生活者一人ひとりが都市の機能として脱炭素を求め始めたら、脱炭素の街づくりは一気に加速するのではないか。東急不動産の渋谷再開発など日本では都市の大改造が今後も続く。都市住民を巻き込みながら脱炭素都市の未来像を描けるのか。10月末に開幕する第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を前に、街づくりを担う企業の都市開発力も問い直される。

(前野雅弥、近藤康介)

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