[社説]企業は賃上げと値上げの循環を着実に

上場企業の業績が堅調だ。2022年4~9月期は最高益を更新した。企業は賃上げと値上げを着実に進め、日本経済の自律的な回復を後押ししてもらいたい。
14日までに発表した1100社強の東証プライム企業の4~9月期決算を本紙が集計したところ、全産業の純利益合計は前年同期から5%増え、2年連続で同期間としての過去最高を更新した。
資源価格の上昇を背景に商社や海運が好調だったほか、大幅な円安が多くの外需企業の業績には追い風になった。新型コロナウイルス禍からの経済再開が進み、鉄道や空運の業績も急回復した。
円安や資源価格の上昇は、原材料費や物流費などコストアップにつながる。4~9月期は高い市場シェアや製品力を背景に、値上げを進めることができた企業の好調がめだった。
信越化学工業は世界シェア首位の塩化ビニール樹脂で値上げが浸透し、純利益は78%増えた。コマツは北米などで建機の値上げを進め、75%の最終増益だった。
原材料高で全般に業績不調だった食品業界の中でも、高価格商品の好調でヤクルト本社や東洋水産は最高益を更新した。
好調な上期決算を反映し、全体の31%の企業が通期の純利益予想を上方修正した。23年3月期通期の純利益合計は、前期比7%増と最高となる見通しだ。
とはいえ下期の環境は予断を許さない。最大の懸念は世界経済の減速だ。欧米はインフレを抑えるために、急ピッチの利上げを進めている。中国の景気回復の遅れも気がかりだ。世界経済の成長が鈍化すれば、日本企業の収益にも相応の下押し圧力がかかろう。
そこで経営者に求めたいのは、少しずつみえてきた賃上げと値上げの好循環を絶やさないことだ。社員の生産性を引き上げる人的投資が商品の付加価値を高め、原材料の高騰を転嫁できる値上げにも道が開けるからだ。
たとえば、最高益だったキーエンスは社員への利益配分にも積極的で、平均給与は上場企業でトップクラスだ。高い報酬は社員のやる気や創意工夫を引き出し、広範な値上げも可能にしている。
企業が将来のリスクに備えて稼いだ利益を無駄にため込むようだと、いつまでも停滞から抜け出せない。経営者は、日本経済が縮小均衡のワナから抜け出すための重要な役割を担っている。