古内東子が30周年 「コロナでラブソングも変わる」

シンガー・ソングライターの古内東子が、デビュー30周年記念アルバム「体温、鼓動」を発表した。「私の歌のテーマは一貫して恋愛で、30年前から変わっていません。どんな曲もラブソングのフィルターを通して生まれてくるのです」。ところが新作ではちょっとした異変があった。「収録した曲の多くは、ラブソングではありますが、(新型)コロナ(ウイルス)禍の影響を強く受けています。私は元来、社会の動きを歌詞に反映させるタイプではないんですけどね。意識したわけではなく、結果的にそうなっていたのです」と話す。
特に表題曲「体温、鼓動」には「当たり前なんてもうないの 世界中探したってないの」や「変わってゆく、動いてゆく世界で 信じられるのはひとつだけ」といった象徴的なフレーズをちりばめている。「コロナ禍の1年目は、いつになったら元の生活に戻れるのかと考えていましたが、2年目には、もう元には戻らない、違う価値観の違う世界になると感じるようになりました。つまり自分が変わっていくべきだし、変わらざるを得ないし、楽しんで変わっていくしかないんですね。そんな思いが、歌詞にも反映されています」と語る。
「体温、鼓動」というタイトルは「このアルバムの音楽的な面も表現しています」と明かす。「ゆかりのある6人のピアニストに、私が書き下ろした新曲を1曲ずつ託して、編曲とピアノの演奏をお願いしました」。共演したのは中西康晴、河野伸、森俊之、草間信一、松本圭司、井上薫という第一線で活躍するピアニストたちで、1曲だけ自身でピアノを弾いている。
ベースは小松秀行、ドラムはTomo Kannoで、曲ごとにピアニストだけを入れ替え、ピアノトリオのスタイルで録音した。「どの曲も演奏家の息づかいが聞こえてくるようなサウンドに仕上がって、まさに『体温、鼓動』というタイトルがぴったりです」。ピアノトリオはジャズに多い編成で、ポップスのバックとしては珍しいが「極めてシンプルですが、それによって(ボーカルの)言葉が浮遊する余白が生まれる。私にはぴったりの編成だと感じています」と手応えを語った。
(吉田俊宏)