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「民主化」進むスポーツ栄養食品 高まる健康志向

日本製も存在感

長寿社会の進展や新型コロナウイルス禍を背景に世界的に運動習慣や健康志向が強まり、プロテインに代表されるスポーツニュートリション(スポーツ栄養補助食品)の購入層が拡大、市場の民主化(大衆化)が進む。多様な製品はアスリートの競技力向上だけでなくビジネスパーソンや女性のライフスタイルに寄与し始めた。アジア市場の成長も有望視される中、化学系商社の長瀬産業は米国最大級の工場を稼働。日本企業の存在感も増してきた。

世界市場 10年で2倍超 長瀬産業、米最大級の工場

英調査会社ユーロモニターインターナショナルはスポーツニュートリションの2027年の市場規模が17年比2倍超の327億㌦(約4兆6千億円)に膨らむと推計する。けん引役は欧米。専門店が建ち、幅広い層に向け新製品が続々登場するなど市場の民主化が進む。その先進地へ日本企業が攻勢を掛けた。

今年8月。米ユタ州ソルトレークシティーの工業団地で全米最大級の受託製造工場が完成した。化学商社、長瀬産業の子会社プリノバ(イリノイ州)の西部拠点で、延べ床面積は甲子園球場より広い約4万平方㍍だ。

巨大な素材倉庫を備え、プロテインなど数百種類の素材から製品ごとに細かく指定された調合を素早く行う。センサーで混ざり具合をチェックし、異物混入も抑える。デジタル技術で生産管理も向上。管理職はタブレット端末から稼働状況や歩留まりなどを遠隔で確認。記録保存力も増し、顧客のクレームにも素早く対応できる。

プリノバは世界的なシリアルメーカーや飲料メーカーと取引する食品素材の商社兼加工会社だ。長瀬産業傘下で財務や人的資本が充実し、新型コロナ禍で供給力が揺らいだ他社を尻目に業績を伸ばす。ユタ工場は成長が続くスポーツニュートリション市場で事業を拡大する基幹工場の位置づけだ。

同工場は取引先のグローバル進出支援も視野に入れる。製造・品質の管理基準(GMP)に対応し、国際規格ISO17025の取得も予定する。受託生産と併せて食品分析などソリューション事業も強化する考えだ。

Interview 〝川中ビジネス〟の成功モデル目指す


 長瀬産業 代表取締役兼常務執行役員 池本真也氏
「化学系商社の枠を超えた〝ビジネスデザイナー〟を目指し、持続可能な社会の基盤となる人々の健康を支える食品素材事業を注力分野に位置づけた。2012年にバイオ企業の林原(岡山市)買収で基盤が整い、世界を舞台に数千社と取引があり、直近は高付加価値なスポーツニュートリション分野で顧客を増やすプリノバを19年に買収してグローバル展開に乗り出した」
「ユタ工場の強みは多い。アミノ酸やビタミンなど比重や粒子径が異なる様々な素材粉末を均一に混ぜ合わせる加工技術はもちろん、ボトル詰めに至る一貫生産体制や販売元に代わり最終製品を保管する倉庫機能もある。既存顧客の満足度向上に加え新規開拓にも弾みが付くだろう」
「味や香りを作り出すフレーバリストもいるので、自社ブランド製品を出すことは可能だ。しかし、ブランドオーナー(販売元)にワンストップでサービスを提供する受託生産のモデルを守り〝川中ビジネス〟の強みを追求したい。世界中の販売元と取引することでリスクを抑えながら市場拡大に呼応した成長を見込めるからだ。販売元が日本やアジアに展開する際は生産面などで支援できる。トレハロースの量産化に世界で初めて成功した林原は様々な素材があり工場も整う。NAGASEグループのシナジー発揮が市場を活性化させる好循環を作り出したい」

コロナ禍追い風、アジアに商機 過剰摂取には注意

スポーツニュートリションの世界市場は足元でも急拡大する。ユーロモニターインターナショナルで調査にあたったシニアインダストリーマネジャー、マシュー・オスター氏は2022年を「前年比13%、物価上昇を勘案した実質値でも6%」成長すると予測する。新型コロナウイルスの感染拡大と高齢化の進展で人々の健康・運動志向が高まったことが需要の裾野拡大を後押ししているようだ。

商品の多様化も加速する。欧米では有名菓子の味の再現や栄養成分の配合・パッケージを女性向けにした製品も出回り、幅広い購入層を意識している。11月に米ラスベガスで開かれた全米最大級の食品素材展には、世界中からアミノ酸やビタミンを含む機能性素材が出展され、関係者らが製品開発のヒントを探った。

商機はアジアに広がる。中でも超高齢社会を迎えつつある日本では、筋力低下による高齢者のフレイル(身体機能低下)が生活の質低下や医療費膨張などの社会課題を生んでいる。食欲減退や味覚の変化を補う食品として、スポーツニュートリションが注目されてきている。米国で人気急上昇中のスポーツニュートリションブランドを展開する企業幹部は「消費者が洗練されている日本は魅力的。今後の世界戦略の大きな要素となる」と話す。

ただ、こうした食品は通常の食事より手軽に摂取できるだけに、過剰摂取への注意も必要。プロテインを多量に取るとカロリー過多や脂肪になる可能性があり、カフェインは不安や下痢を招くという報告がある。早稲田大学スポーツ科学学術院の田口素子教授は「公的機関などの情報も参考にして、自分に必要な栄養素や量をチェックする姿勢が大切だ」と指摘している。

▼スポーツニュートリション

スポーツ選手らの栄養を研究する学問領域。プロテインやアミノ酸系サプリメントなど栄養補助食品全般も指す。筋肉合成や疲労回復といった目的に応じて含有成分や摂取タイミングが異なり、形状は粉末やバー、飲料、ゼリー、タブレットなどがある。最近では活動的ライフスタイルに伴う栄養を補完する食品として認知され、競技者だけでなくビジネスパーソンや女性などに購入層が拡大。欧米ではビーガン(完全菜食主義者)向け製品も増えている。

勝ち残りへ消費者目線のエビデンスを


矢野経済研究所フードグループ主席研究員 飯塚智之氏
 スポーツニュートリション市場はOEM(相手先ブランドによる生産)を活用して参入しやすい。そのため、国内は食品メーカーを中心に異業種や新興勢力が加わり、海外ブランドも交えた競争が激しい。海外勢は強力なインフルエンサーの情報やコストパフォーマンスの高さが武器。国内勢は食品製造で培った技術力による味や水溶性などを強みに、販売チャネル開拓などマーケティング活動でシェアを守る構図が見える。日本企業にとって米国市場はコスト面やブランド力でハードルが高いだけに、日本ブランドを訴求しやすい中国や東南アジア進出が成長戦略になるだろう。
 この分野の研究開発は盛んになっており、知見や研究成果などが積み上がっている。その中で消費者は正しい情報に触れて少しでも自分に合った商品を選択したいと考えている。消費者の視点に立ち、味や品質が優れた製品のみならず、効果のエビデンスを届けられる企業が支持され、生き残るのではないか。

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