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街区全体を低排出に 自社林活用の建築も 菰田正信・三井不動産社長

脱炭素社会 創る

三井不動産は2050年の脱炭素社会の実現に向けて、ビルや住宅、商業施設など自社物件で様々な対策を急いでいる。全面開業したばかりの「東京ミッドタウン八重洲」では二酸化炭素(CO2)排出量を抑えた高効率のエネルギーシステムを導入した。菰田正信社長は「30年度40%減(19年度比)という排出削減目標は達成できるだろう」と自信を持つ。森林資源を活用した木造建築物や技術革新をにらんだファンドへの出資など種まきも始めた。

環境債800億円、再開発へ調達

当社はオフィスビルや物流倉庫、商業施設、マンション、戸建て住宅、ホテルなど幅広い建物を手がけている。中でも東京駅前で3月10日に全面開業した「東京ミッドタウン八重洲」はサステナビリティー(持続可能性)やレジリエンス(強じん性)の観点でも当社のフラッグシップのビルになる。

コージェネレーション(熱電併給)システムなどで一般的なビルに比べCO2排出量は約26%削減できる。系統電力の停電時にも年間ピークの50%の電気と熱を供給し続ける。事業継続計画(BCP)を重視するテナント企業にも評価されている。22年7月には不動産会社として過去最高額となる800億円のグリーンボンド(環境債)を発行した。

生物多様性を保全

東京ミッドタウンブランドを冠する複合施設は07年開業の六本木、18年開業の日比谷に続き3カ所目だ。東京ミッドタウンでは旧防衛庁敷地に残された樹木を移植した。緑地は2.7倍に広がり、敷地全体の4割を占める。東京都の保護上重要な野生生物種(レッドリスト)に載るオオタカやダイサギなどを確認している。日比谷では道路を挟み向かい合う日比谷公園との調和を考慮。6階などに庭園を設置し、約2000平方メートルの緑地を整備した。生物多様性の保全は脱炭素と両輪になるため、環境共生型の開発をしている。

一方、当社は北海道の道北を中心に約5000ヘクタールの森林を保有している。年間のCO2吸収・固定量は2万1315トンに上る。樹木は樹齢が長くなるとCO2を吸収する量が減る。ある程度の樹齢に達した木は切って、CO2を吸収する若い木を植える必要がある。切るためには使う必要がある。このため「植える、育てる、使う」という森林資源の循環のうち、「使う」の強化に乗り出した。

21年には三井ホームが木造賃貸マンション「MOCXION INAGI(モクシオン イナギ)」(東京都稲城市)を完成させた。22年11月に三井不動産レジデンシャルはオール木造の賃貸マンション「パークアクシス北千束MOCXION」(東京・大田)を着工した。さらに東京・日本橋で地上17階建ての木造オフィスビル(延べ床面積約2万6000平方メートル)の建設を計画中だ。国内の木造建築物として現時点で最も高いビルになる見通しだ。

21年11月の「脱炭素社会実現に向けたグループ行動計画」では、30年度の温暖化ガス排出量を19年度比40%減、50年度までのネットゼロを目指す目標を掲げた。基準となる19年度のCO2排出量は約438万トン。自社排出分(スコープ1、2)は全体の12%にすぎない。賃貸施設の入居者や分譲施設の購入者、建設会社など他者排出分は88%を占める。このため、サプライチェーン(供給網)全体で脱炭素に取り組む必要がある。

海外ファンドに出資

これから造る建物、既存の建物の省エネ性能を上げる。オフィスビルはZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)、住宅はZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の認定を取得する。ZEBやZEHは通常の建物に比べて、CO2排出量を4〜5割減らせる。残りの部分を減らし実質ゼロにするには、使用電力をグリーン化する必要がある。

こうした策で「30年度の40%減」は達成できるだろう。その先は川上の建設会社による排出削減や、電気事業者の排出係数によってどれだけ削減できるかが変わってくる。

50年度のネットゼロ実現には、やはり技術革新が必要だ。22年11月にはスイスや米国のベンチャーキャピタル(VC)が組成した3つの脱炭素特化型ファンドへの出資を決めた。水素など関連する技術動向を把握する。社会全体が脱炭素になることに貢献すれば、我々の不動産事業もやりやすくなる。将来の技術革新への種まきだ。

グリーン電力、住宅・ビルの標準装備に


 東京ミッドタウン八重洲は東京駅前の利便性の高い立地に外資系ホテル、オフィス、バスターミナル、小学校などを組み合わせた複合施設だ。タワー部分は地上45階建てで、全体の延べ床面積は約29万平方メートルに及ぶ。高い環境性能は、建物自体の徹底した省エネ対策とコージェネレーション(熱電併給)システムによる創エネで実現した。東京ガスとの共同出資会社、三井不動産TGスマートエナジー(東京・中央)が八重洲地下街など周辺を含め電気と熱を平時だけでなく非常時にも供給する。
 また、自社で保有するメガソーラー(大規模太陽光発電所)を活用して、共用部だけでなくテナント企業にも、使用電力をグリーン化する仕組み「グリーン電力提供サービス」を構築している。トラッキング付き非化石証書により、事業に使う電力の100%再生可能エネルギー化を目指す国際的なイニシアチブ「RE100」に認定される。
 三井不動産は全国5カ所のメガソーラーで年間約8000万キロワット時(一般家庭約1万9000世帯分)の電気を発電している。これを2030年度までに30カ所、約5倍の3億8000万キロワット時に拡大する計画を21年11月に公表した。菰田正信社長は「既に2300万キロワット時分の土地の手当てができ、目標の約3割に達した」と明かす。
 グリーン電力提供サービスは首都圏に続き、22年3月に中部圏、関西圏で始めた。対象施設は約180カ所に広がった。30年度までに全国に保有する施設の共用部と自社利用部について、グリーン電力化する。
 一般消費者が購入する分譲マンションは、1戸ずつ電力小売事業者と契約する低圧契約ではなく、まとめて契約する「高圧一括受電」を用いて、グリーン電力を供給する。東京電力エナジーパートナーグループと22年に協定を結び、首都圏の分譲マンションから順次導入する。将来はこれを標準化する考えだ。
 再エネ由来の電気は割高になりがちだが、一般家庭用の電気料金に比べ安く提供する予定だ。洗濯乾燥機や食洗機など消費電力の大きい家電製品の使用時間帯を分散化し、省エネ・節電行動を促す仕組みを取り入れたり、省エネ貢献度に応じた特典を提供したりする。
 菰田社長は「脱炭素という要素が加わり、世の中の感覚が大きく変わった。木造建築物など今やっていることは30年以降に効果が上がり始める」と期待している。

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