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保険医療、政府に指揮権を 日経・日経センター緊急提言

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新型コロナウイルス禍が日本の医療体制の脆弱性を浮き彫りにした。日本経済新聞社と日本経済研究センターは医療改革研究会を組織し、有事のみならず平時から患者が真に満足できる医療サービスを受けられるための緊急提言をまとめた。医療機関に政府・地方自治体がガバナンス(統治)を働かせる仕組みや、デジタル技術による医療体制の再構築を促している。

緊急提言は①医療提供体制の再構築②医薬イノベーションの促進③社会保障全般の負担・給付改革――の3つの柱で構成する。社外の識者の意見も参考にした。

医療提供体制の再構築では、健康保険制度の枠内で診察・診断・投薬などをする保険医療機関に対し、政府と都道府県当局が強制力をともなって医療人材と病床などの確保を指示できるガバナンスの確立を求めている。

過去2年あまりのコロナ禍では、コロナ患者の治療に積極的に取り組む医療機関とコロナ患者を忌避する医療機関との二極化が明らかになった。地域によっては感染の急拡大期に医療人材の不足と病棟・病床の逼迫をもたらし、自宅療養を余儀なくされた患者が死にいたるなど深刻な事態をもたらした。

こうした悲劇を繰り返さないために、提言は「健康保険の適用を受ける医療機関や調剤薬局が得る利益の原資は、健康保険料と税財源を元手とする国・自治体の公費が大半を占める。医療提供体制について政府・自治体が一定のコントロール権をもつのは当然だ」と指摘した。

医療機関が自由開業制と診療科を自由に決められる特権的な扱いを受けていることについても「厚生労働省は医療団体に配慮し、長年にわたり改革を怠ってきた」として政策の不作為を問題視している。

医療人材・医療資源の現状がどのような状況にあるか、デジタル技術を駆使して各医療圏で政府と都道府県がリアルタイムで把握する仕組みの構築が必要と指摘した。医療機関の状況を瞬時に可視化できれば、重症者を受け入れる余裕がある病院に患者を遅滞なく搬送できる可能性が大きく高まる。提言はこうした「ヘルスケア・トランスフォーメーション(HCX)」の実現を強く促している。

医療提供体制についてはこのほか、変異型のオミクロン型の感染状況が下火になり、治療薬が行き渡るなどの条件を満たせば、コロナの感染症上の位置づけを現行の2類相当から季節性インフルエンザなどと同等の5類相当に切り替える必要があると主張した。

見直しによってコロナ患者が現役世代の場合、原則としてかかった医療費の3割を窓口負担することになる。提言は「負担の月額上限を定めた制度もある。国の財政悪化をくい止める観点からも自己負担を求めるのが妥当だ」と述べている。

さらに有事に政策や制度を統括する司令塔を政府に新設するよう求め、パンデミック(世界的大流行)や大規模災害の発生時に医療・公衆衛生の対応を一元的に担う体制の確立を求めている。新組織のトップは国民に科学的根拠を明快に示し、わかりやすく情報発信する専門人材が適任だとしている。

第2の柱である医薬イノベーションについては、いざというときに治療薬やワクチンを素早く承認する態勢をつくるべきだと指摘した。具体策として、厚労省所管の国立病院機構などを活用した国主導の治験を増やしたり、米国などのように緊急時にかぎって薬の緊急使用許可を認めたりする必要性に触れている。

世界を見わたすと、アフリカでコロナワクチンの2回接種を終えたのは人口の1割程度にとどまる。提言は現状を憂慮し、ワクチンのグローバルな分配を主導することも日本政府の責務だと指摘している。

第3の柱である社会保障の負担・給付改革は、健康保険・介護保険・厚生年金など会社員が負担する社会保険料の総計が労使合わせて収入の30%に近づきつつある現状について、これ以上の上昇は限界だと強調した。安定した税財源の確保に向け、ポスト消費税10%に向けた地ならしを始めるよう政府に求めている。

コロナ対策費を含めて膨大な政府債務を積み上げたことについて、現世代の責務でその償還に道筋をつけるよう促している。安定財源の確保について与野党がひざ詰めで協議し、党派を超えて合意を得る努力が欠かせないとした。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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