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そのムダ、何かに使えませんか?

読者の提案と社長の講評 市井明俊・日本精工社長編

市井社長の提示した「そのムダ、何かに使えませんか?」という課題に対し、多数の投稿をいただきました。紙面掲載分を含めて、当コーナーでその一部を紹介します。

■線路の枕木で発電

佐野 悦朗(無職、80歳)

電車や列車が線路を通過するときには枕木がへこみ、微妙な揺れが発生している。この振動を逆手にとって発電につなげられないだろうか。例えば、通勤・通学ラッシュ時の山手線は数分間隔で走っており、1日に換算すると、枕木がある場所では膨大な振動を起こしていることになる。線路の下に上下の揺れをキャッチしてエネルギーに変える装置を仕掛け、発電装置にもつなげる。鉄橋はより振動が大きいので、同じような装置を仕掛ければ発電量も増大する。装置が実現するのなら、一定の距離を乗客の快適性を犠牲にして意識的に振動幅を大きくし、発電量を引き上げるのも一案だ。上下の振動幅が大きい区間に乗っている乗客は当然不快さを感じることになるが、乗っている車両の下で発電していることを理解してもらえばいい。乗客全員がおのずとSDGs(持続可能な開発目標)に協力していることになる。私はこれを「電車振動発電」と命名する。

■自然災害をエネに

櫛田 愛心(産業能率大学経営学部2年、20歳)

ムダなもの、というより「なくなればいいもの」と言ったほうがいいかもしれない。その最たるものだと私が思うのは、自然災害だ。日本の法令では、自然災害には暴風や豪雨、豪雪、洪水、地震、津波、噴火などが含まれるとされる。残念ながら、こうした災害をゼロにするのは不可能に近い。ならば、自然災害の持つ膨大な力をエネルギーとして活用することを提案したい。脱炭素化の流れなどを背景に化石燃料への投資が停滞し、電力を中心としたエネルギー不足が問題になっている。自然災害の起こる日や時間を正確に予測することは現状では難しいが、今後の技術発展に伴って予測が可能になれば、災害から大きなエネルギーを得やすくなると考えられる。例えば落雷が予測できれば、被害を未然に防げるだけでなく、巨大な「電源」として活用する道が開けるのではないか。「自然の脅威」を「自然からの恵み」に変えることができれば、メリットは計り知れない。

■信号待ちで癒やし

加藤 雅凱(明治学院大学国際学部2年、20歳)

信号の待ち時間を使って心に余裕を取り戻すことを提案したい。普段、信号の待ち時間はすることがなく、ムダな時間として過ごすことが多い。たかだか1、2分だがこれがストレスの種だ。交通量が極めて少ない横断歩道の信号は無視しがちである。車が来ていないことを十分に確認すれば問題ないように思うが、信号を無視する習慣がつくと事故にあう確率は上がるし、信号を無視するような緊迫した状態は精神衛生上よくない。そこで信号機のそばでムダな時間を過ごせる工夫をしてはどうだろう。絵画、近所の店の宣伝、なぞなぞ、川柳、ゲームなどなんでもいい。「ぼーっと立っている時間」から「心を休める時間」に変えるのだ。実際にドイツでは、ピンポンゲームのようなミニゲームが楽しめる機器が設置されていて、横断歩道の向かいの人と対戦ができるそうだ。信号の待ち時間を、何かを楽しむ時間に変えることで人々の心身の健康につながるのではないだろうか。

【以上が紙面掲載のアイデア】

■ウェブ会議の待ち時間

福田 考宏(会社員、40歳)

コロナ禍によって、会議やセミナーをウェブ上で開催することが増えた。開始時間の前にログインする必要があるので、始まるまでは当然、待たされることになる。規模の大きなセミナーでは早めのログインを求められることも多く、待ち時間もおのずと長い。この時間、実にムダだ。「開始までお待ちください」の案内があるのはまだマシで、個別の打ち合わせでは参加者がそろうまで手持ち無沙汰になる。ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンのようなテーマパークでは、待ち時間を退屈させないように、行列に並ぶ人をアトラクションの世界に引き込むしかけが組み込まれている。これにならって、ウェブの特性を生かした時間の使い方を工夫できないだろうか。リアルの会議やセミナーでは前後をコミュニケーションにあてられたが、ウェブではそういう時間がとれない。最も可能性があるのは、CMなどを流す広告媒体としての活用かと思う。

■紙の利点を生かす

井上 まひる(駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部2年、20歳)

近年リモートワークの増加や電子媒体の普及に伴い、ペーパーレス化が進んでいる。ペーパーレスは環境にやさしく、ネット上で情報を共有する際なども効率が良い。また、手軽さなどから電子書籍の売り上げも増加傾向にある。このように「紙を使わない時代」になっており、紙をムダととらえる人も増えているように思える。しかし、紙はムダなのか、必要のないものなのかと考えると、そうではないと思う。紙は手元に残る、印象に残りやすいなどのメリットがある。そのため、メールよりも手紙の方が記憶に残りやすかったり、相手に気持ちが伝わりやすかったりする。また、紙の方が思いのままに書くことができるため、頭が整理されやすく、良いアイデアが思いつきやすい。このように紙にしかできないことや紙の方が良いこともたくさんある。ペーパーレス化が進む世の中でも、それぞれの利点を生かしながら使い分けていけたら良いと思う。

■廃棄野菜をインクに

徳永 薫(明治学院大学国際学部2年、20歳)

食品売り場に行けば色とりどりの野菜がきれいに陳列されていて、私たちは普段そういった野菜を食べている。一方、収穫段階で売り物にならないと判断された農作物や、皮や根など食べない部分などは廃棄される。こういったロスを減らすために、野菜の色素で作るプリンター用インクを提案する。最近は会社や学校を始め、家庭でもコピー機を使って印刷が頻繁にされている。廃棄野菜からインクを作れば原材料費を削減することができ、経済面、環境面に配慮できると考える。私は以前、桜で染められたTシャツを購入して植物本来の色素に魅了されたことがある。この経験から、野菜の色素を使用することでインクの色合いも野菜本来の自然な色味を出すことができ、色にバリエーションをもたらすことができると考えた。野菜を「食」として消費することは難しくても、別の形での消費に置き換えられればロスを減らせるのではないかと思う。

■捨て色シャドーが変身

佐藤 柚(産業能率大学経営学部2年、20歳)

私は、アイシャドーで使わない色をネイルに使えるよう変化させて、ムダを無くすことを提案する。アイシャドーのパレットには様々な色が入っているため、一部の色は使うが、ほぼ使わない色がどうしても出てきてしまい中途半端な残り方になる。現に、ある調査でアイシャドーを使い切ることができているかを女性約100人に聞いたところ、74人が「いいえ」と答えたという。つまり、ほぼ4人に1人は最後までアイシャドーを使い切れず、捨ててしまっている現状が分かったのである。アイシャドーだと自分に「似合う」「似合わない」があるため、使える色と使えない色が出てきてしまうが、ネイルなら幅広い色を使うことができるので、アイシャドーをネイルに変化させることによってムダをなくすことができると考える。アイシャドーには粉感やラメ感があり、もともとグラデーションになっているため、グラデーションネイルも簡単に作ることができる。

■駐車場で農業・漁業

福永 泰(自営業、72歳)

電気自動車(EV)、シェアリングサービスの発展、人口減で都市部に流入する車の量が減少すると、駐車場などの空きが出る。これを利用した「地産地消農業」「漁業革命」を目指す。農業の立体構造の生産はオランダで、陸地での養殖漁業はノルウェーで広がっているシステムを導入。都市部の消費地にシステムをつくり上げる。商品も農産物、魚介類という原料で流通させるのではなく、食材まで加工し、一時的に冷凍保存して消費者に供給する。これにより、消費量に応じて生産できるようになり、付加価値も増え食料廃棄の問題も解消に向かう。自動化で第1次産業従事者減少の問題にも貢献できる。再生可能エネルギーの供給量が余っている天気の良い日中に生産し、電力供給が逼迫する夕刻などは、電力を使わない栽培、養殖にする。例えば、日中の電気で温度を高め、低めにする先行制御で、夕刻には逆に電力を供給してエネルギー問題の解消にも利用する。

■空き家の活用

小宮山 渓花(明治学院大学国際学部2年、20歳)

国内で増え続ける空き家は社会問題でありムダである。だが活用次第でホームレス問題の解決、さらに路上生活者の社会復帰を後押しできるのではないか。空き家は少子高齢化の影響もあり増加している。空き家の問題点は、地域の治安悪化や老朽化した建物の倒壊、放火による火災などがある。空き家の解体は解決策のひとつだが、費用は最低でも数百万円程かかる。一方で、ホームレスは定住地がなく、生活保護を受けられないといった問題を抱える。そこで、空き家を取り壊すのではなく、ある一定年数放置した空き家は自治体が改装できるようにしてはどうか。ホームレスのための避難所として最低限の生活を送ることができるように改築するのだ。居住地があることで自治体などの保護を受けることが可能になり、心身の安定につながるのではないだろうか。また、路上生活者が新しい仕事に就くきっかけになるかもしれない。ムダな空き家も人の助けになるだろう。

■小さなムダためよう

井川 ともよ(無職、65歳)

冬になると気になるのが静電気。化繊のセーターなどを脱ぐときにパチパチという音とともに髪の毛が逆立つ経験をした方も多いだろう。こういった「ムダ」なエネルギーはちょっと考えただけでも生活のいたるところに存在する。例えば、身体を動かす時に衣服やスリッパなどから生じる摩擦や身体を動かすこと自体で発せられるエネルギー、ドアや引き出しの開け閉めや自転車などをこいでいる時に発するエネルギーなど。一つ一つは本当に小さいけれど、ちりも積もれば山となる。こんな小さなエネルギーを蓄積し、バッテリーに充電できるようなコンパクトな装置があれば省エネに貢献できるのではないか。歩いたり走ったりした分だけ電気代が少し安くなるようになれば、おっくうがって動かない人の運動不足解消になるかもしれない。あらゆるムダなエネルギーを蓄積・利用できるスマートフォンやスマートウオッチのようなデバイスが開発されたらいいと考える。

■害虫を食材に

高橋 健司(駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部2年、20歳)

私は農業で追い払うはずの害虫を食材として販売することを提案する。農業では大切な商品である野菜を守るために農薬を散布することで、本来寄り付くはずの虫を追い払っている。最近は無農薬野菜が重宝されているが、農業で生計を立てている人にとって虫が余計な存在なのは間違いない。一方で、乾燥させることで牛肉や豚肉などよりはるかに高いタンパク質含有率を誇る虫もあるといわれ、昆虫食は世界で注目されている。豊富なミネラルやビタミンなどを低糖質で摂取できるスーパーフードにもなり得る。一般的な家畜に比べても飼育時に排出される温暖化ガスがごく少量で済むなど、環境負荷が桁違いに小さいことも利点である。「虫を食べる」ことを、長い年月をかけて日本人に根付かせる努力が必要だが、同時並行で、アフリカや東南アジアなどの昆虫食が根付いている場所に格安で売ることで、その地域の人々に安定した栄養補給を提供できる。

■削りカスの新たな見方

高橋 樟(関東学院六浦高校2年、16歳)

私は鉛筆の削りカスがムダだと感じていた。鉛筆を削り終わり、鉛筆削りにたまったカスを見るたびにそのように思っていた。しかしこの削りカスは、木を生かしたデザインの商品の材料として利用することができるのではないかと考えた。木のデザインが使われる商品は、多く見かける。例えば、家具や机、椅子が挙げられる。私が見てきた木のデザインは、どことなく柔らかくて、優しい雰囲気を感じ、落ち着いた印象を受けた。そこでさらに鉛筆の削りカスをデザインとして利用することによって、今までにない木の印象を与えることができるのではないだろうか。削りカスは、他のものにはないような独特の形をしている。そうしたものがデザインとして採用されて商品になった時、新しいデザインの木を生かした家具や机などが誕生する。使う鉛筆削りの種類によって、削ってできるカスの形は異なるが、それは唯一無二の新しいデザインになる。

■CO2を利用せよ

相川 晴康(会社員、61歳)

世界中から最もいじめられ嫌われているものといえば、間違いなく二酸化炭素(CO2)だろう。地球温暖化の原因とされ、会議を重ねるたびに「削減だ」「排出を抑えるべきだ」と叫ばれている。さしずめ、いらないものランキング第1位の地位にあるといっていい。人体に危険を及ぼし、自然も破壊するなどと、負の面が注目されがちだ。現在でもドライアイスや消火器などに使われてはいるが、有益な使い方をもっと増やせないものだろうか。そもそもCO2は酸素と炭素の化合物。酸素はいくらでも活用できるはずだし、炭素だって捨てたものじゃない。例えば、ダイヤモンドは複数の炭素原子が立体的に共有結合したもので、非常に硬い。その強度を利用して、住宅の壁や自動車のボンネットなど、硬さが要求されるものに使えるだろう。CO2を削減する取り組みにばかり視点を向けるのではなく、再利用する方法が確立できれば、急速に温暖化を防げるのではないか。

日本精工・市井明俊社長の講評

今回の課題は、身の回りのムダを何かに使えないかという、これまでの未来面になかった、いわば変化球のような問いかけでしたが、読者の皆さんは見事に打ち返してくれました。

「線路の枕木で発電」は面白い発想です。振動を運動に変え、発電する技術は、日本精工が将来、実現できるかもしれません。毎日運行している電車が枕木を通過する時の振動は、積み重ねればエネルギー源になります。鉄橋に発光ダイオード(LED)電球を配置して、電車が通過するたびに発生する振動を電力に変えて発光すれば、夜間には美しい鉄橋の風景が見られるでしょう。

「自然災害をエネに」は、災害大国日本にとって、永遠の課題と言えます。台風の襲来や落雷など、かなり的確に予想できるようになってきました。現在は、暴風になると風力発電はむしろ安全のために停止せざるを得ませんが、将来、風を制御できれば、風力発電の効率は大きく改善するかもしれません。火山活動などで発生する熱をうまくコントロールできれば、大きなエネルギー源になります。地球の内的エネルギーの活用と災害の防止を同時に実現できたら、こんな素晴らしいことはありません。

「信号待ちで癒やし」も、ぜひ実現したいアイデアです。待ち時間というストレスになりかねないものを、リラックスできる時間に変えることができれば、待つという行為が楽しくなります。

病院の診察待ち、人気のお店の行列など、日常生活には様々な待ち時間があります。コロナ禍でオンライン会議が増えましたが、参加者がそろうまで、パソコンの前での待機時間は持て余します。会議の開始前のちょっとの時間に、参加する人たちがリフレッシュできたり、発想を刺激するような映像や音楽などのサービスが提供できたりすれば、心も頭もすっきりして、今までにない活発なオンライン会議になるかもしれません。

◇――――――――――◇

今回の市井明俊社長からの課題は、読者にとって頭の体操になったことと思います。まずムダなものを探し、それをどう生かすのか。2段階で考える必要がありました。じっくり吟味したためでしょうか。読者からの提案は重複が少なく、興味を引かれるものが多かったです。

使わないアイシャドーのネイル転用、使い捨てマスクを衣料やバイオマス燃料にするなど、再利用を促す提案も目立ちました。野菜の切れ端を染料にしたり、鉛筆の削りかすを活用したデザインなど、想像するだけでワクワクするようなアイデアもありました。

(編集委員 鈴木亮)

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