売れない日本の防衛装備品 輸出促進、利益率向上に課題
編集委員 坂本 英二

日本が6日に神奈川県沖の相模湾で開いた国際観艦式。岸田文雄首相による各国艦艇の観閲が粛々と進んだ後、護衛艦「いずも」に乗り込んだ国内外の参加者から大きな拍手が起きた。
行事を締めくくる「展示訓練」。最新鋭の潜水艦が浮上・潜航を繰り返し、哨戒機「P1」がフレア射出、救難飛行艇「US2」が着水・離水を披露した。招かれた各国の外交官や武官、メディア関係者らに日本が誇る装備品の性能をアピールした。

安倍政権が「防衛装備移転三原則」を決めたのが2014年4月。武器輸出を原則禁じてきたルールを改め、日本の安全保障に資する場合の海外移転や国際共同開発に道を開いた。しかし政府や防衛産業が当初、期待したような成果はこれまで上がっていない。
有望株とみられたオーストラリア向け潜水艦や英国向け哨戒機は他国に競り負け、引き合いが多い救難飛行艇も条件面で折り合わない。完成装備品の海外移転は20年夏、三菱電機製の警戒管制レーダー(4基で約1億ドル)のフィリピン国防省との契約のみだ。
なぜ日本の装備品はこうも売れないのか。大手メーカーに聞き取り調査した経験もある自民党の松川るい元防衛政務官の評価は明確だ。「少量生産で価格が高く、海外に輸出することを前提にした生産体制ができていない。自衛隊用をダウングレードして売れるようにしないと。防衛装備移転三原則の手かせ足かせがたくさんあり、見本品すら簡単に渡せない。政府にも前面に立って企業を支える体制がない」
首相や浜田靖一防衛相は「防衛産業はわが国の防衛力そのものだ」と繰り返し、国内基盤の強化に強い意欲を示している。ロシアのウクライナ侵攻をみれば、有事の際の弾薬、装備品の補給と増産体制がどれだけ戦況と継戦能力を左右するかがわかる。
まずは国内の生産基盤の体力をどうやって保つかだ。国内で防衛事業から撤退した企業は、過去20年で100社を超えるとされる。20年度の防衛関連調達額は約2.5兆円。日本の工業生産額全体の1%以下にとどまる。政府は限られた予算の中で海外から最先端の戦闘機や無人機、ミサイル防衛システムなどを優先的に調達してきた。

売上高と並んで利益水準も重要だ。防衛装備品の契約時の利益率は7~8%とそう悪くないように見える。しかし関係者によれば「これは原価計算上の利益率であり、契約を履行していく過程で物価上昇や納期遅れの影響などを受ける。実績ベースの営業利益率は2~3%というのが実態だ」という。
世界の軍需産業のトップ10に名を連ねる米国や中国の大手とは経営規模、防衛事業の比重において大きな格差があり、国内メーカーは人材や予算を優先的に振り向ける状況にない。加えて近年は「防衛事業を手掛けることでサイバー攻撃の標的とされ、防御のための費用もかさむ」(防衛省幹部)。

政府・与党は「5年以内の防衛力の抜本的な強化」を掲げる。防衛産業の強化も柱の一つであり、①長期契約と成果に応じた利益水準②装備品の輸出を促す三原則の規制緩和と官民協力の体制整備③研究開発の支援強化――などの検討を急いでいる。
日本は戦前に優れた戦闘機や軍艦などの建造能力を誇り、戦後も高い技術力の軍事転用が諸外国から警戒された時期があった。防衛産業のテコ入れは極めて重要だが、紛争当事国に武器を高く売りつけるような国のあり方は選択すべきでない。日本の安全を守り、友好国の平和と安定にも資する総合的な戦略が求められている。
[日経ヴェリタス2022年11月20日号掲載]
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