[社説]ゼロコロナ緩和に動く中国に必要な反省

中国政府が新型コロナウイルスを厳しく抑え込む「ゼロコロナ」政策を緩和している。国民の要求に応じた望ましい動きである一方、患者急増に医療体制が追い付かず、工場稼働も停滞ぎみだ。混乱の主因は科学を軽視した政治主導のゼロコロナ政策をあまりにも長く続けた判断ミスにある。習近平国家主席をトップとする中国はまず反省すべきである。
2020年1月初旬、湖北省武漢市はコロナ患者であふれていた。それなのに情報は隠蔽され、世界的な大惨事の引き金をひくことになった。中国指導部は、一連の反省から地域を丸ごと封鎖し、市民の行動も制限するゼロコロナに踏み切り、厳格に実施してきた。
それから3年近く、中国は何をやっていたのか。猶予を使って有用なワクチン接種を進め、医療体制を整えるのが防疫医療の考え方だ。だがゼロコロナ大成功を自画自賛するばかりでウイルス学の基礎を無視した。PCR検査の厳格な実施は時間稼ぎにすぎず、それ自体が本来の目的ではない。米欧の有用なワクチンを導入する機会も政治的理由で逃してしまった。
政治から独立して科学的に提言すべき医学専門家が、習氏の顔色ばかりうかがい科学軽視の発言を続けたのも言語道断だ。そのツケが今、回ってきている。習政権が表彰した感染症専門家、鍾南山氏がオミクロン型について「インフルエンザと変わらない」と今ごろ指摘したのは耳を疑う。この数年、ゼロコロナを支持してきた発言との矛盾をどう説明するのか。
ひょう変ぶりについて「中国の専門家は政治動向を見てウイルスより素早く変異する」という非難もある。非科学的なゼロコロナで多くの人が職を失った現状を考えても、不満は当然だろう。
11月末、北京、上海など各地でゼロコロナ撤廃を求める「白紙運動」が起きた。一部では習氏の退陣を求める声まで聞かれた。この白紙運動が、政府側から譲歩を引き出す結果になったことで、現時点で動きは止まっている。
とはいえ今後、身近な不満を政府にぶつける大衆運動が頻繁に起きる可能性もある。選挙がない独裁体制では、国民が自らの要求を政府に認めさせる手段はデモの他にない。中国共産党・政府は、一般民衆の切実な要求を吸い上げる民主的な手段を早急に整備すべきだ。そうでなければ、第2、第3の白紙運動が起こりうる。