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書籍が開く人的資本経営 自律社員、人脈づくりに一役

企業の社員が読書をスキルアップに生かし様々な読書支援サービスが登場するなど、「ビジネス読書」を巡る取り組みが広がっている。世界のリーダーには読書家が多い。知識集約型産業がグローバル経済の中心となり、知識や能力を高め人脈づくりにも役立つ読書が注目される。自主的に学び行動する自律型人材を増やし、企業価値向上につなげる新たな人的資本経営の試みが進む。 

夜に1冊、同僚と読む

2021年 12月の夜7〜9時、富士通でオンライン読書会が開かれた。パソコン画面に社員ら有志 30人ほどの顔が並ぶ。参加者はまず、課題の本のタイトルや目次などを見て自分なりの「問い」を作る。問いは6つに分かれたグループに割り振られ、各グループが答えを文中に求め、著者になり切り発表する段取りだ。

「読む時間は7分です」ファシリテーター(司会)役の同社デザインセンター経営デザイン部の加藤正義氏の声が響く。「目次しか読んでない」「私はパラパラ」。そんな声が相次ぐ。瞬く間に時間が過ぎる。それでも同僚と課題を持ちつつ集中して本と向き合うのは新鮮だ。「2時間で概要を読んだ実感を持てる」と参加したデジタルシステムプラットフォーム本部グループITソリューション推進部の久我聡子氏は話す。

加藤氏が社員によるこのオンライン読書会を始めたのは同年3月。デザイン力をイノベーションの創出に活用する「デザイン経営」に同社が乗り出した背景がある。20年7月にデザイン思考を実践するコミュニティーをオンライン上に作った。その2840人のメンバーを中心に参加を募る。「他社のコミュニティーとも連携し、交流を広げる」と加藤氏は意気込む。

富士通の読書会のベースにあるのは、人材教育会社アルマ・クリエイション(東京・渋谷)が提唱する「リード・フォー・アクション」と呼ぶ読書法だ。同社の神田昌典社長は「本をきっかけに自己変容を起こし、自分の目的に向かって一歩を踏み出す読書会」と説く。

神田氏が「変容型読書」と称し重視するのは「読書会を通じて自ら問い、意見を生み出し、行動を起こす力を養う」ことだ。新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが浸透する中、「オンライン読書会はグローバルに広がっている」と言う。

会員制図書館が進化

キャリア・転職支援のライボ(東京・渋谷)の「Job総研」が昨秋まとめた読書実態調査によると、「読書をする理由」と「よく読むジャンル」の回答トップはそれぞれ「自身の成長のため」、「ビジネス・経済」だった。

ソフトウェア・システム開発・販売のSCSKは、 半期単位(年2回)で、業務時間外の自己研さん活動を申請すると、申請者全員に「学びの機会」として図書カードを提供している。

同社は「コツ活」と呼ぶ活動を通じて、社員が主体的に学び続ける企業文化を育てている。自身の成長につながる活動ならば、読書や公的活動も幅広く「学び」として評価していく方針だ。      

読書を通じた学びを支援するサービス事業も進化している。森ビルの会員制図書館アカデミーヒルズは21年7月、館内のスペース利用だけで月9900円だった会費を同1万4000円に改定し、すべてのイベントや読書会に無料で参加できるようにした。「コロナ禍で交流を求める会員が多く、オンラインイベントを充実させた」と森ビルのアカデミーヒルズ運営部ライブラリー事務局課長の熊田ふみ子氏は話す。

東京都港区の六本木ヒルズ森タワー 49階、六本木ヒルズライブラリーは隈研吾氏がデザインした。館内には最新のビジネス書から古典や洋書まで1万2000冊が配架され、風格がある。「会員に薦めたい本を選んで入れ替えている」(熊田氏)。すべての会員が個人資格で、閉館間際まで数十人が利用しているという。

最近は「カタリスト・トーク」に力を入れている。「つながりを見直す」イベントで、「触媒」を意味する各界の「カタリスト」7人が講演。テーマの理解につながる本をウェブサイトや書棚で毎回紹介している。

読書会を販促に活用

ビジネス書の出版・販売も手掛ける日本能率協会マネジメントセンター(JMAM、東京・中央)は、「ブックス&コミュニティー」と称し、読者とコミュニティーを作り、販売促進につなげている。アクティブ・ブック・ダイアローグ協会(ABD協会、京都市)の読書会の手法「ABD」をマーケティングに取り入れたのが特徴だ。対話重視の読書会で、参加者が本1冊を分担して読み、著者になりきり紹介し合う。

JMAMは各地で開催されるABD読書会にビジネス書のゲラを無償提供している。ゲラを分担して読んでもらえば、その本への関心が強まり、販促につながる。「ゲラで部分読みされると本が売れない気もするが、実際は全部読みたくなる人が多い」と出版事業本部長の黒川剛氏は言う。

リクルートマネジメントソリューションズ(東京・品川)は、編集工学研究所(同・世田谷)の探究型読書(クエスト・リーディング)の手法を導入。読書で思考法を鍛える企業向け研修に乗り出した。「著者の問いや見方を主体的に拾い読みし、その思考モデルを借りて、自分で考え、問いを出す」(編工研主任研究員の橋本英人氏)。自律型人材を求める企業が多い今、需要は大きいと両社はみる。 

世界のリーダー、骨太の本好む


 出版科学研究所によると、2021年の書籍推定販売金額は 15年ぶりに増加した。ビジネス書も多数発刊されたが、世界のビジネスリーダーと日本のビジネスパーソンとでは手に取る本が違うようだ。ビジネス書に詳しいマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏に聞いた。         
「日本では手軽で読みやすいノウハウ本を読みあさる傾向がある。当面の目的に役立っても、考える力が深まるかは分からない。一方、世界のビジネスリーダーは骨太の理論書や偉人の伝記を読んでいる。自分の能力を高める本だ。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏はジョナサン・ハスケル、スティアン・ウェストレイク共著『無形資産が経済を支配する』、米テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏はアダム・スミスの『国富論』を推薦書に挙げる。『国富論』は古典だが、ビジネス本来の在り方が書いてある。スミスには道徳的価値を重視した考え方があり、ビジネスの基本になる」
 「最近は地球環境や人間の幸福が課題だ。斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』やユヴァル・ノア・ハラリ氏の『ホモ・デウス』が読まれる理由だ。ビジネス書の範囲に哲学や倫理学が入ってきた。経営のかじ取りが変われば読むべきビジネス書も変わる」

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