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地球規模の気候問題 目標と現実 一致めざせ

NIKKEI脱炭素(カーボンZERO)委員会 第4回円卓会議

日本経済新聞社は、脱炭素社会の実現を確実に進めるために始めた「NIKKEI脱炭素(カーボンZERO)プロジェクト」の一環で、NIKKEI脱炭素委員会の第4回円卓会議を2021年12月上旬に都内で開いた。10月末から英北部グラスゴーで開催された第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に参加したメンバーがそれぞれ感想を述べた。会議では、プロジェクトの最終宣言取りまとめに向けて議論を重ね、エネルギー問題の分科会や表彰制度を新たに設けることを確認し、合意した。

COP26踏まえさらに議論

円卓会議では現地に赴いたメンバーがそれぞれ意見や感想を述べた後、質疑応答の形で参加者が活発に議論した。COP26の「グラスゴー気候合意」は①気温上昇を1.5度に抑える努力を追求②22年末までに30年の削減目標を再検討③排出削減対策の取られていない石炭火力の段階的削減へ努力――などが主なポイントに挙げられる。

努力目標の「1.5度」は事実上、世界の共通目標になった。地球の平均気温は産業革命前に比べすでに約1.1度高いという。世界の二酸化炭素(CO2)排出量を30年までに10年比45%削減、今世紀半ばには実質ゼロにし、その他の温暖化ガスも迅速かつ持続的に削減する必要がある。

現状、各国の目標を合算すると温暖化ガス排出量は30年に10年比13.7%増えるとされ、目標の見直しは避けられない。石炭火力の段階的な「削減」は議長案の「廃止」からは修正されたが、合意文書での明文化を評価する声は多いようだ。

プロジェクトはCOP26に先立ち中間宣言をまとめたが、年度末の宣言公表に向けた作業を進める。円卓会議では、カーボンZERO委員会の委員長、高村ゆかり東京大学未来ビジョン研究センター教授がCOP26を踏まえ、宣言取りまとめのため①エネルギー②自然資本③金融④ガバナンス(企業統治)――の4点で議論を深める必要があると提案した。

参加者からは、素材の脱炭素化やカーボンプライシングもテーマにすべきだとの意見が出た。30年の削減目標を再検討する過程で「国際社会の理解を得るうえでも、石炭火力の問題は避けて通れない」「選択肢を示す必要がある」との声もあり、エネルギー問題の分科会を開くことを決めた。

プロジェクトとしてまとめる宣言は、3月をめどに公表する予定だ。

アワード新設 活動を継続支援


 プロジェクトは脱炭素社会の実現を後押しする活動を表彰する制度を設けた。脱炭素の実現に向けた技術の研究開発、アイデア、政策提言といった意欲的な取り組みについて独自性などを総合的に評価し、その活動を継続的に支援する目的だ。
 「2021年度NIKKEI脱炭素アワード」として、企業、団体、自治体、個人などを幅広く対象とし、1月末まで応募を受け付けている。
 プロジェクト、アイデア・政策提言、研究の3部門について①地域特性を生かした多様なモデル実現②エネルギーシステムの根本的な転換③エネルギー需要側の取り組み④建築物の脱炭素化⑤自然保護や共生⑥金融制度改革⑦環境配慮促進型の商品開発――を主な審査ポイントに据える。
 審査はカーボンZERO委員会の一部委員が担当し、公平を期すためプロジェクト参画企業は関与しない。結果は3月にも日本経済新聞の紙面や電子版で発表する。

「1.5度目標」表舞台に

カーボンZERO委員長 東京大学未来ビジョン研究センター教授 高村ゆかり氏

COP26では産業革命前に比べ世界の平均気温上昇をセ氏1.5度以内に抑える「1.5度目標」が表舞台に上がった。合意文書にも「決意をもってこの達成に向けて取り組む」と書かれた。同時に30年ごろまでの排出削減が決定的に重要との認識を示したことが特徴的だ。

各国の30年目標を積み上げると、排出量はむしろ増えてしまうのが実情だ。現実と目標のギャップをどう埋めるか。50年のカーボンニュートラル達成に向け、日本の政策も30年までに何をするのかが評価ポイントとして問われることになる。

1.5度目標の合意は各国の政策もさることながら、企業の気候変動リスク対応にそのインパクトが表れてくる。金融・投資家などによる投融資ポートフォリオのネットゼロのコミットメントも格段に進んだ。

クリーンエネルギーへの転換、自動車、国際支援、海運、森林、農業、メタンなどテーマごとに様々なイニシアチブが立ち上がった。米国務省と世界経済フォーラムの官民パートナーシップは、需要家たる企業が新技術の初期の需要を喚起することで、新たな市場を創出することをめざしている。大変印象的な取り組みだ。

開示基準の議論も活発に

プロジェクト参画企業 EY Japanリージョナル・アカウンツ・リーダー 滝沢徳也氏

EYではグローバルでCEO(最高経営責任者)を含む約70人が現地入りし、50を超えるイベントに参加。関係者やクライアントとのミーティングは500回を超え、内外メディアの取材にも応じた。SNS上には350万のアクセスがあり、関心の高さがうかがえた。

個人的には初参加だったが、現地ではエネルギーを感じた。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんが演説したのはEYのグラスゴーオフィス前にある広場。かなりのメンバーが窓からのぞいていた。

COP26のスピード感を揶揄(やゆ)する声もあるが、進むことが重要と考えれば一定の成果はあったといえる。気温上昇抑制の目標は完全に1.5度にシフトし、期日も30年が標準化。規制環境の変化にスピード感が出ており、動向には注意を払う必要がある。

場所が英国だったこともあり金融分野の動きが顕著だった。COP26開催にあわせ国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立が発表され、開示基準の議論を収れんさせる機運を感じた。日本でも気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿って議論が活発になりそうだ。

合意文書に「石炭」、画期的

カーボンZERO委員 三菱UFJリサーチ&コンサルティング経営企画部副部長/プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト 吉高まり氏

COPには10年以上毎年行っているが、画期的だった。議長提案で合意文書に盛り込まれた「石炭」は最後に削られるとみていたが残った。この影響は相当だ。「排出量取引」の交渉をリードしたのは日本の交渉官。日本企業のためにもなるため高く評価すべきだ。

日本企業はジャパンパビリオンなどで技術力をアピール。各国ブースでも、水素やカーボンリサイクルなど革新的な技術が示されていた。外交交渉は石炭火力が中心だったが、世界はもっと先に進んでいると感じた。

パリ協定での合意について「やる」ことは決まったが、メカニズムとして動かすのはこれから。カーボンクレジットに対する見方は厳しくなった。途上国は資金源にしたいと強く望み、欧州は取引価格を下げようとしている。どの国もすぐにはカーボンニュートラルを達成できないことから、効果的なクレジットシステムが求められる。

議長国の英国は存在感を示すため、水素と酸素の化学反応で発電して動く燃料電池車(FCV)などの新技術を訴えていた。製造工程でCO2を取り除くブルー水素を推進していることが背景にあるとみられる。

日本の政策、政府は説明を

カーボンZERO委員 日本経済新聞社編集委員兼論説委員 安藤淳

パリ協定が合意された15年のCOP21以降、COP24を除いて毎回行っているが、その中では一番熱気を感じた。理由の一つはNGOや若者が大勢訪れ、あちらこちらで発信していたことだ。

対照的に、もう一つ印象に残ったことは中国の存在感が非常に薄かったことだ。これまでのCOPでは中国政府の気候変動対策の幹部が政策を宣伝していた。今回はパビリオンすらなく、やる気のなさを感じた。

合意文書については「1.5度目標」が前面に出てきた。「石炭火力発電の段階的削減」が盛り込まれたが、英国が議長国だからこそできたのだろう。会議の運び方がやや強引だという声もあったが、議長の手腕はさすがだと感じた。

日本の発信は弱かった。会場を歩いても環境相の名前はほとんど聞かなかった。技術への期待は高い。日本は石炭火力発電をいきなりやめられないため、当面「ゼロエミッション火力」をめざす。環境相がジャパンパビリオンで記者会見を開き、こうした政策をきちんと説明すればよかった。

温暖化の緩和策には多額の資金が必要だ。途上国が先進国に対して求めているが、すでに約束した分を果たせていない。そうした中で、今後は民間の資金に頼らざるを得ないだろう。脱炭素をどうビジネスにつなげるかも含め、民間資金の在り方が注目される。

環境技術発信、存在感示せ

プロジェクト協力ユース団体 Climate Youth Japan 田中迅さん 柳沢暦花さん

若者の動きが加速度的に年々広がっていることを実感した。しかし日本のユース団体からグラスゴーに派遣されたのは合計で10人程度にすぎず東アジアで最少だった。新型コロナの問題があったとはいえ中国、韓国、シンガポール、マレーシアは20人程度ずつが訪れていた。日本の少なさが目立ったことは大きな問題だ。日本のユースが取り残されてしまう恐れがあると危機感を覚えた。

他の国・地域は市民団体やNGOのみならず、企業が幹部候補社員や公認した若者を派遣している。また、COP26のために知識や技術を駆使したプレゼンテーションを用意したうえでそれぞれ意見を表明していた。これが日本との決定的な差であり、今後もこの差が開いていくのではないかと心配している。

一方で、日本は技術的に潜在能力の高い国として海外から認識されていることも感じた。発電効率の高い火力発電や水素エネルギー、防災技術、CO2の回収・利用・貯留(CCUS)といった先進的な環境技術に対する海外の関心は高い。

こうした技術に関する情報を積極的に発信していくことが極めて重要になると感じた。日本の技術を活用し、世界で温暖化ガスの削減を進めることが私たちの国に求められている立場だ。気候変動対策で日本が存在感を高めていくことにもつながると思う。

問題意識、彼我の差実感

プロジェクト協力ユース団体 Fridays For Future Japan 原有穂さん 岩野さおりさん

気候ムーブメントの変化を紹介したい。我々の運動はスウェーデンから始まったこともあり、これまで西洋や先進国が中心だった。しかし今回のCOP26では、気候変動で最も影響を受ける人々と地域を指す「MAPA(Most Affected People and Areas)」にフォーカスが当たったと感じた。先住民やアジア、ラテンアメリカ、アフリカから来た人々に加え、環境活動家が前面に出ていた。

11月5日のマーチではMAPAの人たちが通りの中心を歩き、気候変動対策で彼らに配慮すべきだとのメッセージを掲げていた。地球温暖化の緩和策のみならず、植民地主義や人種問題など幅広く包括的な問題意識を持っている若者が多い。

植民地時代の奴隷制は形を変えて今も続いている。農業に従事している人が多く、気候変動の影響を受けやすい。そういう現状を変えていきたいというのが彼らのメッセージだ。日本では気候変動対策というとエネルギー問題の議論に終始しているが、世界の主張をみると気候変動対策の一部にすぎない。有色人種や女性が気候変動の被害を受けることは日本にいると想像しづらいことだ。

一方で日本、中国、韓国といった東アジアの活動家が現地ではあまり見られなかった。温暖化ガスなどこの地球に対して影響が大きい国々にもかかわらず、若者が少なかったのは懸念材料だ。

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カーボンゼロ

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