「流浪の月」の李相日監督 「他者を拒絶する壁高い」

前作「怒り」から6年あいた。「一つの区切り。次にどこに向かうか。納得できるものになかなか出合えなかった」
凪良ゆう原作「流浪の月」(公開中)は元誘拐犯と被害女児の再会の物語。世の白眼視をよそに孤独な2人は相寄る。
「美しい物語だなと素直に思った。美しいって虚構なんだと。シビアな今の世の中を映しながら美しい寓話(ぐうわ)になった」
画面も美しい。雲、月、水、木、鳥……。撮影監督に「パラサイト」「バーニング」のホン・ギョンピョを起用した。
「松本の空はホンさんの目に新鮮に映った。雲や月の見え方が韓国と全然違うという」「ホンさんは登場人物さえ意識していない感情の揺らぎを絵の中に介在させる。単にきれいな絵なのでなく、主眼は人物に置いている。映っている人間の密度を深めるために光を探している」
社会から疎外された人々を描くという点は、デビュー作から一貫している。
「渦中にいる人とそうでない人の間に壁がある。事実と真実の壁。その壁はインターネットの発達で逆に高くなった」
「壁は高いが垣根がない。いつ自分がどちら側になるかわからないという不安がある。自分が正しいと思って言って通っていたことが、ある瞬間から間違っていると言われる側になってもおかしくない。他者を拒絶する壁は高い。曖昧だけど存在していた社会通念というものが崩壊しかかっていて、短絡的に白黒つける。でも世の中の大半はグレーではないか」
だからこそ映画の2人は美しい。
「2人のありよう、選択の仕方が潔く見えた。ただ関係性が純粋というだけでなく、そういった現代のくびきから飛び出す。そのことが美しいんじゃないかなと思う。
(古賀重樹)